教員が保護者のカスハラを受けたとき:学校・教育委員会に求める対応
保護者からの暴言や過度な要求に困っている教員は、まず「正当な申入れ」と「範囲を超えた言動」を分け、そのうえで学校と教育委員会に組織としての対応を求めるのが基本です。2026年10月1日から、カスタマーハラスメント(カスハラ)への対応は、すべての事業主の義務になりました。「モンスターペアレント」という呼び方は法令や指針の用語ではありませんが、同じ悩みは、指針のカスハラの考え方で整理できます。
保護者の言動は、カスハラの指針でどう整理されるか
厚生労働省のカスハラ指針(令和8年厚生労働省告示第51号)は、カスハラを、顧客等の言動で、業務の性質その他の事情に照らして社会通念上許容される範囲を超え、労働者の就業環境が害されるもの、と定義しています。3つをすべて満たすことが要件です。「顧客等」には、施設の利用者とその家族が含まれ、例示の施設には学校も入っています。指針の文言から、児童生徒の保護者の言動も当てはまりうると読めます。
大切なのは、苦情のすべてがカスハラになるわけではない点です。客観的にみて社会通念上許容される範囲の申入れは、正当な申入れとして該当しません。範囲を超えるかどうかは、「言動の内容」と「手段や態様」の両方で見ます。どちらか一方だけが範囲を超えても、該当しうるとされています。
| 見る点 | 範囲を超えうる例(指針より) |
|---|---|
| 内容 | 要求に理由がない、契約等で想定する範囲を著しく超える要求、対応が著しく困難・不可能な要求、不当な損害賠償の要求 |
| 手段・態様(攻撃) | 殴る・蹴る・物を投げる、人格を否定する言動、SNSへの悪評投稿をほのめかした脅し、土下座の強要、無断での撮影 |
| 手段・態様(威圧・執拗さ) | 大声での威圧、同じ要求の執拗な繰り返し、長時間の居座りや電話での拘束 |
言動の頻度や継続性は考慮されますが、強い身体的または精神的苦痛を与える態様なら、1回でも就業環境を害することがありえます。一方、学校側の対応に不手際があって保護者が怒っているような場合は、指針も、事業主側の不適切な対応が原因や背景となっていることがあると注意を促しています。その場合は、まず学校の対応の見直しが先になります。
公立学校と私立学校で、法律の使い方が違う
カスハラの措置義務は、労働施策総合推進法の第33条です。事業主は、相談体制の整備や、抑止のための措置など、必要な措置を講じなければなりません。相談したことを理由とする不利益な取扱いも禁止されています(同条第2項)。
公立と私立の違いは、次のとおりです。
- 公立学校の教員(地方公務員):第31条〜第34条の措置義務は、条文上、適用除外とされていません。一方、労働局長の援助や調停(第35条〜第39条)は、地方公務員に適用されません。相談の窓口は、学校の管理職、教育委員会、人事委員会・公平委員会です
- 私立学校の教員:民間の労働者として、学校法人に措置義務があります。労働局の雇用環境・均等部(室)で、援助や調停の仕組みが使えます
公立学校でこの措置義務がどう運用されるかは、設置者である自治体の取り組みで違います。管理職に「教育委員会として、保護者対応の方針や相談窓口が定められていますか」と尋ねて、確かめてください。カスハラの法律の全体像はカスハラとは?定義と2026年10月から会社に課された措置義務にあります。
学校・教育委員会に求める対応の中身
指針には、事業主が定めておく対処の例が書かれています。教員一人の「我慢」で済ませず、組織の対応として求めるときの材料になります。次の質問を、管理職や教育委員会に投げてみてください。
- 管理職への報告と指示:保護者から過度な要求を受けたとき、直ちに管理職に報告して指示を仰ぐ流れが決まっているか
- 一人で対応させない:面談に複数で臨む、管理職が代わって対応するなどの方針があるか
- 録音・録画:面談や電話の内容を、個人情報保護に配慮しつつ記録する扱いになっているか
- 打ち切りの基準:十分に説明したうえで、要求が繰り返されたときに、一定時間で面談を終える、電話を切る、といった基準があるか
- 警察への通報:暴行、傷害、脅迫にあたりうる言動があったとき、通報する判断をだれがするか
- 専門家への相談:法的な手続きが必要になったとき、教育委員会や弁護士に相談できる体制があるか
指針では、特に悪質なものへの対処として、警察への通報、警告文の発出、出入り禁止などを例に挙げています。ただし、これは例で、「出入り禁止にできる」と保証するものではありません。義務教育の学校は、児童生徒を受け入れる役割があり、保護者を排除すれば済む場面ばかりではないため、面談の方法を変える、窓口を一本化するといった、段階を踏んだ対応から相談するほうが現実的です。
