労働基準監督署への申告のしかた:申告書の書き方と相談との違い
労働基準監督署(労基署)への申告は、会社に労働基準法などの違反があるとき、その事実を労基署長や労働基準監督官に知らせて、調査と是正を求めることです(労働基準法104条1項)。「相談」が助言を受けるところまでなのに対して、申告は「調べて正してほしい」という意思を示す点が違います。この記事では、申告書に書く項目と記入例、窓口での伝え方、申告後の流れを順に説明します。
申告とは:相談との違いと、申告できる事実
申告と相談の違いは、労基署に何を求めるかです。
| 相談 | 申告 | |
|---|---|---|
| 求めること | 法律の扱いを知る、助言を受ける | 違反の事実を調べ、会社に是正させる |
| 名前 | 伏せたままでもよい | 名前の扱いは窓口で確かめる(希望は書面にも書く) |
| その後 | 自分で次の動きを決める | 監督官が調査に入ることがある |
| 根拠 | なし(窓口の業務) | 労働基準法104条 |
申告できるのは、労働基準法やそれに基づく命令に違反する事実です。たとえば次のようなものが当たりえます。
- 賃金が全額払われない、勝手に差し引かれる(24条は賃金の全額払いを定める)
- 1週40時間・1日8時間を超えて働かせているのに、時間外の割増賃金が払われない(32条・37条)
- 有給休暇を取らせない、退職証明書を出さない、解雇予告手当を払わない
会社に知られるかが心配な人は、先に労働基準監督署への相談は会社にバレるかで、相談・情報提供・申告の違いを確かめてから進めてください。
申告書に書く6つの項目と記入例
労働基準法104条は申告の方式を定めていないので、口頭でも書面でも申告できます。ただ、口頭だけだと日付や金額が抜けやすいので、次の6項目を1枚にまとめて持って行くと、監督官が事実をつかみやすくなります。署が様式を用意している場合は、それに書き写せば足ります。
- 申告する人:氏名・住所・電話番号・在職中か退職済みか
- 会社:名称・所在地・代表者名・自分が働く事業場(支店・工場など)の名称と所在地
- 働き方:雇用形態・入社日・職種・所定の労働時間・賃金の決め方
- 違反の事実:いつから、何が、どれだけ(時間・金額)
- 証拠:手元にある資料の一覧
- 求めること:調査と是正、名前の扱いについての希望
違反の事実の欄は、評価ではなく数字と日付で書きます。
記入例:「2026年4月から9月まで、毎月の残業は勤怠記録で40〜55時間あるが、給与明細では残業代の欄が毎月0円です。固定残業代の定めは、労働条件通知書にも就業規則にもありません。会社が支払っていない時間外の割増賃金の調査と、支払いの是正を求めます。」
求めることの欄には、名前を会社に伝えないでほしいかどうかも書いておきます。書面に残すと、窓口で口頭で伝えた内容とずれません。
申告の手順:準備から窓口まで
- 違反の事実を一つずつ書き出す。 残業代・休日・有給・退職時の賃金など、項目ごとに分けると、どれが労基法の問題かを監督官が見分けやすくなります。
- 証拠をそろえる。 給与明細、タイムカードや勤怠システムの画面の写し、自分でつけた出退勤のメモ、労働条件通知書、就業規則の該当部分、上司からの指示のメールなどです。原本は手元に残し、コピーを持って行きます。
- 会社の事業場を受け持つ労基署を調べる。 厚生労働省の「相談窓口の一覧」から、都道府県別の所在地と電話番号をたどれます。
- 行く前に電話する。 「申告をしたい」と伝え、担当者がいる日時と、持ち物・様式があるかを聞きます。受付時間や予約の考え方は労働基準監督署の相談は予約が必要かにまとめました。
- 窓口で、申告として扱ってほしいと伝える。 相談と受け取られると、助言で終わることがあるからです。
窓口での言い方の例:「今日は相談ではなく、労働基準法104条の申告として扱っていただきたくて来ました。残業代の未払いについて、事実と資料をまとめてきました。」
残業の記録がまだ少ない人は、サービス残業の強要がつらいときの記録の残し方を先に読むと、何を集めればよいかが分かります。
申告の前に考えておきたい3つの分かれ道
申告するかどうかを決める前に、次の3点で自分の状況を分けておくと、窓口での話が具体的になります。
| 分かれ道 | こうなら | 考えておくこと |
