パワハラで退職を強要されているとき:辞める前に残すべき記録
辞めるよう仕向けられていると感じたら、返事をする前に、まず出来事を1件ずつ記録に残します。退職を強要されたかどうかの判断は、あなたの感覚ではなく、言動の中身・頻度・期間という事実で行われるからです。 記録があれば、社内の窓口でも労働局でも、自分の言葉で一から説明し直さずに済みます。この記事では、追い込み型の典型、辞める前に残す記録の項目、辞めると決めた場合に確かめることを順に並べます。
退職を強要されている状態とは:追い込み型の典型
パワーハラスメント(パワハラ)は、厚生労働省の整理で、①優越的な関係を背景とした言動、②業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの、③就業環境が害されるもの、の3つをすべて満たすものとされています。適正な業務指示や指導は該当しません。退職を促す目的で行われる追い込みは、次の型に分かれて現れます。
| 追い込みの型 | 具体的なあらわれ方 | 厚生労働省の類型での位置づけ |
|---|---|---|
| 仕事外し | 担当業務を取り上げる、資料や会議の連絡を回さない、経験を問わない単純作業だけを割り当てる | 過小な要求、人間関係からの切り離し |
| 叱責の連続 | 大勢の前で長時間責める、人格を否定する言葉を使う、達成できない目標を課して責める | 精神的な攻撃、過大な要求 |
| 孤立させる | 別室・別席に移す、周囲に無視させる、飲み会や連絡網から外す | 人間関係からの切り離し |
| 面談の繰り返し | 辞める気はないと伝えた後も、呼び出しを重ねて退職を求める | 退職勧奨が執拗になる場合(退職勧奨が違法か迷うときで整理) |
厚生労働省の例には、管理職を退職させるために、経験や能力を問わず遂行できる程度の業務だけを行わせること、気に入らない労働者に嫌がらせのために仕事を与えないこと、意に沿わない労働者の仕事を外して長期間別室に隔離することが、類型ごとの該当例として挙がっています。ただし例は限定列挙ではなく、個別の事案で判断が異なることもあるとされています。「これは当たる」と自分で結論を出さず、事実を揃えて窓口で見てもらう、という進め方が確実です。
辞める前に残す記録:1件に書く6項目
記録は、出来事1件につき次の6項目をそろえます。後から読み返して、第三者が状況を想像できる程度の具体さが目安です。
- 日時:年月日と時刻、継続した時間(例:10月20日 15:00ごろから約40分)
- 場所:会議室、自席、メールやチャットのスレッド名
- 相手:役職と氏名。同席者がいればその人も
- 言動:実際の言葉をそのまま。要約より、言われたとおりに書く
- 業務との関係:その指示や叱責が、仕事の内容とどうつながるか(つながらないなら、つながらないと書く)
- 自分への影響:眠れない、出社前に動悸がするなど、体調や仕事への影響
仕事外しの場合は、取り上げられる前に何を担当していたかを残すことが大切です。以前の業務一覧、過去の担当案件、メールの宛先一覧が、比較の基準になります。社内のメールは、会社のルールで外部への転送が禁じられている場合があるため、持ち出してよい範囲を就業規則で確かめます。自分宛のやりとりの日時・件名・要点を、自分のノートに書き写す方法もあります。
記録の書式は、時系列表にすると読みやすくなります。具体的な項目の並べ方は「パワハラ記録のテンプレート」にまとめています。
記録の記入例:「10月20日(月)15:00〜15:40、第2会議室。○○部長から『君にできる仕事はもうない。席を空けてほしい』と言われる。同席者なし。この日、担当していた△△案件の資料共有から外されたことを、メールで確認」
辞める前に動いておくこと
辞める気がないなら、勧奨や追い込みに対して「辞めない」と伝えた事実も記録の一部になります。伝えるときはメールに残すと、日付と内容が自動で保存されます。
文例:「先日の面談でご提案のあった退職については、現時点で辞める意思はありません。今後の面談の趣旨を教えていただけますでしょうか。」
