国家公務員のパワハラ:人事院規則10-16と人事院への苦情相談
この記事のもくじ
一般職の国家公務員がパワハラを受けたときの根拠は、民間の労働施策総合推進法ではなく人事院規則10-16です。相談先は、所属府省の相談員と、人事院公平審査局職員相談課・各地方事務局(所)の苦情相談の二本立てです。相談員や人事院ができるのは、助言、関係者への指導・あっせん、調査までで、損害賠償や謝罪の要求、他の職員の処分の実施は対象外です。この記事では規則の中身と、苦情相談の使い方を順に説明します。立場ごとの全体像は公務員のパワハラ相談先と対処:人事院・人事委員会など民間と違う窓口にあります。
国家公務員のパワハラは人事院規則10-16が根拠:民間の法律は適用されない
労働施策総合推進法のパワハラ措置義務(第31条〜第34条)は、一般職の国家公務員、裁判所職員、国会職員、自衛隊員には適用されません(同法第48条)。このため国家公務員は、2020年6月1日に施行された人事院規則10-16(パワー・ハラスメントの防止等)に従います。施行以来、規則本体は改正されていません(e-Gov法令検索の履歴で確認)。一方、規則を運用するための人事院の通知(職職―141)は、令和8年4月15日に最終改正されています。この記事の「優越的な関係」「相談員」「不利益」の説明は、改正後の通知の本文に沿っています。
規則第2条の定義は、次の要素でできています。
- 職務に関する優越的な関係を背景として行われる言動であること
- 業務上必要かつ相当な範囲を超えること
- 職員に精神的・身体的な苦痛を与える、人格や尊厳を害する、勤務環境を害する、のどれかに当たること
民間の定義は「就業環境が害される」の一つですが、規則10-16は三つの結果のどれかで足りる書き方です。人事院の運用通知は、「優越的な関係」を職位の上下に限らないとしています。業務に必要な知識や経験を持っていて協力を得ないと仕事が進まない同僚・部下、同僚や部下の集団による行為で抵抗や拒絶が難しい場合も含みます。
「業務上必要かつ相当な範囲」を超えるかどうかは、言動の目的、受け手の行動、頻度や継続性、関与した人数、当事者の関係などをふまえ、社会通念に照らして総合的に判断されます。人事院は、パワハラは受け手の主観だけでは判断できない、と説明しています。つらさは大事な情報ですが、判断には記録された事実が必要になります。
人事院が示すパワハラになり得る言動の例
人事院の運用通知と案内ページは、パワハラになり得る言動を次の類型で示しています。
| 類型 | 例 |
|---|---|
| 暴力・傷害 | 物で叩く、殴る・蹴る、物を投げつける |
| 暴言・名誉毀損・侮辱 | 人格を否定する、人前で侮辱する、複数宛てのメールで侮辱する |
| 執拗な非難 | 具体的な指示なく何度も書き直させる、長時間叱責する |
| 威圧的な行為 | 机を叩く、怒鳴り続ける、責任を押し付ける |
| 実現不可能・無駄な業務の強要 | 未経験者に過大な業務を課す、緊急性のない休日出勤を命じる、私的な雑用をさせる |
| 仕事を与えない・隔離・仲間外し・無視 | 仕事を与えない、別室に置く、無視する |
| 個の侵害 | 私生活への過度な干渉、個人情報の言いふらし |
人事院は、これが例示にすぎず、ここに当たらないからパワハラではないという趣旨ではない、と明記しています。表の7類型は、民間の指針の6類型とは並べ方が少し違いますが、指導との境目を見る考え方は共通です。民間の側の整理はパワハラとは?3要素と6類型・指導との境目を指針の言葉で整理で確かめられます。
規則が定める各府省・管理職・職員の責務
規則10-16は、立場ごとに義務を決めています。相談するとき、相手に何を求められるかの根拠になります。
- 各省各庁の長(第4条)。 防止のための措置と、起きたときの迅速かつ適切な措置が必要です。他の省庁の職員からパワハラを受けた場合は、相手の省庁に調査と指導を求めなければならず、求められた側は協力します。苦情の申出や調査への協力を理由とした不利益を職場で受けないようにする義務もあります。人事院の運用通知は、この不利益に人事・給与上の扱いだけでなく、同僚からの誹謗中傷などの仕返しも含むとしています。
- 職員(第5条第1項)。 パワハラをしてはなりません。
- 管理・監督の地位にある職員(第5条第3項)。 苦情相談を受けたら、迅速かつ適切に対処しなければなりません。
- 相談員の配置(第8条第1項)。 相談を受ける日時・場所を指定して体制を整え、職員に明示します。運用通知は、複数の相談員を置き、相談者が希望する性別の相談員が対応できるよう努めることを求めています。
相談員は原則2人で対応し、相談者の話を聞いて事実を記録して確認し、相手方にも弁明の機会を与えるとされています。「自分の話だけでなく相手の話も聞かれる」のは、公平に事実を確かめるための手続きです。
人事院の苦情相談の使い方:窓口・時間・できること
規則第8条第3項は、職員が各府省の相談員のほかに人事院にも苦情相談ができると定め、人事院が事情聴取などの調査を行い、指導・助言・あっせん等を行うとしています。
受付の窓口と方法(人事院の案内)
- 窓口:人事院公平審査局職員相談課(東京都港区)と、各地方事務局(所)。電話番号は人事院の電話相談の受付ページに載っています。窓口全体の一覧はパワハラの相談窓口一覧:電話番号・受付時間・できることの早見表から入れます。
- 受付時間:平日9:00〜17:00(受付は16:30まで)。
- 電話相談は原則30分以内、面談は予約制、手紙でも相談できます。メールは人事院の相談申込みフォームから送ります。旧姓での相談もできます。
