状況別の対処 / 手順

パワハラの加害者にされたとき:事実確認に臨む準備と言い分の伝え方

この記事のもくじ
  1. 会社の事実確認はどう進むか
  2. 手順:聞き取りまでに言い分をまとめる5ステップ
  3. 報復と取られやすい行動を避ける
  4. 結論や処分を告げられたら

身に覚えがないのにパワーハラスメント(パワハラ)の加害者だと言われたら、最初にすることは、反論の言葉を探すことでも、相手に事情を聞きに行くことでもなく、会社の事実確認に向けて自分の記録を集め、言い分を書面にまとめることです。パワハラ指針は、会社に相談者と行為者の双方から事実を確認し、主張が食い違えば第三者からも聴くよう求めています。つまり、言い分を伝える場は手続きの中に用意されています。そこで不利にならないために、相談者や周りの同僚への接触など、報復と受け取られやすい行動を避けることも同じくらい大切です。

会社の事実確認はどう進むか

指名された側が先に知っておきたいのは、会社がこれから何をするのかです。パワハラ指針(令和8年10月1日適用時点の本文)は、相談を受けた会社が取る対応として、次の流れを示しています。

流れ図:パワハラの相談を受けた会社の対応(指針の「事後の迅速かつ適切な対応」)
  1. 事実関係の確認:相談者と行為者の双方から確認する。主張が一致しない場合は第三者からも聴取する。確認が難しい場合は、労働局の調停(労働施策総合推進法第37条)など中立な第三者機関に委ねる
  2. 事実が確認できた場合:被害者への配慮(関係改善の援助、引き離すための配置転換、行為者の謝罪など)と、行為者への措置(就業規則等に基づく懲戒その他の措置、配置転換、謝罪など)
  3. 再発防止:方針の再周知、研修の再実施。事実が確認できなかった場合も行う
  4. 全体を通じて:相談者・行為者等のプライバシーの保護

この流れから分かることが三つあります。一つ目に、行為者とされた人からも話を聞くことが手続きに組み込まれているので、言い分を出す機会を求めるのは筋の通ったことです。二つ目に、事実の有無がはっきりしないまま終わった場合でも再発防止の措置(研修や方針の周知)は行われるので、「研修を受けてください」と言われたことが、そのまま「パワハラと認定された」という意味になるとは限りません。三つ目に、指針は相談者だけでなく行為者のプライバシーも守るよう求めています。

一方で、パワハラに当たるかの判断は、言動の目的、相手の問題行動の有無、業務の内容、言動の態様・頻度・継続性などを総合的に見て行われ、就業環境が害されたかは「平均的な労働者の感じ方」を基準にするとされています。自分にその気がなかったことだけでは説明になりません。指導のつもりだった言動がどう判断されるかの物差しはパワハラと指導の違いを見分ける5つの視点で確かめておくと、聞き取りで何を説明すればよいかが見えてきます。

手順:聞き取りまでに言い分をまとめる5ステップ

聞き取りの日時を告げられてから当日までに、次の順で準備します。

  1. 問題とされている出来事を特定する。「パワハラの申し出があった」だけでは答えようがありません。会社に「いつ・どこで・どの言動が問題とされているか」を示してもらうよう、メールで頼みます。
  2. **自分の側の記録を集める。**業務メール、チャット、指示書、議事録、スケジュール、相手の業務の進み具合が分かる資料。その日に自分が何を指示し、なぜそう言ったのかを示すものです。
  3. **時系列表を作る。**出来事ごとに「日時/場所/その場にいた人/自分が言ったこと・したこと/その理由・業務上の背景」を1行ずつ書きます。覚えていないことは空欄にし、推測で埋めません。
  4. **認める点と、事実と違う点を線で分ける。**言った言葉は覚えているが趣旨が違う、その場にいなかった、など、出来事ごとにどちらに入るかを書き分けます。全部を否定するより、認めるべきは認めたほうが、違う点の説明が信用されやすくなります。
  5. **書面にして、聞き取りの前か当日に渡す。**口頭だけだと、言ったことが記録に残らないことがあります。

会社への依頼メールの例:「人事部 〇〇様 私に関する申し出について、事実確認に協力いたします。正確にお答えするため、問題とされている日時・場所・言動を、差し支えない範囲で具体的にお示しいただけますでしょうか。また、私からも経緯を書面で提出したいと考えております。」

