パワハラの録音を提出するとき:編集しない保存と文字起こしの作り方
パワーハラスメント(パワハラ)の録音を提出するときは、元の録音ファイルには手を加えずに保管し、相手に渡すのは複製にします。そのうえで、録音のどこで何が言われたかを書いた時刻メモと、聞いたとおりに書き起こした文字起こしを添えると、聞く側が短い時間で要点にたどり着けます。会社の相談窓口・労働局・弁護士・労働審判では求められる形が少しずつ違うので、提出先に合わせて組み合わせを変えます。出来事全体を時系列にまとめる方法はパワハラの時系列表の作り方にあり、このページは、録音を提出できる形に整えることに絞っています。
まず元のデータを守る:編集しない保存の手順
提出の準備でいちばん大事なのは、録った直後の状態のファイルを1つ残しておくことです。切り取り・音量調整・雑音除去などの加工は、すべて複製に対して行います。
- 元のファイルを編集しない。 編集する前にファイルを複製し、複製のほうを加工します。編集の保存画面に「上書き」と「別の録音として保存」のような選択肢が出たら、後者を選びます。
- 複製を2か所に置く。 私物のパソコンと、私物のUSBメモリや外付けの記録媒体など、端末とは別の場所に置きます。会社の機器やアカウントには置きません。
- ファイル一覧表を作る。 提出の前に、どの録音がいつのものかを一覧にします。
| ファイル名 | 録音日 | 開始時刻 | 長さ | 場所 | 主な相手 | 同席者 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 2026-09-12_第2会議室_課長面談 | 2026年9月12日 | 15:02 | 48分 | 第2会議室 | 課長 | なし |
| 2026-09-19_執務室_朝礼 | 2026年9月19日 | 9:00 | 12分 | 執務室 | 課長 | 課員8名 |
- 抜粋を作るなら、名前で区別する。 「2026-09-12_課長面談_抜粋_12分〜18分」のように、元のファイルのどこを切り出したかが分かる名前にします。
時刻メモ(インデックス)の作り方
数十分の録音を最初から聞いてもらうのは、相談先にとっても負担です。問題の発言が録音の何分何秒にあるかを書いた時刻メモを、録音ごとに1枚作ります。
| 録音の経過時間 | 話した人 | 発言(聞いたまま) | そのときの状況 |
|---|---|---|---|
| 00:03:15 | 課長 | 「こんなこともできないなら、明日から来なくていい」 | 資料の誤字を指摘された直後。机をたたく音あり |
| 00:11:40 | 課長 | 「お前の代わりなんていくらでもいる」 | ほかの課員3名が同じ部屋にいた |
| 00:25:02 | 自分 | 「どこを直せばよいか教えてください」 | 返事はなく、課長が退室 |
時刻メモには、自分の評価(「ひどい人格否定」など)は書かず、状況の欄に事実だけを書きます。発言がどの場面の出来事かを示すために、記録全体の流れを時系列にまとめた表があると、さらに伝わりやすくなります。作り方はパワハラの時系列表の作り方を参考にしてください。
文字起こしの作り方:自動の書き起こしを聞き直して直す
文字起こしは、問題の発言のある部分だけでも作っておくと、相談の場で読み上げたり、相手に読んでもらったりできます。手順は次のとおりです。
- 自動の書き起こしで下書きを作る。 端末の録音アプリや文字起こし機能に、日本語の文字起こしがあるかを確かめます。対応の有無や機種の条件は、Apple・Googleなど端末メーカーの公式ヘルプで確かめてください。なければ、録音を聞きながら自分で打ちます。
- 録音を聞きながら直す。 誤変換、話者の取り違え、抜けた言葉を直します。言いよどみや語気の強さも、「(大声で)」「(机をたたく音)」のように括弧書きで残します。
- 聞き取れない所は埋めない。 推測で言葉を補わず、「〔聞き取れず・約3秒〕」と書きます。
- 冒頭に録音の情報を書く。 ファイル名、録音日時、場所、話している人、文字起こしを作った日と作った人を書きます。
