精神的な攻撃とは?暴言・人格否定・長時間の叱責が当たる例と記録
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上司から「お前は無能だ」「給料泥棒」と言われる、ミスのたびに1時間以上立たされたまま叱られる、皆の前で怒鳴られる――こうした言動は、厚生労働省のパワハラ指針が6類型の2つ目「精神的な攻撃」の例として挙げているものに近い行為です。指針は、人格を否定する言動、必要以上に長時間の厳しい叱責の繰り返し、他の労働者の面前での大声の威圧的な叱責の繰り返し、能力を否定し罵倒するメールを複数宛てに送ることを例に挙げています。ただし、自分の出来事が当たるかを決めるのは相談先や専門家で、そのとき判断の材料になるのは「何を、どれだけ、どこで言われたか」の記録です。この記事では、指針の例の読み方と、言われた言葉を相談で使える形に残す方法をつなげて説明します。
精神的な攻撃とは:指針の4つの例と、該当しない2つの例
パワーハラスメント(パワハラ)の指針(令和2年厚生労働省告示第5号)は、精神的な攻撃に「脅迫・名誉棄損・侮辱・ひどい暴言」という括弧書きを付けています。2026年10月1日適用時点の本文に書かれた例は次のとおりです。
| 区分 | 指針の例 |
|---|---|
| 該当すると考えられる例 | ①人格を否定するような言動を行うこと。相手の性的指向・ジェンダーアイデンティティに関する侮辱的な言動を行うことを含む |
| ②業務の遂行に関する必要以上に長時間にわたる厳しい叱責を繰り返し行うこと | |
| ③他の労働者の面前における大声での威圧的な叱責を繰り返し行うこと | |
| ④相手の能力を否定し、罵倒するような内容の電子メール等を、当該相手を含む複数の労働者宛てに送信すること | |
| 該当しないと考えられる例 | ①遅刻など社会的ルールを欠いた言動が見られ、再三注意してもそれが改善されない労働者に対して一定程度強く注意をすること |
| ②その企業の業務の内容や性質等に照らして重大な問題行動を行った労働者に対して、一定程度強く注意をすること |
どの例も、①優越的な関係を背景に、②業務上必要かつ相当な範囲を超え、③就業環境が害される、という3要素を満たすことが前提です。3要素そのものの説明はパワハラとは何かを3要素と6類型で整理した記事、6類型を横に並べた一覧はパワハラ6類型の早見表にあります。
4つの例を読み解く:記録すべき言葉が見えてくる
指針の例の一つひとつには、相談先が確かめたくなる「物差し」が入っています。物差しが分かると、何を書き留めればよいかが見えてきます。
| 例 | 文言の中の物差し | 記録で押さえること |
|---|---|---|
| ①人格否定 | 仕事の中身ではなく、人そのものへの評価か | 言われた言葉をそのまま。「バカ」「親の顔が見たい」など、仕事と無関係な部分 |
| ②長時間の叱責 | 「必要以上に長時間」「繰り返し」 | 開始と終了の時刻、立たされていたか、同じ内容の繰り返しか、週に何回か |
| ③人前での威圧 | 「他の労働者の面前」「大声」「繰り返し」 | その場にいた人数と名前、声の大きさ、場所(フロアの中央など) |
| ④罵倒メール | 「能力を否定」「複数の労働者宛て」 | 本文、送信日時、宛先とCCの全員 |
補足が3つあります。
- 属性への侮辱も含まれる。 パンフレットの注は、①の人格否定に、外国人であることや特定の国・地域の出身・ルーツについての侮蔑的な言動も含まれると説明しています。直接名指ししていなくても、実際には特定の相手に向けたと客観的に認められる言動は含まれる、ともあります。
- 例と違っても外れるとは限らない。 パンフレットは、例に「繰り返し」とあるのに1回だけだった、という場合でも、該当しないとは限らないと説明しています。回数の考え方はパワハラは1回だけでも当たるのかを読む記事で扱います。
- 場面ごとの具体的な言葉は別の記事で。 どんな言葉が人格否定や脅しに近いかの一覧はパワハラになりうる言葉の例を場面別にまとめた記事にあります。
「厳しい指導」との境目はどこで見られるか
精神的な攻撃で一番迷うのは、「自分が悪かったのだから仕方ない」と感じる場面です。指針は、再三注意しても改善されない場合や重大な問題行動があった場合に、一定程度強く注意することは該当しない例に挙げています。一方で、判断の要素として、言動の目的、労働者の問題行動の有無と内容・程度、言動の態様・頻度・継続性などを総合的に考えるとし、問題行動がある場合は「その内容・程度と指導の態様等の相対的な関係性」が重要だとしています。
つまり、ミスがあったかどうかだけでなく、ミスの大きさと叱り方の釣り合いが見られます。たとえば、書類の誤字1か所に対して、同僚の前で30分怒鳴り続ける、人格に触れる言葉を混ぜる、という場合は、ミスの事実と叱責の態様を分けて記録しておくと、相談先が釣り合いを考えやすくなります。指導との違いを5つの視点で比べた記事はパワハラと指導の違いを見分ける記事です。