労働施策総合推進法31条は、事業主にパワハラ防止の措置を義務づけ、労働者が相談したことを理由とした解雇その他の不利益な取扱いを禁じています。社内の相談窓口や人事に記録を示して相談する方法があります。社内で動きづらいときは、都道府県労働局の総合労働相談コーナーなど外部の窓口があります。番号や受付時間は「パワハラの相談窓口一覧」にまとめてあります。
心身の調子が崩れているときは、辞める判断を急ぐ前に受診を先にします。診断書は、休職の手続きに使えるほか、不調の時期を示す記録にもなります。
辞めると決めた場合に確かめること
追い込まれた末に辞めると決めたときは、退職届や合意書に何と書くかで、後の手続きが変わることがあります。
| 確かめる点 | 理由 |
|---|---|
| 退職届・合意書の退職理由の欄 | 「一身上の都合」と書くと、離職票の理由が自己都合になりやすい。事実と違う記載には署名しない |
| 離職票の離職理由 | ハローワークは、上司・同僚からの故意の排斥や著しい冷遇、嫌がらせによる離職、事業主から退職勧奨を受けた離職を、特定受給資格者の範囲に挙げている |
| 退職日 | 診断書の日付、有給休暇の残りと合わせて決める |
| 書面での合意 | 条件を口頭で済ませず、文書に残してもらう |
離職票の理由が事実と違うときは、ハローワークで異議を述べます(厚生労働省のQ&Aが説明しています)。判断するのはハローワークなので、記録や診断書を持参して事実を説明します。手順は「パワハラで退職したときの失業保険」にあります。退職を伝える順番や書面の書き方は「パワハラで退職するか迷うとき」で扱います。
退職を促す言動が休職中や療養中に起きた場合は、次の「休職中に退職勧奨を受けたら」もあわせて読んでください。
| 段階 | すること |
|---|---|
| いま | 出来事を1件ずつ記録。「辞めない」と伝えた事実もメールで残す |
| 次に | 社内窓口または労働局の総合労働相談コーナーへ、記録を持って相談 |
| 辞める場合 | 退職届・合意書の理由欄、離職票の離職理由、退職日を書面で確かめる |
退職を迫る流れの中で仕事を取り上げられている場合は追い出し部屋は違法?入れられたときの記録と、居座る・辞めるの準備が、「明日から来なくていい」と言われた場合は「明日から来なくていい」と言われたら:解雇か退職勧奨かの確かめ方が近い場面です。
よくある質問
Q. 辞めるよう直接言われていなくても、退職の強要になりますか?
「辞めろ」と言われていなくても、仕事を取り上げる、無視をさせる、人格を否定する叱責を続けるといった行為で辞めるよう仕向けられている場合があります。該当するかは、言動の内容・頻度・期間といった事実を示して、労働局などの窓口で判断してもらいます。まず事実を記録に残すところから始めます。
Q. 辞める前に、記録はどのくらい残せばよいですか?
量の決まりはありません。いつ・誰が・どこで・何を言い、何をしたかが分かる記録を、出来事ごとに1件ずつ残します。数日分でも、日付と内容が具体的なら相談の材料になります。退職後は社内のメールや資料に近づけなくなるので、手元に持てる形で残すのは在職中のうちです。
Q. 追い込まれて辞めた場合も、離職票の理由は争えますか?
離職票の離職理由に納得できないときは、ハローワークで異議を述べて判定を求められます。判断するのはハローワークで、嫌がらせや退職勧奨を受けたと認められれば特定受給資格者の範囲に入ることがあります。事実を示す記録があると、説明が通りやすくなります。
出典・参考にした公的な情報
- 職場におけるハラスメントの防止のために(パワハラの3要素・6類型)(厚生労働省)
- 労働施策総合推進法 第31条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 確かめよう労働条件 Q&A「退職勧奨に応じた後の撤回・離職理由」(厚生労働省)
- 特定受給資格者及び特定理由離職者の範囲の概要(ハローワーク(厚生労働省))
出典の確認日:2026-10-23。制度や受付条件は変わることがあります。手続きの前に、各窓口の最新の案内を確認してください。
この記事は一般的な情報で、個別の法律判断・医療的な診断をするものではありません。