不当解雇の解決金に相場はある?公的な調査で分かることと準備
不当解雇の解決金に、決まった相場はありません。公的な調査としては、労働政策研究・研修機構(JILPT)が、労働局のあっせん・労働審判・裁判上の和解の解決金額を集計しています。直近の調査では、中央値はあっせんで23.5万円、労働審判で150万円、裁判上の和解で300万円でした。ただし、対象になった事案も、金額が決まるまでの経緯も違うため、この数字をそのまま自分の金額に当てはめることはできません。この記事では、調査で分かることと、数字の読み方、金額の根拠を整える準備を説明します。
公的な調査で分かる、解雇の解決金の水準
| 制度 | 調査の対象 | 中央値 | 下から4分の1〜上から4分の1 |
|---|---|---|---|
| 労働局のあっせん(合意成立) | 令和5年度に4労働局で処理が終わった解雇型雇用終了事案485件のうち、金額が分かる179件 | 23.5万円 | 10.0万円〜45.7万円 |
| 労働審判(調停・審判) | 2020・2021年に1地方裁判所で終わった事案(金額が分かる759件) | 150万円 | 80万円〜300万円 |
| 裁判上の和解 | 同じ裁判所・同じ期間の和解(275件) | 300万円 | 120万円〜600万円 |
あっせんの調査(労働政策研究報告書No.237、2025年12月公表)では、賃金月額に対する解決金の中央値は1.03か月分でした。1か月分未満が38.8%、1〜2か月分未満が31.8%で、この二つで7割を超えます。労働審判と裁判上の和解は、2023年4月公表のNo.226が出典です。さらに前の調査(報告書第174号、2015年4月公表)では、2013年に4地裁で終わった事案の中央値が、労働審判で110万円、裁判上の和解で約230万円でした。ただしこの調査は解雇に限らず雇用紛争全体を対象にしていて、今回の解雇型とは対象が違います。対象の裁判所の数も時期も違うため、水準が上がったと単純には言えません。
表の数字は、あくまで「終わった事案の記録」を集めた結果です。今あなたが受け取れる金額を予告するものではありません。 同じ調査でも、あっせんは数十万円までが中心、労働審判と裁判上の和解は数百万円に広がるなど、幅が大きい点に注意してください。
数字を読むときの注意
調査の数字を自分の事案に当てはめる前に、次の点を確かめます。
- 調査の対象が限られている。 労働審判と裁判上の和解は、1つの地方裁判所の記録(2020・2021年)です。閲覧が制限された事件は含まれていません。
- 合意できた事案だけの金額である。 あっせんでは、485件のうち合意成立は180件(37.1%)で、会社が参加しなかった事案が207件(42.7%)ありました。話し合いが成立しなかった事案には、解決金の額が存在しません。なお、厚生労働省が全国の令和7年度のあっせん全体を集計した数字では、合意成立が27.0%、会社の不参加などによる打ち切りが47.5%です。JILPTの数字は、一部の労働局の解雇型に限った集計なので、この数字とは異なります。
- 勝敗の統計ではない。 労働審判は異議が出なかった事案に限られ、「勝率」を示す調査ではありません。解雇が無効かどうかは、労働契約法16条の「客観的に合理的な理由」と「社会通念上の相当性」を、裁判所などが個別に見て決めます。
- 勤続期間が短い事案が多い。 あっせんでは勤続1年未満が6割強、賃金月額の中央値は23.0万円でした。労働審判の勤続期間の中央値は1.3年、裁判上の和解は2.1年で、前回調査よりほぼ半分です。長く勤めた人の事案に、そのまま当てはまる数字ではありません。
- ほとんどが復職しない解決である。 労働審判と裁判上の和解の96%超、あっせんで合意した事案の98.9%が、元の職場に戻らない形で終わりました。解雇の撤回を求めるか金銭で解決するかの考え方は「不当解雇で復職を求めるか金銭で解決するか:選ぶための材料」を参照してください。
なお、解雇が無効とされたときに金銭で解決する新しい制度については、JILPTが2025年12月の報告書で、厚生労働省の審議会で2022年から議論が続いていると記しています。労働契約法の現行の条文には、解雇を金銭で終わらせる規定はありません。ニュースで制度の検討が報じられても、いま申し立てる手続の内容が変わったわけではないので、今ある窓口の使い方を基準に考えます。
金額を左右する材料を整える
数字の相場より、自分の事案で金額の根拠になる材料をそろえるほうが、話し合いで役に立ちます。
| 材料 | 何を見るか | 集める資料 |
|---|---|---|