就業環境が害されたかどうかは「平均的な労働者の感じ方」で見られます。本人の受け止めだけで決まらないという意味ですが、指針は、該当するか微妙な場合も広く相談に対応するよう会社に求めています。「グレーだから相談できない」ということはありません。
言われた言葉の記録の残し方
精神的な攻撃は、殴られた跡のように目に見える形で残りません。だからこそ、言葉と時間を残すことが中心になります。
| 欄 | 書き方 |
|---|---|
| 日時 | 開始と終了の時刻(例:9時05分〜9時50分) |
| 場所 | 部屋・フロア・オンライン会議の名前 |
| 言った人 | 名前と役職 |
| 言葉 | かぎかっこでそのまま。言い換えない |
| 態様 | 声の大きさ、立たされたか、机を叩いたか |
| その場にいた人 | 名前か人数 |
| 直前の事情と体調 | 自分のミスがあればその内容、その後の体の状態 |
書くときのコツを順番に挙げます。
- その日のうちに、言葉はかぎかっこで書く。 「ひどいことを言われた」ではなく「『お前みたいなのは何をやらせても無理』と言われた」と書きます。全部を覚えていなくても、覚えている部分だけを正確に残します。
- 時間を測る。 叱責が始まった時刻と終わった時刻を、時計やパソコンの表示で確かめておきます。長さは②の例の物差しそのものです。
- 自分のミスも書く。 不利に見えても、ミスの内容を書いておくと、記録全体の信用が高まります。
- 録音を組み合わせる。 逐語のメモと録音を合わせると、言葉の正確さを補えます。始めるタイミングや保存の仕方はパワハラの録音の仕方、メモと録音の組み合わせ方はパワハラの暴言を証拠にする方法で扱います。
- 文字で届いたものは丸ごと保存する。 メールは宛先とCCが写る形で、チャットは前後の流れが分かる範囲で残します。詳しくはパワハラのメールを証拠にする方法とチャットツールのパワハラを証拠に残す方法にあります。
記入例:10月15日(木)9時05分〜9時50分、営業部フロア中央。部長から、見積書の単価の入力ミス(1か所)について「こんな計算もできないなら辞めろ」「親はどういう育て方をしたんだ」と大声で言われた。その間ずっと立たされていた。周りに課員6人。午後から頭痛がして早退した。
記録を持って相談する先
言葉の攻撃で相談するときの一手は、「1回の暴言」ではなく「何回目の、どの型の言葉か」を日付順に並べて見せることです。社内の相談窓口に加え、社内で話しにくいときは、都道府県労働局の雇用環境・均等部(室)や総合労働相談コーナーに無料で相談できます(ハラスメント相談は匿名でも可)。相談を理由とする不利益な取扱いは法律で禁じられています。番号や受付時間はパワハラの相談窓口一覧で確かめてください。
脅し(「家族がどうなっても知らないぞ」など)や、社外の人にまで悪評を広める言動は、刑法の脅迫や名誉毀損の問題として警察に相談できる場合もあります。その整理はパワハラに刑事罰はあるかを整理した記事で扱います。言葉の攻撃が続いて眠れない、朝になると涙が出るといった状態なら、記録より先に休むことと受診を考えてください。
精神的な攻撃の次に読む類型は、無視や隔離を扱う人間関係からの切り離しです。仕事から外される、雑用ばかりにされるといった形で続いている場合は、そちらの記録も並べておくと全体像が伝わります。
よくある質問
Q. 自分のミスが原因で叱られた場合でも、精神的な攻撃として相談してよいですか?
相談してかまいません。指針は、問題行動があった労働者に一定程度強く注意することは該当しない例に挙げていますが、判断ではミスの内容・程度と、叱り方の態様や長さとの釣り合いが見られます。ミスの事実も正直に書いた記録を持って相談すると、相談先が状況をつかみやすくなります。
Q. 皆の前で一度だけ大声で怒鳴られました。「繰り返し」でなければ当たらないのですか?
指針の例には「繰り返し」とありますが、厚生労働省のパンフレットは、例と少し異なる(繰り返しではなく1回など)からといって、該当しないとは限らないと説明しています。言われた言葉、場所、周りにいた人数、時間の長さを記録しておき、相談先に示してください。
Q. 全員にCCで送られた叱責メールは、どう残せばよいですか?
本文だけでなく、送信日時と宛先・CCの一覧が写る形で保存します。指針の例は「複数の労働者宛てに送信すること」なので、誰に届いたかが記録の要点になります。会社のメールを私用のアドレスへ転送することには社内の規程が関わる場合があるため、保存の方法は[パワハラのメールを証拠にする方法](/shouko-mail/)を参考に選んでください。
出典・参考にした公的な情報
- 事業主が講ずべきハラスメント対策パンフレット(パワハラ指針 令和8年10月1日適用時点の本文と解説を収録)(厚生労働省)
- 労働施策総合推進法 第31条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 職場におけるハラスメントの防止のために(厚生労働省)
出典の確認日:2026-10-23。制度や受付条件は変わることがあります。手続きの前に、各窓口の最新の案内を確認してください。
この記事は一般的な情報で、個別の法律判断・医療的な診断をするものではありません。