不当解雇で復職を求めるか金銭で解決するか:選ぶための材料
不当解雇を争うときの出口は、大きく**「元の職場に戻る(復職)」と「戻らずに金銭などで解決する」の二つ**です。どちらが正しいということはなく、本人の状況で決まります。参考になる事実として、公的な調査では、解雇をめぐる紛争の大半が、復職ではなく金銭解決で終わっています。この記事では、二つの道の仕組みの違いと、選ぶときに考える点を整理します。
復職を求める道と金銭で解決する道の違い
解雇が「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない」場合は無効になります(労働契約法16条)。無効なら、会社との雇用契約は続いていた扱いになるので、「労働者としての地位がある」ことの確認(地位確認)を求め、復職を目指すことができます。一方、戻らずに雇用を終え、解決金を受け取る形でまとめる道もあります。
| 比べる点 | 復職を求める | 金銭で解決する |
|---|---|---|
| 目的 | 元の職場・職位に戻る | 退職を前提に、解決金などで区切りをつける |
| 法的な主張の中心 | 解雇は無効で、雇用は続いている(地位確認) | 解雇の理由に問題があり、その負担を金銭で解消したい |
| 解雇中の賃金 | 解雇されなければ得られた賃金を請求する考え方がある(民法536条2項) | 解決金の額を考えるときの材料として扱う |
| 実際の例 | 少ない | 大半 |
| 向いている人 | 職場に戻って働き続けたい人、加害者が異動している人 | 職場に戻るのがつらい人、次の仕事に移りたい人 |
労働審判は、権利関係を確認し、金銭の支払いなどを命じることができる手続です(労働審判法20条)。調停による解決を目指す手続でもあるので、復職と金銭のどちらを軸にするかは、申立ての段階から整理しておくと話が進みやすくなります。手続の流れは「労働審判の流れ:3回以内の期日で終わる手続きとパワハラでの使い方」で説明しています。
公的な調査でみる、復職になった事案の少なさ
JILPT(労働政策研究・研修機構)の調査によると、争った事案の終わり方は次のとおりです。
| 制度(調査) | 復職を含む解決 | 雇用を続けない金銭解決 |
|---|---|---|
| 労働局のあっせん(令和5年度、解雇型485件のうち合意成立180件) | 2件(1.1%) | 178件(98.9%) |
| 労働審判(2020・2021年、1地裁) | 6件(0.8%) | 758件(96.6%) |
| 裁判上の和解(同期間) | 3件(1.1%) | 272件(96.5%) |
あっせんでは、請求の内容も金銭のみが83.0%で、金銭または復職が12.0%、復職のみは2.5%、金銭と復職の両方は2.3%でした。多くの人が、最初から金銭を軸にしていることが分かります。
この数字は「復職は無理」という意味ではありません。復職を強く望む人が少ない、あるいは金銭でまとまる事案が多いという実態を示すだけです。戻る意思があるなら、その意思を最初に弁護士や窓口へ伝えます。解決金の水準は「不当解雇の解決金に相場はある?公的な調査で分かることと準備」で整理しています。
戻る場合・戻らない場合に考えること
判断は、気持ちだけでなく、次の点を並べて見ると整理しやすくなります。
| 問い | 復職に傾く材料 | 金銭解決に傾く材料 |
|---|---|---|
| 戻って働きたい気持ちはあるか | 仕事・職場に愛着がある | 戻ることを考えるだけでつらい |
| 解雇の原因となった人間関係は | 加害者が異動・退職した、環境が変わった | 同じ上司や同僚のもとに戻ることになる |
| 心身の状態は | 回復していて働ける | 体調を崩しており、復職が回復を妨げる |
| 生活費の見通しは | 解雇中の賃金を請求して持ちこたえられる | 早く収入の道をつけたい |
| 次の仕事の見込みは | 同業種で転職しにくい | 別の職場の見込みがある |
復職を求める場合、解雇されてから結論が出るまでの間の賃金が大きな論点になります。民法536条2項は、会社の責めに帰すべき事由で働けなくなったとき、会社は賃金の支払いを拒めないと定めています。解雇が無効と判断されれば、働けなかった期間は会社の責任によるものと考えられるため、この条文が賃金請求の根拠として語られます。就労の意思があることが前提になるので、解雇後も「働く意思がある」ことを記録に残しておくのは、このためです。結論が出るまで数か月から1年以上かかる事案もあり、その間の生活費をどうするかも、復職を求める道を選ぶ前に考えておく点です。
