個の侵害とは?私生活への干渉・病歴の暴露がパワハラになる例
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休みの日にどこで誰と過ごしたかを毎週聞かれる、私物のスマートフォンを勝手に見られる、病気のことを同僚に言いふらされた――こうした行為は、厚生労働省のパワハラ指針が6類型の6つ目「個の侵害」として説明している内容に関わります。指針はこの類型を「私的なことに過度に立ち入ること」と示し、職場外での継続的な監視や私物の写真撮影、性的指向・ジェンダーアイデンティティや病歴、不妊治療などの機微な個人情報を本人の了解なく他の労働者に暴露することを例に挙げています。2026年10月1日適用時点の指針では、こうした情報の開示を禁止したり強要したりすることも例に加わりました。この記事では、指針の例と該当しない例、会社が負うプライバシー保護の措置、病歴に関する法律の定め、記録の仕方を順に整理します。
個の侵害とは:指針の2つの例と、該当しない2つの例
パワーハラスメント(パワハラ)の指針(令和2年厚生労働省告示第5号)の、2026年10月1日適用時点の本文にある例は次のとおりです。
| 区分 | 指針の例 |
|---|---|
| 該当すると考えられる例 | ①労働者を職場外でも継続的に監視したり、私物の写真撮影をしたりすること |
| ②労働者の性的指向・ジェンダーアイデンティティや病歴、不妊治療等の機微な個人情報について、当該労働者の了解を得ずに他の労働者に暴露すること、または当該労働者が開示することを禁止する若しくは強要すること | |
| 該当しないと考えられる例 | ①労働者への配慮を目的として、労働者の家族の状況等についてヒアリングを行うこと |
| ②労働者の了解を得て、当該労働者の性的指向・ジェンダーアイデンティティや病歴、不妊治療等の機微な個人情報について、必要な範囲で人事労務部門の担当者に伝達し、配慮を促すこと |
どの例も、①優越的な関係を背景に、②業務上必要かつ相当な範囲を超え、③就業環境が害される、の3要素を満たすことが前提です。例は限定列挙ではないと厚生労働省のパンフレットは説明しています。6つの類型を一覧で比べるならパワハラ6類型の早見表が便利です。
該当する例と該当しない例を並べると、分かれ目は2つあります。1つは目的で、配慮のための聞き取りか、詮索や監視か。もう1つは本人の了解と範囲で、本人が了解し、必要な担当者にだけ伝えるのか、了解なく広めるのか、です。
よくある場面を指針の文言に当てはめてみる
| 場面 | 指針の文言との関わり | 記録で押さえること |
|---|---|---|
| 休日の行動をSNSや同僚を使って追いかけられる | 例①「職場外でも継続的に監視」 | いつから、何を把握されていたか、どう知ったか |
| 机の上の私物やスマートフォンの画面を撮られる | 例①「私物の写真撮影」 | 日時、撮った人、撮られた物、その後の使われ方 |
| 通院や病名を、了解なく朝礼や同僚に話される | 例②「病歴…を了解を得ずに他の労働者に暴露」 | 誰が、誰に、どの場で話したか(聞いた人の名前) |
| 不妊治療で休むことを部署内に広められる | 例②「不妊治療等の機微な個人情報」 | 伝えた相手と範囲、広まった経路 |
| 性的指向を本人の了解なく周りに話される(いわゆるアウティング) | 例②「了解を得ずに他の労働者に暴露」 | 話された日時、場、聞いた人 |
| カミングアウトをやめろ、またはしろと迫られる | 例②「開示することを禁止する若しくは強要する」 | 言われた言葉、言った人、繰り返しの有無 |
| 休日や深夜に私的な内容の連絡が続く | 「私的なことに過度に立ち入る」の物差しで整理 | 時刻、内容、断った後の反応 |
「アウティング」や「SOGIハラ」は指針で使われている言葉ではありませんが、指針の精神的な攻撃①(性的指向・ジェンダーアイデンティティに関する侮辱的な言動)や、個の侵害②の例と結びつけて整理できます。くわしくはSOGIハラとアウティングの扱いを説明した記事で扱います。休日のLINEなど連絡の問題は上司のLINEがパワハラになる場面と断り方が参考になります。
病歴は法律でも「特に配慮が要る情報」
病歴の扱いについては、パワハラ指針のほかにも法律の定めがあります。
- 個人情報保護法 第2条第3項。 病歴は、人種・信条・犯罪の経歴などと並んで「要配慮個人情報」に位置づけられています。不当な差別や偏見などの不利益が生じないよう、取扱いに特に配慮が要る情報という意味です。
- 個人情報保護法 第20条第2項。 会社などの事業者は、法令に基づく場合などの例外を除き、あらかじめ本人の同意を得ないで要配慮個人情報を取得してはならないとされています。
- 労働安全衛生法 第104条。 事業者が労働者の心身の状態に関する情報を集めたり保管・使用したりするときは、労働者の健康の確保に必要な範囲内で集め、その目的の範囲内で保管・使用しなければならないとされています(本人の同意がある場合などを除く)。事業者には、その情報を適正に管理する措置も求められています。
