業務上必要かつ相当な範囲とは?パワハラ3要素の2つ目を例で解説
「業務上必要かつ相当な範囲」とは、仕事のために必要で、しかもその伝え方ややり方が社会通念に照らして相当といえる範囲のことです。パワハラの3要素の2つ目で、厚生労働省のパワハラ指針は、この範囲を超えた言動を「明らかに業務上必要性がない、またはその態様が相当でないもの」と説明しています。範囲に収まる指示や指導はパワハラに当たりません。この記事では、指針が判断の要素として挙げる項目を一覧にし、それを自分の記録の書き方につなげます。
業務上必要かつ相当な範囲とは:指針の定義と4つの例
この言葉は、労働施策総合推進法第31条1項の条文に出てきます。条文は、優越的な関係を背景とした言動で、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、労働者の就業環境が害されることのないよう、事業主に措置を義務づけています。言葉の中身を説明しているのは、パワハラ指針です。
指針は、範囲を超えた言動を「社会通念に照らし、当該言動が明らかに当該事業主の業務上必要性がない、又はその態様が相当でないもの」とし、次の例を挙げています。
| 指針の例 | 読み解き |
|---|---|
| 業務上明らかに必要性のない言動 | そもそも仕事と関係がない(業務と無関係な私的な雑用の強制など) |
| 業務の目的を大きく逸脱した言動 | 仕事の話の形をとっていても、狙いが別のところにある |
| 業務を遂行するための手段として不適当な言動 | 目的は仕事でも、やり方が不適当(威圧、罵倒など) |
| 当該行為の回数、行為者の数等、その態様や手段が社会通念に照らして許容される範囲を超える言動 | 1つひとつは小さくても、量や人数が度を超えている |
この表から分かるように、範囲は「必要性」と「相当性」の2つで見られます。必要性がなければそれだけで範囲外になり得ますし、必要性があっても手段や回数が相当でなければ範囲を超えることがあります。
指針が挙げる7つの考慮要素の一覧
指針は、範囲を超えるかどうかを判断する際に、さまざまな要素を総合的に考慮するとしています。挙げられている要素を一覧にしました。
| 考慮要素(指針の言葉) | 具体的に見られる点の例 |
|---|---|
| 当該言動の目的 | ミスの是正か、退職に追い込むなど別の狙いか |
| 当該言動を受けた労働者の問題行動の有無や内容・程度を含む当該言動が行われた経緯や状況 | 遅刻や重大なミスがあったか、その大きさはどの程度か |
| 業種・業態 | 安全に直結する現場か、事務職場か |
| 業務の内容・性質 | 一刻を争う作業か、時間をかけて教えられる仕事か |
| 当該言動の態様・頻度・継続性 | 声の大きさ、言葉の中身、何回・どれくらいの期間か |
| 労働者の属性や心身の状況 | 経験年数や年齢、外国人であるか、心身の不調や障害の有無(パンフレットの例) |
| 行為者との関係性 | 直属の上司か、評価や配置を決める立場か |
指針はさらに、労働者の行動が問題となる場合には、その内容・程度とそれに対する指導の態様等の相対的な関係性が重要な要素になると付け加えています。小さな入力ミスに対して人前で長時間怒鳴るのと、重大な安全違反に対して強く注意するのとでは、同じ「強い注意」でも釣り合いが違う、という考え方です。厚労省のパンフレットは続けて、労働者に問題行動があった場合でも、人格を否定するような言動など範囲を超えた言動があれば、パワハラに当たり得ると明記しています。
業種や業務の性質が入っているのは、同じ強さの言葉でも、危険を伴う現場で事故を防ぐために即座に強く制止する場面と、時間をかけて説明できる場面とでは、相当といえる範囲が変わり得るからです。自分の職場の特徴も、判断の材料の1つになります。
「該当する例」と「該当しない例」で見る範囲の線
指針は6つの類型ごとに、該当すると考えられる例と、該当しないと考えられる例を並べています。2つ目の要素がよく表れている組み合わせを抜き出しました。
| 類型 | 範囲に収まると考えられる例 | 範囲を超えると考えられる例 |
|---|---|---|