戻る場合は、戻ったあとの働き方も考えておきます。戻る時期、配属、パワハラがあったときの再発防止の対応を、話し合いの中で文書に残してもらえるかが論点になります。パワハラが原因で解雇に至った場合は、会社の対応の記録をそろえておくと、戻った後の安心につながります。
戻らない場合は、金銭のほかに、次の項目も交渉の材料に入ります。
- 離職理由を「会社都合」に整えること(失業保険の扱いに関わる)
- 退職日と、それまでの賃金・有給の取り扱い
- 退職証明書や離職票の記載内容
- 解雇の理由に関する会社の説明や謝罪の有無
失業保険との関係は「パワハラで退職したときの失業保険:特定受給資格者になる場合と確かめ方」で確かめられます。
迷っている間にしておくこと
復職か金銭かが決まらなくても、次のことは今から進められます。
- 退職届や同意書に署名しない:自分から退職の意思を示すと、争う立場が弱くなるおそれがある(「不当解雇とは?解雇の有効性の考え方と通知されたらすぐすること」)。
- 働く意思を、記録に残る形で会社に伝える:解雇を認めていないことと、就労の意思があることをメールで残す。
- 解雇後の収入と支出を記録する:日付と金額。解雇中の賃金や解決金の話し合いで使う。
- 体調が悪いときは受診する:復職の可否は、主治医の意見を聞いて考える。
会社に出すメールの例:「○月○日付の解雇には、理由に納得できず、同意しておりません。就労の意思はあり、今後の扱いについて書面でご連絡ください。」
復職か金銭かは、話し合いの途中で変えることもできます。最初の希望を弁護士や窓口にそのまま伝え、見込みを聞いてから決めても遅くありません。パワハラの相談をしたことが理由で解雇された疑いがある場合は、「パワハラを相談したら解雇された:不利益取扱いの禁止と動き方」も読んでください。
よくある質問
Q. 復職を求めると、会社は元の職場に戻してくれますか?
解雇が無効とされれば、法律上は雇用が続いている扱いになります。ただ、実際に復職が決まった事案は多くありません。JILPTの調査では、復職で終わった事案は、労働局のあっせんの合意事案で1.1%、労働審判で0.8%、裁判上の和解で1.1%でした。復職を求めるときは、戻る場合の条件も含めて話し合うことになります。
Q. 戻りたくないのに、解雇に争う意味はありますか?
あります。解雇を争う目的は復職だけではなく、金銭による解決、離職理由の訂正、謝罪などの形でも示せます。調査でも、争った事案の大半は復職せず、金銭の支払いを中心とする形で終わっています。戻らない意思があるなら、それを前提に解決の形を弁護士や窓口と相談します。
Q. 解雇に争っている間に、他の会社で働いてもよいですか?
働くこと自体は妨げられません。ただし、解雇後に他の仕事で得た収入は、解雇の期間中の賃金を請求する場面で計算に影響することがあります(民法536条2項)。収入の記録を残し、新しい仕事を決める前に弁護士へ伝えておくと安心です。
出典・参考にした公的な情報
- 労働契約法 第16条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 民法 第536条第2項(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 労働審判法 第1条・第20条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 労働政策研究報告書No.237 労働局あっせんにおける解雇型雇用終了事案の分析(2025年12月25日)(労働政策研究・研修機構)
- JILPTリサーチアイ第78回 裁判所における解雇の金銭解決の実態 令和編(労働政策研究・研修機構)
- 労働審判手続(裁判所)(裁判所)
出典の確認日:2026-10-23。制度や受付条件は変わることがあります。手続きの前に、各窓口の最新の案内を確認してください。
この記事は一般的な情報で、個別の法律判断・医療的な診断をするものではありません。