ただし、これらは主に会社(事業者)としての情報の扱いを定めたルールです。上司や同僚が個人として病気のことを口外した場合にこれらの法律が直接どう関わるかは、事案ごとの判断になります。記事として言えるのは、病歴が法律の上でも慎重に扱うべき情報とされていること、そして会社にはパワハラ指針に基づくプライバシー保護の措置があることです。
会社のプライバシー保護の措置と、相談するときの頼み方
指針は、会社がパワハラ防止のために講じなければならない措置の一つとして、相談者・行為者などのプライバシーを保護するための措置を挙げています。そこには性的指向・ジェンダーアイデンティティや病歴、不妊治療などの機微な個人情報も含まれ、措置を講じていることを労働者に周知することも求められています。相談したことを理由に解雇などの不利益な取扱いをしてはならないことは、労働施策総合推進法第31条第2項に定められています。
個の侵害を相談するときは、相談そのものがさらに情報を広げるのではないか、という不安がつきものです。最初に共有の範囲を確かめ、文字で残しておきましょう。
文例:人事部 〇〇様 相談にあたりお願いがあります。私の病名と通院の状況、今回の相談内容を、どなたに、どの範囲で共有するかを事前に教えてください。私が了解していない方への共有は控えていただけますよう、お願いいたします。
社内の窓口が話しにくいときは、総合労働相談コーナーや都道府県労働局の雇用環境・均等部(室)にも相談できます。窓口の一覧はパワハラの相談窓口一覧にあります。
記録の仕方:「誰が、誰に、何を」を残す
個の侵害の記録は、ほかの類型より「情報の流れ」を追う形になります。
| 日付 | 誰が | 誰に(どの場で) | 何を(言葉のまま) | 自分が知った経路 |
|---|---|---|---|---|
| 10/16 | 係長 | 朝礼で課員8人に | 「〇〇さんは心療内科に通っているから配慮して」 | 同僚Aさんから当日聞いた |
- 伝聞は経路も書く。 自分がその場にいなかったときは、誰から聞いたかを書きます。証言を頼むことを考えるなら、同僚に証言を頼むときの記事が参考になります。
- 監視や撮影は日時と方法を書く。 何を、どうやって把握されていたのかが分かるように残します。撮られた写真が送られてきた場合は、その画面も保存します。
- 自分が了解した範囲も書く。 「人事の〇〇さんにだけ伝えた」「上司には病名を伏せて通院のみ伝えた」など、自分が了解した範囲を書いておくと、それを超えた共有がはっきりします。
- 言われた言葉は、かぎかっこでそのまま。 開示を迫られた、やめろと言われた言葉は、精神的な攻撃の記録の残し方と同じ要領で残します。
病気のことを広められると、職場に行くこと自体がつらくなることがあります。眠れない、出勤前に体調が崩れるといった状態が続くときは、主治医にも状況を伝え、休むことを含めて考えてください。6類型をひととおり読んだ後は、日々の指導との境目を扱うパワハラと指導の違いを見分ける記事に進むと、判断の材料がそろいます。
よくある質問
Q. 上司に休日の過ごし方や交際相手のことをしつこく聞かれます。個の侵害に当たりますか?
指針の物差しは「私的なことに過度に立ち入ること」で、一度の雑談と、断っても繰り返し聞かれる状態とでは重みが違います。聞かれた日時と内容、断ったときの反応を記録しておくと、程度を相談先に伝えられます。配慮のために家族の状況などを聞き取ることは、指針で該当しない例とされている点も押さえておきましょう。
Q. 病気のことを人事部に伝えたいのですが、職場に広まらないか心配です。
指針は、本人の了解を得て、機微な個人情報を必要な範囲で人事労務部門の担当者に伝え、配慮を促すことを該当しない例に挙げています。伝える前に「誰に、どこまで共有するか」を尋ね、了解していない人には伝えないよう書面で頼んでおくと安心です。会社には相談者のプライバシーを守る措置も義務づけられています。
Q. 上司に性的指向を話したところ、「皆に言ったほうがいい」と言われました。
指針は、性的指向・ジェンダーアイデンティティなどの機微な個人情報について、開示を強要することや禁止することも個の侵害の例に挙げています。言われた日時と言葉を記録し、本人の意思に反した公表をしないよう会社に求める形で、相談先に話すことができます。詳しくはSOGIハラの記事で扱います。
出典・参考にした公的な情報
- 事業主が講ずべきハラスメント対策パンフレット(パワハラ指針 令和8年10月1日適用時点の本文と解説を収録)(厚生労働省)
- 労働施策総合推進法 第31条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 個人情報の保護に関する法律 第2条第3項・第20条第2項(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 労働安全衛生法 第104条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
出典の確認日:2026-10-23。制度や受付条件は変わることがあります。手続きの前に、各窓口の最新の案内を確認してください。
この記事は一般的な情報で、個別の法律判断・医療的な診断をするものではありません。