| 精神的な攻撃 | 再三注意しても遅刻などが改善されない人に、一定程度強く注意する | 業務の遂行に関し、必要以上に長時間の厳しい叱責を繰り返す |
| 人間関係からの切り離し | 新規採用者の育成のため、短期間集中的に別室で研修する | 意に沿わない人を仕事から外し、長期間別室に隔離する |
| 過大な要求 | 育成のため、現状より少し高いレベルの業務を任せる | 業務と関係のない私的な雑用を強制的に行わせる |
| 過小な要求 | 能力に応じて、一定程度業務内容や業務量を軽減する | 嫌がらせのために仕事を与えない |
左右を見比べると、同じ「別室」「高い業務」「仕事を減らす」でも、目的(育成か嫌がらせか)、期間(短期間か長期間か)、程度(一定程度か必要以上か)で分かれていることが分かります。ただし、厚労省のパンフレットは、例と少し異なるからといって、それだけで該当する・しないが決まるわけではないとも説明しています。例は判断の目安で、限られた一覧ではありません。6類型の全体はパワハラ6類型の早見表で確かめられます。
考慮要素を自分の記録に書き残す方法
考慮要素は、会社の担当者や相談窓口が事実を確かめるときに見るポイントでもあります。だからこそ、記録の段階で要素ごとに書き残しておくと、後で説明し直す手間が減ります。
- 目的の手がかり:言動の前後に起きたこと(退職や異動の話題、評価面談、特定の人だけが対象か)。
- 経緯と自分の行動:きっかけになったミスや遅れがあれば、その内容と大きさ。隠さずに書く。
- 業務の内容:そのときの作業、締め切り、安全上の事情。
- 態様:相手の言葉をそのまま、声の大きさ、物に当たったか。
- 頻度・継続性:同じ種類の言動が何回目か、いつから続いているか。
- 自分の状況:入社何年目か、体調、通院の有無。
- 相手との関係:直属の上司か、評価権限があるか。
書き方の例:「目的の手がかり:前日の面談で『異動を考えたら』と言われた。経緯:日報の提出が30分遅れた(今月2回目)。態様:『給料泥棒』と言われた。頻度:同じ言葉は今月3回目。」
日時・場所・目撃者を含めた基本の書き方は、パワハラの記録の書き方の記入例にまとめています。2つ目の要素だけで判断が終わるわけではなく、3つ目の「就業環境が害される」とあわせて見られます。その中身は「就業環境が害される」とはの解説で、指導との比べ方はパワハラと指導の違いを5つの視点で見る記事で扱っています。記録がそろったら、社内の窓口や総合労働相談コーナーで、第三者の目で見てもらう段階に進めます。
よくある質問
Q. 「業務上必要かつ相当な範囲」は法律の条文に書かれている言葉ですか?
はい。労働施策総合推進法第31条1項に「業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの」という文言があります。条文は事業主が講じる措置の対象を定めたもので、中身の説明や例はパワハラ指針(令和2年厚生労働省告示第5号)に書かれています。2026年10月1日の改正前は第30条の2でした。
Q. 会社の業績が厳しいときの高いノルマは、範囲を超えますか?
指針は、繁忙期に業務上の必要性から通常より一定程度多い業務を任せることを「該当しないと考えられる例」に、新卒者に必要な教育をせず到底対応できない業績目標を課し、達成できないと厳しく叱責することを「該当すると考えられる例」に挙げています。目標の高さだけでなく、教育や支えの有無、達成できなかったときの扱いを分けて記録しておくと、相談先で判断材料になります。
Q. 自分の勤務態度に問題があった場合は、どんな注意でも範囲内ですか?
そうとは限りません。指針は、労働者に問題行動がある場合、その内容・程度と指導の態様などの相対的な関係性が重要な要素になるとしています。問題行動の大きさに見合わない態様の言動は、範囲を超えると判断される余地があります。
出典・参考にした公的な情報
出典の確認日:2026-10-23。制度や受付条件は変わることがあります。手続きの前に、各窓口の最新の案内を確認してください。
この記事は一般的な情報で、個別の法律判断・医療的な診断をするものではありません。