管理職に書面で伝えるときの文例です。
「〇月〇日以降、保護者〇〇様(A児)からの電話・来校が続いており、〇回の面談で〇〇という内容の発言がありました。一人での対応が難しい状況のため、次回から管理職の同席と、対応の記録を残す方法について、相談させてください。」
保護者対応の記録の残し方
組織に動いてもらう材料は、記録です。次の項目を、対応のたびに残します。
| 項目 | 例 |
|---|---|
| 日時・場所・時間 | 10月8日(水)17:10〜18:30、校長室 |
| 方法 | 来校、電話、連絡帳、メール |
| 同席者 | 教頭、学年主任 |
| 相手の言動 | 「責任を取って辞めろ」と3回言った、など言葉そのまま |
| 要求の内容 | 担任の交代、謝罪の文書など |
| 自分の対応 | 要求は受け入れず、後日回答と伝えた |
| 管理職への報告 | 報告した日時と、返ってきた指示 |
記録には、児童生徒の名前や家庭の事情をそのまま書かず、「A児」のように書き分けます。地方公務員には職務上知った秘密を守る義務があり(地方公務員法第34条)、記録の持ち出しや保管の方法は、学校の個人情報の取り扱いに従います。書き方は、パワハラの記録と共通する部分が多くあります(カスハラ被害を受けたときの対処:記録・報告・会社に求める対応)。
相談先と、体調がつらいとき
学校の中で対応が進まないときは、市町村の教育委員会、人事委員会・公平委員会の順に外へ出ます。職場の人間関係のパワハラとあわせて整理したいときは教師のパワハラ:校長・同僚からの被害の相談先(教育委員会・人事委員会)が使えます。
地方自治体の一般行政部門の職員を対象にした総務省のアンケートでは、窓口業務でカスハラを受けた人が多く、割合の全体は地方公務員のパワハラ:人事委員会・公平委員会への相談と措置要求にあります(教員だけの数字ではありません)。受けている人は少なくなく、一人で抱え込む必要はないという見方ができます。
眠れない、出勤前に動悸がする、といった状態が続くときは、受診して休むことも選べます。休職の手続きとお金は教員がパワハラで休職するとき:公立・私立で違う手続きとお金にまとめています。話を聞いてほしいだけのときは、働く人が使える電話・LINEの窓口もあります(仕事がつらい・限界のときの相談先:電話・LINEの窓口と受付時間)。
よくある質問
Q. 保護者からの苦情は、すべてカスハラになりますか?
なりません。指針は、苦情のすべてが該当するわけではなく、客観的にみて社会通念上許容される範囲で行われた申入れは、いわば正当な申入れとして該当しないとしています。言動の内容か、手段や態様のどちらか一方でも範囲を超えるなら該当しうる、という見方です。
Q. 公立学校の教員は、労働局にカスハラを相談できますか?
労働局長の援助と紛争調整委員会の調停は、地方公務員に適用されません。公立学校の教員は、学校の管理職、教育委員会、人事委員会・公平委員会が相談の窓口です。私立学校の教員なら、労働局の雇用環境・均等部(室)も使えます。
Q. 保護者を出入り禁止にしてもらえますか?
指針は、特に悪質な場合の対処の例として、警察への通報や警告文、出入り禁止などを挙げています。ただし、これは例であり、学校が実際に何をするかは設置者の判断です。義務教育の学校には、児童生徒を受け入れる役割もあるため、窓口の変更や面談の方法の見直しなど、段階を踏んだ対応から相談する考え方もあります。
出典・参考にした公的な情報
- カスタマーハラスメント防止対策に関する指針(令和8年厚生労働省告示第51号)(厚生労働省)
- 職場におけるハラスメントの防止のために(厚生労働省)(厚生労働省)
- 労働施策総合推進法 第33条・第34条・第35条〜第39条・第48条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 地方公務員のハラスメントに関する職員アンケート(総務省)(総務省)
- 地方公務員法 第34条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
出典の確認日:2026-10-24。制度や受付条件は変わることがあります。手続きの前に、各窓口の最新の案内を確認してください。
この記事は一般的な情報で、個別の法律判断・医療的な診断をするものではありません。