記録と証拠 / Q&A

パワハラの証拠に期限はある?時効と記録を残しておく期間の目安

この記事のもくじ
  1. パワハラの証拠に期限はある?期限があるのは「請求」の側
  2. 手続きごとの時効:期間と数え始めの早見表
  3. 時効が迫っているときの扱い:催告と、あっせん・調停の後の30日
  4. 記録を残しておく期間の目安
  5. 長く保管するときの注意とチェックリスト

パワハラの証拠そのものに有効期限はありません。何年前の記録でも、事実を示す材料であることは変わりません。期限があるのは、証拠を使って行う請求や手続きの側です。会社や加害者への損害賠償は民法で、労災の給付は労災保険法で、未払いの残業代は労働基準法で、それぞれ時効の期間が決まっています。

証拠をいつまで残すかは、自分が使う可能性のある手続きの期限から逆算するのが基本です。このページでは、手続きごとの時効の期間と数え始めを早見表で示し、時効が迫ったときの扱いと、記録を残しておく期間の目安を整理します。個別の事情でどの期間が当てはまるかは、記録を持って弁護士などに確かめてもらう前提で読んでください。

パワハラの証拠に期限はある?期限があるのは「請求」の側

証拠が古くなって困るのは、期限が切れることよりも、記憶が薄れ、材料が手元から消えていくことです。会社のメールは退職すれば見られなくなり、同僚は異動し、会社の書類も保存期間を過ぎれば処分されることがあります。

一方、請求の期限(時効)を過ぎると、証拠がどれだけそろっていても、その請求は難しくなります。だから「証拠に期限はない、でも請求には期限がある。証拠は請求の期限までに整える」と覚えておくと迷いません。

手続きごとの時効:期間と数え始めの早見表

早見表:パワハラに関係する主な時効
請求・手続き 条文 期間 数え始め
加害者・会社への損害賠償(不法行為) 民法第724条 3年 損害と加害者を知った時から
同上(生命・身体を害した場合) 民法第724条の2 5年 損害と加害者を知った時から
同上(長期の上限) 民法第724条 20年 不法行為の時から
会社への損害賠償(安全配慮義務違反など債務不履行) 民法第166条 5年/10年 権利を行使できると知った時から5年、行使できる時から10年
同上(生命・身体の侵害) 民法第167条 10年が20年に 権利を行使できる時から
労災の療養・休業の給付 労災保険法第42条 2年 行使できる時から(休業は賃金を受けない日ごと)
労災の障害・遺族の給付 労災保険法第42条 5年 行使できる時から
未払いの残業代などの賃金 労働基準法第115条・附則第143条 3年(当分の間) 支払期日から
名誉毀損罪・侮辱罪の告訴 刑事訴訟法第235条 6か月 犯人を知った日から

表を読むときの注意が3つあります。

  • 会社への請求は、2つの組み立て方がありえます。 不法行為(民法第709条・第715条)と、安全配慮義務違反などの債務不履行です。どちらで考えるかで時効の期間が変わるので、どちらが当てはまるかは弁護士と相談して決めます。
  • 心身の不調が「生命・身体を害した」に当たるかは、個別の判断です。 うつ病などになった場合に5年や20年の扱いになるかを、自分で決めつけないでください。
  • 労災の休業の給付は、日ごとに時効が進みます。 厚生労働省のパンフレットは、休業の給付は賃金を受けない日ごとに請求権が発生し、その翌日から2年で時効になると説明しています。古い日の分から順に請求できなくなるので、退職後に考える場合も早めに動く必要があります。

時効の全体像はパワハラの時効は何年?、労災の要件はパワハラによる精神障害の労災認定で詳しく扱っています。

時効が迫っているときの扱い:催告と、あっせん・調停の後の30日

時効が近いときに、期間の進み方に関わる仕組みがあります。

  1. 催告(請求の意思を相手に伝えること):民法第150条により、催告があった時から6か月を経過するまでは時効が完成しません。ただし、その6か月の間にもう一度催告しても、さらに延びることはありません。
  2. 労働局のあっせんの打ち切り:あっせんで解決せず打ち切られた場合、打ち切りの通知を受けた日から30日以内に同じ請求で訴えを起こせば、時効の完成猶予について、あっせんを申請した時に訴えたものとみなされます(個別労働紛争解決促進法第16条)。パワハラの措置義務をめぐる調停にも、同じ趣旨の定めがあります(労働施策総合推進法第38条が準用する男女雇用機会均等法第30条)。