- 要約や感想は別の紙に。 文字起こしには聞こえたままを書き、自分の受け止めや説明は別のメモにします。
文例(文字起こしの冒頭):「ファイル名 2026-09-12_第2会議室_課長面談/録音日時 2026年9月12日15時02分から48分間/場所 本社第2会議室/話者 課長(A)、本人(B)/作成 2026年10月20日 本人。00:03:00〜00:12:00 の部分を書き起こした。」
提出先ごとの渡し方の違い
同じ録音でも、提出先によって、渡す範囲や形が変わります。迷ったら、渡す前に「どの形で出せばよいか」を相手に聞いて構いません。どこに出すと何に使われるかの全体像はパワハラの証拠はどこに出すかの早見表にまとめています。
| 提出先 | 渡すもの | 気をつける点 |
|---|---|---|
| 会社の相談窓口 | 録音の複製、時刻メモ、必要な部分の文字起こし | 渡した日・相手・ファイル名を記録。聞いた担当者と扱い方(誰が聞くか)を尋ねる |
| 都道府県労働局 | 相談時に持参。時刻メモと文字起こしを中心に | 労働局の制度は無料。会社のパワハラ防止措置をめぐる紛争は助言・指導・勧告(36条)や調停(37条)、いじめ・嫌がらせはあっせんの対象で、どちらかは労働局が受付で振り分ける |
| 弁護士 | 元データの複製一式、ファイル一覧表、時刻メモ、文字起こし、時系列表 | 録音全体を聞いてもらい、どれをどの形で出すかを相談する |
| 労働審判(地方裁判所) | 申立書に添える証拠として、弁護士と相談して整える | 原則3回以内の期日で審理を終える手続(労働審判法15条)。代理人は原則として弁護士(4条) |
労働審判は、裁判所の案内によれば非公開で行われ、申立書には当事者の間の交渉など申立てに至る経緯も書くよう求められています。期日が少ない手続なので、録音は時刻メモと文字起こしをつけて、短い時間で要点が伝わる形にしておくことが大切です。なお、労働審判の相手は会社(事業主)で、上司個人を相手にする手続ではありません。
最後に、提出は「外に出す」ことでもあります。録音には同僚や取引先の声が入っていることがあるので、提出先以外の人やSNSには渡しません。公開した場合の問題はパワハラの録音をSNSで公開していいかの記事で、録音の録り方そのものはパワハラの録音の仕方で扱っています。
よくある質問
Q. 録音のうち、パワハラの部分だけを切り取って提出してもよいですか?
聞いてほしい部分を抜き出した版を作るのは便利ですが、元の全体の録音も求められたら出せる状態にしておきます。抜き出した版には「抜粋」とファイル名に入れ、元のファイルの何分何秒からかを時刻メモに書きます。前後を切ると話の流れが分からなくなるので、問題の発言の少し前から少し後までを含めます。
Q. 文字起こしは、アプリや外部のサービスに任せてもよいですか?
自動の文字起こしは下書きとして使えますが、誤変換や話者の取り違えがあるので、録音を聞き直して直してから出します。外部のサービスに音声を上げると、同僚や取引先の声を含む録音が社外に渡ることになるので、保存や利用の扱いを規約で確かめます。端末の標準アプリの文字起こしで足りるなら、そちらを先に試します。
Q. 会社に録音を提出したら、返してもらえますか?
提出するのは複製にし、元のファイルは自分の手元に残しておけば、返してもらう必要がありません。渡した日・相手・ファイル名と長さを書いた受け渡しのメモを作り、できれば受け取ったことをメールなどで残してもらいます。
出典・参考にした公的な情報
- 労働審判法 第1条・第4条・第15条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 労働審判手続(裁判所)
- 個別労働紛争解決制度(労働相談、助言・指導、あっせん)(厚生労働省)
- 労働施策総合推進法 第36条・第37条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
出典の確認日:2026-10-23。制度や受付条件は変わることがあります。手続きの前に、各窓口の最新の案内を確認してください。
この記事は一般的な情報で、個別の法律判断・医療的な診断をするものではありません。