内部通報はバレる?匿名で通報するときの注意と報復への備え
内部通報がバレないよう、法律と指針はいくつかの歯止めを置いています。通報を受けて調査する担当者(従事者)には、通報者を特定させる事項を漏らさない義務があり、違反すれば30万円以下の罰金です。会社には、通報者を特定させる情報を必要以上に共有しない措置や、通報者探しを防ぐ措置が求められています。それでも、出来事の内容から推測される場合、従事者以外の人に話していた場合、従事者を定める義務のない300人以下の会社では、通報者が分かってしまう可能性は残ります。このページでは、守られる範囲と守りきれない範囲、匿名で通報するときの注意、報復を受けたときの相談先を順に示します。
内部通報はバレる?法律が守る範囲と、守りきれない場面
公益通報者保護法第12条は、従事者(またはかつて従事者だった人)が、正当な理由なく、業務で知った公益通報者を特定させる事項を漏らすことを禁じ、第21条で30万円以下の罰金を定めています。さらに、内閣府の指針(令和3年内閣府告示第118号)は会社に対し、次の措置を求めています。
- 通報者を特定させる事項を、必要最小限の範囲を超えて共有させない(範囲外共有の防止)
- やむを得ない場合を除き、通報者を特定しようとする行為をさせない(通報者の探索の防止)
- 範囲外共有や通報者の探索をした人に、懲戒処分その他の適切な措置をとる
消費者庁の指針の解説は、調査のきっかけが通報だと関係者に気づかせない工夫の例として、抜き打ちの監査を装う、該当部署以外にも同じ調査をする、核心部分ではなく周辺部分から調べ始める、などを挙げています。
| 場面 | 守られ方 |
|---|---|
| 会社が指定した従事者が、通報者の名前を周りに漏らした | 第12条の守秘義務に反する。罰則(第21条)の対象 |
| 従事者以外の社員が、通報者を探そうと聞き回った | 指針は会社に防止の措置と、行った人への懲戒などを求めている。今の公益通報者保護法に、探索そのものを罰する条文はない |
| 出来事が自分一人に向けられたもので、内容から通報者が推測された | 法律の守秘義務では防ぎきれない。調査の進め方の工夫が頼り |
| 通報する前に、同僚に「通報するつもり」と話していた | 従事者の守秘義務は及ばない |
| 窓口ではなく、従事者に指定されていない上司に話した | 通報として扱われうるが、罰則つきの守秘義務は従事者に指定された人にかかるもので、上司が指定されていなければ及ばない。会社は、上司も範囲外共有の防止の対象に含めるよう求められる(解説) |
| 常時300人以下の会社で、従事者が定められていない | 従事者の指定と体制の整備は努力義務。守秘の仕組みは会社しだい |
解説は、通報者が望まなくても調査を行うことは原則として可能だとしています。その場合も、調査の前後で通報者と連絡をとり、プライバシーなどの利益が害されないよう配慮することを会社に求めています。ハラスメントの被害者が自分で通報するときは、とくに「内容から推測される」場面に当たりやすくなります。解説も、被害者と通報者が同じ事案では、通報者を特定させる事項を共有する前に、書面などで本人の同意を得ることが望ましいとしています。
匿名で通報するときの注意:できることと限界
匿名の通報は受け付けてもらえます。消費者庁の指針の解説は、匿名の通報も受け付けることが必要だとし、匿名でも法律の要件を満たす通報は内部公益通報に含まれるとしています。匿名の通報者と連絡を取る方法の例として、個人が特定されないメールアドレスでの連絡や、外部窓口から会社に氏名を伝えない仕組み、専用のシステムが挙げられています。
一方で、匿名には次の限界があります。
- 調査が進みにくい。 追加の事実を聞けないと、会社は裏付けを取りにくくなります。
- 結果を知らせてもらいにくい。 解説は、匿名で通知が困難な場合を、結果の通知をしなくてもやむを得ない例に挙げています。
- 推測は防げない。 名前を書かなくても、出来事の内容・時期・書き方から分かってしまうことがあります。
匿名を選ぶなら、連絡の手段を一つ残しておくのが現実的です。もう一つの方法は、名前は書いたうえで「氏名は調査に必要な最小限の方以外に伝えないでください」と共有の範囲を指定するやり方です。こちらは調査や結果の通知を受けやすく、範囲外共有の防止の措置にも乗せやすくなります。内部通報の仕組みそのものは、前の記事内部通報制度とは?パワハラを通報するときの保護と相談窓口との違いで説明しています。
通報者だと分かりにくくするための準備
通報する前に、次の点を確かめておきます。
- 内部通報規程を読み、窓口が社内か、社外の委託先や親会社か、匿名で受け付けるかを確かめた
- 経営陣や窓口の担当部署の人が関わる事案なら、独立した窓口(社外の窓口・監査役など)があるかを確かめた
- 通報することを、窓口以外の社内の人に話していない
- 書面に、名前を伝えてよい範囲の希望を書いた
- 出来事の記録の原本を自分の手元に置き、写しだけを添えることにした
- 通報した日、窓口からの連絡、その後の配置や評価の変化を書き留める準備をした
