労働審判の流れ:3回以内の期日で終わる手続きとパワハラでの使い方
労働審判は、会社との労働トラブルを地方裁判所で解決する手続きで、裁判官1人と労働関係の専門家2人の委員会が、特別の事情がない限り3回以内の期日で審理を終えます(労働審判法15条)。まず話し合い(調停)を試み、まとまらなければ委員会が「労働審判」という判断を示します。審判に2週間以内の異議がなければ確定し、異議が出れば訴訟に移ります。パワハラでは、会社に損害賠償や解決金の支払いを求める場面で使われますが、相手にできるのは会社などの事業主で、上司個人ではありません。
労働審判とは:誰と誰の、どんな争いを扱う手続きか
労働審判法1条は、対象を「労働契約の存否その他の労働関係に関する事項」についての、個々の労働者と事業主との間の民事紛争と定めています。解雇・雇止め・未払い賃金・退職をめぐる争いのほか、パワハラによる損害について会社の責任を問う争いもこの枠に入ります。
| 項目 | 労働審判の決まり |
|---|---|
| 申し立てる裁判所 | 相手方の住所・営業所の所在地、または自分が働いている(最後に働いた)事業所の所在地を管轄する地方裁判所など(2条) |
| 審理する人 | 労働審判官(裁判官)1人と労働審判員2人の労働審判委員会(7条) |
| 期日の回数 | 特別の事情がある場合を除き3回以内(15条) |
| 公開・非公開 | 非公開 |
| 代理人 | 原則として弁護士に限られる(4条) |
| 出せる判断 | 権利関係を確認し、金銭の支払いなどを命じることができる(20条) |
裁判所の案内では、本庁のほか東京地裁立川支部、静岡地裁浜松支部、長野地裁松本支部、広島地裁福山支部、福岡地裁小倉支部でも申立てを受け付けています。加害者個人を相手にできない点は、訴える相手の選び方に直結します。個人と会社のどちらに何を求めるかはパワハラで訴える相手は加害者個人か会社かで整理しています。
申立てから終わるまでの流れ
- 申立書を作る(当事者、申立ての趣旨と理由、申立てに至る経緯)→ 地方裁判所に出す
- 裁判所が第1回期日を指定(申立てから40日以内が原則)
- 第1回期日:争点と証拠を整理し、委員会が双方から事情を聞く。調停を試みる
- 第2回・第3回期日:調停の話し合いを続ける
- 調停成立で終了 / まとまらなければ労働審判が出る
- 審判の告知・送達から2週間以内に異議 → 異議あり:訴訟へ移行 / 異議なし:確定(裁判上の和解と同じ効力)
手順を順に見ます。
- 申立書を出す。 労働審判法5条で、申立書には当事者と「申立ての趣旨及び理由」を書きます。労働審判規則9条は、申立書に、予想される争点とその証拠、当事者間の交渉など申立てに至る経緯の概要も書くよう定めています。書式と記載例は裁判所のサイトに掲載されています。
- 第1回期日が決まる。 裁判所は、特別の事由がない限り申立てから40日以内の日を第1回期日に指定します。準備にあてられる時間は長くありません。
- 期日で審理と調停を進める。 15条は、委員会が速やかに争点と証拠を整理することを求めています。第1回から委員会が直接事情を聞くので、言い分と証拠は申立ての時点でそろえておくのが前提です。
- 審判が出る。 調停がまとまらなければ、委員会は審理の結果と手続の経過を踏まえて労働審判を出します(20条)。
- 異議か確定か。 21条により、審判の告知・送達を受けた日から2週間以内に異議を申し立てると審判は効力を失い、申立ての時に訴えがあったものとみなされて訴訟に移ります(22条)。異議がなければ、審判は裁判上の和解と同じ効力を持ちます。
なお24条は、事案の性質上、労働審判で扱うのが適当でないと委員会が認めるときは手続を終了できると定めており、この場合も訴訟に移ります。訴訟の進み方はパワハラ裁判の流れにまとめています。
どのくらいの期間で終わるか:裁判所の統計
裁判所の労働審判の案内によると、平成18年から令和6年までに終了した事件の平均審理期間は82.6日で、65.5%の事件が申立てから3か月以内に終わっています。
最高裁判所の「裁判の迅速化に係る検証に関する報告書(第11回)」は、令和6年の1年分の数字を載せています。
| 令和6年の労働審判事件 | 割合・期間 |
|---|---|
| 平均審理期間 | 96.7日(前回は90.3日) |
| 調停成立で終わった事件 | 65.6% |
| 労働審判で終わった事件 | 18.9% |
この数字はパワハラに限らず、解雇や賃金などを含む労働審判事件全体のものです。通算の平均(82.6日)と令和6年の平均(96.7日)は対象の期間が違うので、比べるときは年の範囲をそろえて読んでください。同じ報告書では、令和6年の労働関係の民事訴訟の平均審理期間は16.1月で、期間の面では労働審判のほうがかなり短い手続きです。