あっせんや調停を申請しただけで時効が止まるわけではありません。打ち切り後30日以内に訴えを起こすことが条件です。あっせんの流れは労働局のあっせんの流れにあります。時効が数か月以内に迫っていそうなら、記録を持って早めに弁護士に相談してください。

記録を残しておく期間の目安

法律に「パワハラの記録は何年保管せよ」という決まりはありません。そこで、使う可能性のある手続きの期限から考えます。

状況 残しておく目安(筆者の考え方)
在職中で、まだ何も決めていない 続けて記録し、すべて残す。どの手続きを使うか決まっていないため
退職した・異動して離れた 少なくとも、表のうち自分に関係しそうな請求の期限が過ぎるまで
労災を申請した・考えている 給付の手続きが終わるまで。審査請求などに進む可能性も考えて残す
会社や加害者に請求した 手続きが終わった後も、再び同じことが起きたときの経過を示す材料として保管

あわせて、会社側の記録の保存期間も意識しておきます。会社は労働者名簿・賃金台帳・雇入れや解雇・賃金に関する重要な書類を保存しなければなりませんが、その期間は本則5年に対し、当分の間3年です(労働基準法第109条・附則第143条)。会社の勤怠や賃金の記録を使いたいなら、この期間内に開示を求めるなどの手を打つ必要があります。

記録の量や続け方の目安はパワハラの記録はどのくらいの期間必要?で扱っています。

長く保管するときの注意とチェックリスト

何年も残す記録は、保存の形にも気を配ります。

チェックリスト:長く保管する記録の確認
  • メールやLINEは、端末の故障や機種変更で消えないよう、印刷か別の場所へのバックアップをとった
  • 録音は元のファイルを編集せずに保管し、保存した日を記録した
  • 紙のメモは原本を封筒にまとめ、写しを別の場所に置いた
  • 診断書・診察券・領収書・お薬手帳の写しをまとめた
  • 会社に相談した日・相手・回答の記録をまとめた
  • 退職日、診断を受けた日など、時効の数え始めに関わりそうな日を一覧にした

保存の手順は、退職や異動の前ならパワハラの証拠保全、置き場所はパワハラの記録の保管方法を参考にしてください。すでに退職した人が今から集め直す方法は、次のパワハラで退職した後に証拠を集めるにまとめています。

よくある質問

Q. 何年も前のパワハラの証拠でも、相談に持って行けますか?

持って行けます。古い出来事でも、記録を見せて事情を話せば、どの請求の時効がどう関係するかを相談先と一緒に整理できます。時効は「出来事の日」ではなく「損害と加害者を知った時」などから数えるものもあるので、自分で諦める前に記録を持って相談してください。

Q. 退職した会社に、昔の勤怠記録は残っていますか?

会社には、労働者名簿・賃金台帳・賃金などに関する重要な書類を保存する義務があり、期間は当分の間3年です(労働基準法第109条・附則第143条)。3年を過ぎた記録は残っていないこともあるので、必要になりそうなら早めに開示を求めるか、自分の手元の給与明細などを保管しておきます。

Q. 記録はいつ捨ててもいいですか?

請求や手続きをしないと決めて、関係するすべての期限が過ぎるまでは残しておくのが安心です。手続きをした場合は、それが終わったあとも、再発したときの経過を示す材料になりうるので、すぐに捨てる必要はありません。

出典・参考にした公的な情報

出典の確認日:2026-10-24。制度や受付条件は変わることがあります。手続きの前に、各窓口の最新の案内を確認してください。

この記事は一般的な情報で、個別の法律判断・医療的な診断をするものではありません。

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