指針は、経営陣に関係する事案では経営陣からの独立性を確保すること、事案に関係する人を対応に関わらせないことを会社に求めています。上司や役員が関わる出来事なら、その人が通報を見る立場にないかを、窓口に尋ねてから出すと安心です。
会社の外へ出す方法と保護の条件の違いはパワハラを告発する方法:社内通報・外部窓口・報道の違いと注意点で扱っています。労働基準監督署への申告で名前がどう扱われるかは、労働基準監督署への相談は会社にバレる?匿名相談と申告の違いにまとめています。
報復を受けたとき:保護の根拠と相談先
通報の後に、配置換え、評価の引き下げ、仕事を外される、無視されるといった扱いが始まったら、まず日付と内容を記録します。公益通報を理由とする解雇は無効で(第3条)、降格・減給・退職金の不支給その他の不利益な扱いは禁じられています(第5条)。会社が、通報で損害を受けたとして通報者に損害賠償を求めることもできません(第7条)。ただし、いまの公益通報者保護法には、不利益な扱いをした会社や個人を罰する条文はありません。
公益通報者保護法の改正は、2026年10月24日時点では未施行で、2026年12月1日に施行される予定です。消費者庁の概要によると、施行後は、正当な理由のない通報者探しが禁じられ、通報から1年以内の解雇・懲戒は通報を理由とするものと推定されます。通報を理由に解雇・懲戒をした人には6月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金、法人には3,000万円以下の罰金が設けられます。
報復を受けたときの相談先は、次のとおりです。
| 相談先 | できること |
|---|---|
| 消費者庁 公益通報者保護制度相談ダイヤル(03-3507-9262、平日9:30〜12:30・13:30〜17:30、土日祝・年末年始は休み) | 法律の解釈、通報を理由とする不利益な扱い、通報先の行政機関などの相談。匿名で相談できる。個別の通報は受け付けていない |
| 都道府県労働局 | 解雇・配置転換・嫌がらせなど、会社との争いの相談と、助言・指導やあっせん |
| 弁護士 | 解雇の無効や損害賠償など、個別の法的な見通し |
通報ではなく、ハラスメント相談窓口に相談したことを理由に不利益な扱いを受けた場合は、労働施策総合推進法第31条第2項が禁じています。相談後に扱いが悪くなったときの整理はパワハラを相談して悪化したら:報復・不利益な扱いへの対処、労働局の番号と時間はパワハラの相談窓口一覧:電話番号・受付時間・できることの早見表で確かめられます。通報や相談そのものに踏み出せないときは、次の記事パワハラを相談するのが気まずい・迷うとき:小さく始める相談の方法を参考にしてください。
よくある質問
Q. 通報した後、上司から「誰が通報したんだ」と聞き回られています。どうすればいいですか?
消費者庁の指針は、通報者を特定しようとする行為(通報者の探索)を防ぐ措置を、通報窓口のある会社に求めています。聞き回られた日時・相手・言葉を記録し、通報窓口に「通報者探しが行われている」と伝えます。会社が動かないときや不利益な扱いが始まったときは、公益通報者保護制度相談ダイヤルや弁護士に相談します。
Q. 退職した後に前の会社へ通報しても、名前が知られることはありますか?
退職後1年以内の通報は、公益通報者保護法の保護の対象で、窓口の従事者の守秘義務も同じように及びます。ただ、在職中の出来事の内容から通報者が推測されることは、退職後でも起こりえます。退職後は社内の立場への影響は小さくなる一方、名前を伏せたままだと調査の結果を知らせてもらいにくくなります。
Q. 匿名で通報したら、調査はしてもらえますか?
消費者庁の指針の解説は、匿名の通報も受け付けることが必要だとし、匿名であっても法律の要件を満たす通報は内部公益通報に含まれるとしています。ただ、追加で事実を聞けないと調査が進みにくく、結果の通知も届きにくくなります。連絡先として個人が特定されないメールアドレスを使うなど、やり取りの手段を残しておくと進めやすくなります。
出典・参考にした公的な情報
- 公益通報者保護法 第3条・第5条・第7条・第11条・第12条・第21条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 公益通報者保護法第11条第1項及び第2項の規定に基づき事業者がとるべき措置に関して、その適切かつ有効な実施を図るために必要な指針(令和3年内閣府告示第118号)(消費者庁)
- 公益通報者保護法に基づく指針(令和3年内閣府告示第118号)の解説(消費者庁)
- 公益通報者保護法と制度の概要(令和7年改正・令和8年12月1日施行)(消費者庁)
- 公益通報者保護制度相談ダイヤル(一元的相談窓口)(消費者庁)
- 労働施策総合推進法 第31条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
出典の確認日:2026-10-23。制度や受付条件は変わることがあります。手続きの前に、各窓口の最新の案内を確認してください。
この記事は一般的な情報で、個別の法律判断・医療的な診断をするものではありません。