パワハラで労働審判を使うときの向き不向き
労働審判は短期間で終える代わりに、期日の数が限られます。裁判所も、争点が複雑で限られた期日での審理が難しい事案には向かず、訴訟に移ることがあると案内しています。パワハラの請求で検討するときは、次の分かれ道で考えると整理しやすくなります。
| 状況 | 労働審判との相性 | 理由 |
|---|---|---|
| 会社に損害賠償や解決金の支払いを求めたい | 合いやすい | 20条で金銭の支払いを命じることができ、調停での解決も図られる |
| 解雇・退職・未払い賃金の争いとパワハラが一緒になっている | 合いやすい | 会社との労働関係の争いをまとめて扱える |
| 録音・メール・記録などで出来事を示せる | 合いやすい | 第1回期日から証拠に基づいて争点を整理する |
| 上司個人に責任を取らせたい | 使えない | 相手方は事業主に限られる(1条) |
| 事実に大きな争いがあり、多くの同僚の証言が要る | 向かないことがある | 3回以内の期日では審理しきれず、24条で終了して訴訟に移ることがある |
| 会社が強く争い、審判に異議を出しそうな見込みがある | 見通しを相談したい | 異議が出れば訴訟に移り、期間が延びる |
会社に措置や是正を求めたいだけで、金銭の請求までは考えていない場合は、労働局の調停やあっせんも選択肢です。援助(助言・指導)・調停・あっせんは、厚生労働省の案内で利用は無料とされています。違いは労働局の調停とあっせんの違いで比べられます。パワハラで心身を崩して休職している人は、手続きの負担も考えて時期を決めてください。休職の進め方は適応障害・パワハラで休職するにはにあります。
申立ての前にそろえるもの
第1回期日で事情を聞かれるため、準備の大半は申立て前に終える必要があります。次のチェックリストで手元の材料を確かめてください。
- 出来事を日付順にまとめた時系列表(誰が・いつ・どこで・何を言った/したか)
- 録音、メール、チャット、メモなど出来事を示す証拠と、その一覧
- 会社に相談した記録(相談の日時・相手・会社の回答)と、会社がとった対応
- 就業規則、ハラスメント防止規程、雇用契約書、給与明細
- 通院の記録や診断書、休職・退職に関する書類
- 会社と交渉した経過(送った書面、やり取りの記録)
- 求めたいこと(金額とその内訳、退職・復職などの希望)
記録の残し方はパワハラの記録の書き方、証拠の種類はパワハラの証拠集めで確かめられます。申立ての手数料と弁護士費用は労働審判の費用にまとめました。代理人を頼む場合に確かめる点はパワハラを弁護士に相談するときの選び方を参考にしてください。
損害賠償の請求には期限(時効)もあります。申立ての準備に時間がかかりそうなときは、パワハラの時効は何年?で条文を確かめ、早めに弁護士や法テラスに相談してください。
よくある質問
Q. 労働審判は弁護士に頼まずに自分で申し立てられますか?
申立書を自分で作って地方裁判所に出すこともできます。代理人を立てる場合は、労働審判法4条により原則として弁護士に限られます。期日が少なく、第1回から事実関係を説明する場になるため、裁判所も必要に応じて弁護士に依頼することが望ましいと案内しています。
Q. 労働審判で上司個人を相手にできますか?
できません。労働審判法1条は対象を「個々の労働者と事業主との間」の紛争としているため、相手方は会社などの事業主です。上司や同僚個人の責任を問いたいときは、民事訴訟を検討することになります。
Q. 労働審判の内容は公開されますか?
労働審判の手続は非公開で行われます。公開の法廷で口頭弁論を行う民事訴訟との大きな違いです。ただし異議が出て訴訟に移ると、そこからは訴訟の手続で進みます。
出典・参考にした公的な情報
- 労働審判法 第1条・第2条・第4条・第5条・第7条・第15条・第20条〜第24条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 労働審判手続(裁判所)
- 労働審判規則 第9条(最高裁判所規則)(裁判所)
- 労働審判手続の申立書等の書式(裁判所)
- 裁判の迅速化に係る検証に関する報告書(第11回)(最高裁判所)
- 紛争解決援助制度と調停のご案内(令和7年度版)(厚生労働省)
出典の確認日:2026-10-24。制度や受付条件は変わることがあります。手続きの前に、各窓口の最新の案内を確認してください。
この記事は一般的な情報で、個別の法律判断・医療的な診断をするものではありません。