書面の書き出しの例:「〇月〇日の会議での発言について。私は『この資料では客先に出せない。明日までに数字を直してください』と伝えました。資料の誤りが3か所あり、提出期限が翌日だったためです。大きな声を出したことはありません。その場には〇〇さんと〇〇さんがいました。」

書面では、相談者の人柄や過去の評価について書くのは避けます。問われているのは自分の言動で、相手への批判を重ねると、それ自体が新たな問題として受け取られかねません。

報復と取られやすい行動を避ける

指名された直後は、誤解を解きたい気持ちから動きたくなります。しかし、労働施策総合推進法31条2項は、パワハラの相談をしたことや、会社の事実確認に協力して事実を述べたことを理由に、その労働者を不利益に扱うことを会社に禁じています。相談者や証言した同僚への働きかけは、この保護とぶつかる形になり、手続きの中で自分に不利な事情として扱われるおそれがあります。

避けたい行動 なぜ避けるか 代わりにすること
相談者を呼び出して事情を聞く・謝りに行く 圧力や口止めと受け取られうる 謝罪の要否も含めて、会社を通じて対応する
周りの同僚に「自分の味方をしてほしい」と頼む 証言の内容に影響を与えたと見られうる 証人になりうる人の名前を会社に伝え、聴取は会社に任せる
相談者の仕事を減らす・評価を下げる・担当を外す 相談を理由にした不利益取扱いに見える 業務上必要な変更でも、上長や人事に相談してから行う
SNSや社内チャットで経緯を書く 名誉毀損や情報漏えいの問題、相手の特定につながる 記録は自分のメモと会社への書面だけに残す
関係資料を消す・書き換える 隠したと受け取られる 今あるものをそのまま保存する

上司の立場で、相談者が自分の部下である場合はとくに難しくなります。業務の指示や評価を続けなければならないなら、「調査中の間、指示や評価をどう扱うか」を人事に相談し、決めた方法を書面で残しておくと、後から誤解されにくくなります。

結論や処分を告げられたら

事実確認が終わると、会社から結論が伝えられます。パワハラに当たる事実は認められなかったと言われた場合も、研修の受講や配置の見直しが行われることがあります。言動を変えたいと考えるなら、パワハラ加害者の更生:言動を変えたい人のための具体的な方法が次の一歩になります。

懲戒などの処分を告げられた場合は、処分の種類と根拠になった就業規則の条項、問題とされた事実を書面で確かめます。会社が懲戒できる場合でも、行為の性質や態様に照らして客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当でないときは権利の濫用として無効になる、と労働契約法15条は定めています。処分の段階や自宅待機の扱いはパワハラ加害者の処分の種類と懲戒の段階、退職を求められた場合はパワハラ加害者として退職を迫られたときに確かめることで詳しく扱います。会社から謝罪を求められているときの考え方は、被害を訴えた側から見たパワハラ加害者に謝罪してほしいときの整理を読むと、会社が何を目的にしているかがつかみやすくなります。

よくある質問

Q. 誰が訴えたのか、会社に聞いてもいいですか?

聞くこと自体はできますが、パワハラ指針は相談者と行為者の双方のプライバシー保護を会社に求めているため、名前や相談の中身をそのまま教えてもらえないことがあります。言い分を伝えるのに必要なのは、相手の名前よりも「いつ・どの言動が問題とされているか」です。「反論の準備のため、問題とされている日時と言動を具体的に示してほしい」と求めるほうが通りやすくなります。

Q. 聞き取りを録音してもいいですか?

会社によっては、聞き取りの録音を禁じていたり、会社側が記録を取ると決めていたりします。黙って録音して後から問題にされるより、事前に「記録のために録音させてほしい」と申し出て、断られたら「会社が作る記録の写しをもらえるか」「終わった後に内容を確認できるか」を聞く順が穏当です。自分でも、聞き取りの直後に質問と答えをメモしておきます。

Q. 調査の結果に納得できないとき、どこに相談できますか?

会社の外では、都道府県労働局などにある総合労働相談コーナーが、労働者・事業主のどちらからでも労働問題全般の相談を受けています。処分を受けそうな段階や、処分の有効性を争いたい段階なら、労働問題を扱う弁護士への相談が選択肢になります。どちらに持ち込む場合も、聞き取りで伝えた内容と会社からの通知を書面で残しておくことが前提になります。

出典・参考にした公的な情報

出典の確認日:2026-10-24。制度や受付条件は変わることがあります。手続きの前に、各窓口の最新の案内を確認してください。

この記事は一般的な情報で、個別の法律判断・医療的な診断をするものではありません。

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