番号や時間は変わることがあるため、連絡する前に人事院の電話相談の受付ページで最新の内容を確かめてください。
対象になる人は一般職の国家公務員です。裁判所職員、国会職員、防衛省職員などの特別職、行政執行法人の職員は人事院の苦情相談の対象外と案内されています。防衛省の職員は自衛隊のパワハラ相談先:防衛省のハラスメント窓口と外部の手段を見てください。
相談でできること。 規則13-5により、相談員は助言のほか、関係当事者への指導やあっせんを行い、必要に応じて事情聴取や照会などの調査ができます。相談員には秘密保持の義務があり、各省各庁の長は、相談や調査への協力を理由にした不利益が生じないよう配慮しなければなりません。ハラスメント相談は原則として本人の了承なく人事当局に伝えず、本人が文書やメールで依頼した内容は所属府省に伝えて対応を求めることができます。
相談でできないこと。 人事院の案内では、異動・昇格・他の職員の懲戒など任命権者の裁量事項の実施を求めること、損害賠償、謝罪の要求は対象外です。過去の行為について関係者の処分を求めることも対象外です。これらを求めたいときの道筋は、行政措置要求や弁護士への相談になります。
審査請求や行政措置要求、災害補償の審査申立てがすでに進んでいる事案は、原則として苦情相談の対象外です(規則13-5第2条第2項)。
相談から対応までの流れと、準備しておくこと
典型的な流れは次のとおりです。
- 記録を整理する。人事院も、相談前に言動の日時・内容、当事者との関係、証拠の有無、求める対応を整理するよう勧めています。
- 所属府省の相談員か、人事院に連絡する。所属に話しづらいときは人事院から入ってかまいません。
- 相談員が話を聞き、必要に応じて関係者から事情を聴く。ハラスメントの調査と認定は、所属府省が行うのが基本です。
- 本人の依頼があれば、人事院から所属府省に内容を伝え、対応を求める。
- 所属府省の対応に納得できないときは、勤務条件に関する行政措置要求など別の制度を検討する。
相談員に最初に伝える文例を示します。
文例:「◯月から◯月にかけて、課内の会議で上司から人格を否定する発言を受けました。日付と内容は記録しています。人事当局に伝わる範囲を、私が決めたうえで話したいです。」
人事院の苦情相談件数は、令和7年度に1,431件で、内容別で最も多いのが「パワー・ハラスメント、いじめ・嫌がらせ」の450件でした(31.4%)。前年度の550件から減っていますが、苦情相談全体の約3割です。同じ人が同じ内容で複数回相談した場合は回数分が数えられている点に注意してください。
規則10-16に加えて、2026年10月1日からは国家公務員のカスハラ(顧客等からの著しい迷惑行為)に対する人事院規則10-17(カスタマー・ハラスメントの防止等)が施行されています。対象は職務に係る行政サービスの利用者等からの言動です。上司や同僚からの言動は、これまでどおり規則10-16の問題になります。
相談の後に、加害者の処分の見通しが気になる人は公務員のパワハラは懲戒処分になる?停職・減給・戒告の標準例と令和7年の件数を、窓口が動かなかったときは公務員のパワハラで泣き寝入りしない:所属が動かないとき外に出せる3つの手段を、病気で休む必要があるときは公務員がパワハラで休職するとき:病気休暇と休職の違い・給与・傷病手当金を、精神疾患の補償は公務員のパワハラ労災は公務災害:地方・国家公務員の申請先を参照してください。
よくある質問
Q. 非常勤の国家公務員も、人事院に苦情相談できますか?
苦情相談は規則13-5で「職員」が対象とされ、離職した職員は離職に関する相談などに限られます。人事院は行政措置要求について、常勤・非常勤を問わず一般職の国家公務員が対象と案内しています。自分が一般職か、行政執行法人の職員などの別枠かは、所属の人事担当に聞いて確かめてください。
Q. 人事院に相談すると、所属府省に伝わりますか?
人事院のページでは、ハラスメントの相談は原則として本人の了承なく人事当局に伝えないとされています。本人が文書やメールで依頼した内容は、所属府省に伝えて対応を求められます。自傷のおそれがあるなどの緊急時は例外なので、相談の最初に伝え方を決めておくと安心です。
Q. 人事院に相談すれば、上司は処分されますか?
相談員にできるのは助言や、関係者への指導・あっせん、必要な調査です。他の職員の懲戒処分の実施を求めることは、人事院の案内で相談の対象外とされています。ハラスメントの調査と認定は所属府省が行うのが基本で、処分は任命権者が決めます。
出典・参考にした公的な情報
- 人事院規則10-16(パワー・ハラスメントの防止等)(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- パワー・ハラスメント防止(人事院規則10-16)(人事院)
- 人事院規則10-16の運用について(職職―141、最終改正 令和8年4月15日)(人事院)
- 苦情相談(人事院)
- 電話相談の受付(人事院)
- 人事院規則13-5(苦情相談)(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 令和7年度 年次報告書(人事院)
- 人事院規則10-17(カスタマー・ハラスメントの防止等)(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
出典の確認日:2026-10-24。制度や受付条件は変わることがあります。手続きの前に、各窓口の最新の案内を確認してください。
この記事は一般的な情報で、個別の法律判断・医療的な診断をするものではありません。