|---|---|---|
| 期限 | 未払いが古い月から続いている | 退職手当以外の賃金の請求は、当分の間3年(115条・附則143条)。古い月から順に期限が来る |
| 証拠の在りか | 勤怠記録が会社のシステムにしかない | 会社には賃金台帳などの重要な書類を保存する義務がある(109条、当分の間3年)。手元の写しやメモが少しでもあれば持って行く |
| 会社への請求 | まだ会社に払うよう伝えていない | 先に自分で請求するか、いきなり申告するかは自分で選べる。請求したならその文面と日付も資料にする |
会社に先に伝える場合の、本人が自分で送るメールの例です。
文例:「2026年4月から9月までの時間外労働の割増賃金が、給与明細に反映されていません。勤怠記録の写しを添えますので、未払い分の確認と支払いをお願いします。10月31日までにご回答ください。」
このメールに返事がない、または支払いを断られた経緯も、申告書の「違反の事実」の欄に日付つきで書き足せます。
申告した後の流れと、不利益取扱いの禁止
申告を受けた労基署は、必要と判断すれば調査に入ります。監督官は事業場に臨検し、帳簿や書類の提出を求め、使用者や労働者に尋問できます(101条)。労基署長や監督官は、使用者や労働者に報告や出頭を命じることもできます(104条の2)。監督官は、この法律に違反する罪について司法警察官の職務も行います(102条)。
申告した人に何が知らされるか、調査がいつ入るかは事案ごとに違うため、窓口で次の点を聞いてメモしておきます。
- 調査をするか、どの範囲で会社に資料を求めるか
- 結果や進み具合を、自分にどう伝えてもらえるか
- 追加の資料が出てきたら、どこへ出せばよいか
使用者は、申告をしたことを理由に解雇その他の不利益な取扱いをしてはならず(104条2項)、違反には6か月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金が定められています(119条)。申告の後に配置換えや減給などが起きたら、日付と内容を記録し、申告した監督署に伝えます。
労基署は会社の違反を正させる機関で、未払い分を代わりに取り立てたり、慰謝料を決めたりはしません。労基署にできることとできないことの全体は労働基準監督署ができること・できないことに、パワハラと労基法の問題が重なるときの窓口の分け方は労基署と労働局の違いにまとめています。
申告の前に、パワハラの部分を労働局に相談する道もあります。労働局のハラスメント相談窓口:雇用環境・均等部(室)でできることと総合労働相談コーナーとは?予約不要・無料でできる相談と次の手続きを見比べてください。
よくある質問
Q. 申告は口頭でもできますか?
労働基準法104条は申告の方式を定めていないので、窓口で口頭で伝えることもできます。ただ、日付・金額・時間などを正確に伝えるには、項目を書き出した紙を持って行くほうが伝わりやすくなります。署によって申告用の様式を用意していることもあるので、行く前の電話で聞いておきます。
Q. パワハラを労基署に申告できますか?
申告の対象は、労働基準法などに違反する事実です。暴言や無視などのパワハラそのものは、労働施策総合推進法の問題として労働局の雇用環境・均等部(室)が扱います。パワハラと一緒に起きている残業代の未払いや長時間労働は、労基署への申告の対象になりえます。
Q. 退職した後でも申告できますか?
104条は申告できる人を在職中に限っていません。退職後に未払いの賃金を申告する人もいますが、賃金の請求には期限があり、退職手当以外の賃金は当分の間3年です。申告と並べて、時効の考え方も早めに確かめておきます。
出典・参考にした公的な情報
- 労働基準法 第24条・第32条・第37条・第101条・第104条・第104条の2・第109条・第115条・第119条・附則第143条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 相談窓口の一覧(労働基準監督署の相談内容・受付時間)(厚生労働省)
- 労働基準関係情報メール窓口(厚生労働省)
出典の確認日:2026-10-23。制度や受付条件は変わることがあります。手続きの前に、各窓口の最新の案内を確認してください。
この記事は一般的な情報で、個別の法律判断・医療的な診断をするものではありません。