| 賃金月額 | 解決金は「月収の何か月分」で示されることが多い | 給与明細、雇用契約書 |
| 勤続期間 | 長いほど、解雇による失うものが大きいと見られやすい | 入社日が分かる書類 |
| 解雇理由と経緯 | 会社が挙げた理由に事実の裏づけがあるか。注意・指導が先に行われたか | 解雇理由証明書、評価資料、注意のメール |
| 解雇後の賃金 | 解雇が無効なら、解雇されなければ得られた賃金を請求する考え方がある(民法536条2項) | 解雇日、解雇後の収入の記録 |
| 未払いの賃金・手当 | 予告手当、残業代、有給の扱い | タイムカード、就業規則 |
このうち、解雇理由と経緯が、会社に動いてもらうための中心の材料になります。書面は「解雇理由証明書の請求方法:労基法22条の文例と受け取った後」を参考に請求し、予告手当の有無は「解雇予告手当とは?30日前の予告がないときの支払いの確かめ方」で確かめます。
あっせんの数字を詳しく読みたい人は「労働局のあっせんでの解決金:公的な調査から分かる傾向と準備」、退職勧奨の場面で条件を考えるときは「退職勧奨の条件は何を確かめる?離職理由・解決金・有給・時期の10項目」が参考になります。
話し合いの前にしておく準備
- 解雇通知と理由を書面にそろえる:口頭だけなら、日付と言われた言葉を書き留め、書面を請求する。
- お金の項目を書き出す:解雇後の賃金、予告手当、未払いの賃金。慰謝料などが入るかは事案次第なので、弁護士に聞く。
- お金以外の希望も決める:復職、離職理由の「会社都合」への訂正、退職日、解雇の撤回、謝罪の有無。
- 譲れる線を決める:当日に迷わないよう、受け入れる最低限の条件を紙に書く。
- 相談先を決める:どの窓口に何を頼めるかは「不当解雇の相談先:労基署・労働局・弁護士でできることの違い」で比較しています。
相談時に聞くとよい質問:「私の賃金月額と勤続期間なら、あっせん・労働審判・交渉のどれで、どのくらいの期間がかかりますか。費用は着手金と報酬金でいくらになりますか。」
金額の見込みは、事案を見ずに言える人はいません。どの窓口に行っても、「この数字なら取れる」と断言する説明は疑ってかかり、根拠の資料を示してもらってください。
よくある質問
Q. 調査の中央値と同じ金額を請求すればよいですか?
中央値は、調査に入った事案の真ん中の値で、あなたの事案の目安ではありません。賃金月額、勤続期間、解雇の理由、復職を求めるかどうかで事情が変わります。請求額は、賃金や手当など根拠のある項目を積み上げて組み立て、決める前に弁護士や法テラスの相談で見てもらいます。
Q. 不当解雇の勝率はどのくらいですか?
公的な調査に、解雇事案の勝敗の割合を示すものはありません。JILPTの調査は、終わった事案の解決内容と金額を集計したもので、労働審判は異議が出なかったものに限られています。勝てる見込みの有無は、解雇理由と証拠を見て弁護士などが個別に判断する事柄です。
Q. 解雇された会社に戻りたくない場合も、解決金は出ますか?
調査では、労働審判と裁判上の和解の96%超が、雇用を続けない金銭解決でした。戻らない前提で話し合うことは珍しくありません。ただし金額は事案ごとに決まるので、復職するか金銭で解決するかを考える材料は「不当解雇で復職を求めるか金銭で解決するか」で整理しています。
出典・参考にした公的な情報
- 労働政策研究報告書No.237 労働局あっせんにおける解雇型雇用終了事案の分析(2025年12月25日)(労働政策研究・研修機構)
- 労働政策研究報告書No.226 労働審判及び裁判上の和解における雇用終了事案の比較分析(2023年4月25日)(労働政策研究・研修機構)
- 労働政策研究報告書 第174号 労働局あっせん、労働審判及び裁判上の和解における雇用紛争事案の比較分析(2015年4月20日)(労働政策研究・研修機構)
- JILPTリサーチアイ第78回 裁判所における解雇の金銭解決の実態 令和編(労働政策研究・研修機構)
- 労働契約法 第16条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 民法 第536条第2項(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 令和7年度個別労働紛争解決制度の施行状況(資料本体PDF)(厚生労働省)
出典の確認日:2026-10-23。制度や受付条件は変わることがあります。手続きの前に、各窓口の最新の案内を確認してください。
この記事は一般的な情報で、個別の法律判断・医療的な診断をするものではありません。