公務員のパワハラで泣き寝入りしない:所属が動かないとき外に出せる3つの手段
この記事のもくじ
組織が動かないと感じたとき、公務員が外に出せる手段は、国家公務員なら人事院、地方公務員なら人事委員会・公平委員会を軸に、苦情相談、勤務条件の措置要求、病気になった場合の公務災害の3本です。ただし、どれも加害者を処分させる制度ではなく、できることと数字の上での現実が違います。この記事では、組織が動かないときに順番に何を試せるかと、各制度の限界を並べます。
外に出せる手段の全体像:何ができて、何ができないか
公務員のパワハラは、民間のように労働局の援助・調停へ持ち込めません。労働施策総合推進法の紛争解決の特例(第35条〜第39条)は、国家公務員と地方公務員の両方に適用されないと、同法第48条が定めているからです。その代わりに、公務員だけが使える窓口が用意されています。
| 手段 | 窓口 | できること | できないこと |
|---|---|---|---|
| 苦情相談 | 国:人事院/地方:人事委員会・公平委員会 | 助言、関係者への指導・あっせん、所属への伝達 | 他の職員の懲戒、損害賠償、謝罪の要求 |
| 勤務条件の措置要求 | 同上 | 自分の勤務条件を将来に向けて改めるよう審査・判定を求める | 損害賠償、懲戒、謝罪の要求 |
| 不利益処分の審査請求 | 同上 | 自分に下された処分の取消しなどを求める | 加害者の処分を求めること |
| 公務災害の請求 | 国:所属府省など/地方:地方公務員災害補償基金 | 病気やけがの補償 | 加害者の責任追及 |
| 損害賠償・謝罪 | 弁護士(民事) | 個別の事案に即した判断 | — |
この表のうち、パワハラで一番使いやすいのは最初の苦情相談です。所属の窓口が当てにならないときも、組織の外から事情を伝えられるからです。窓口の電話番号や受付時間はパワハラの相談窓口一覧:電話番号・受付時間・できることの早見表にまとめてあります。国家公務員と地方公務員のどちらの話かで道が分かれるので、身分ごとの相談先は公務員のパワハラ相談先と対処:人事院・人事委員会など民間と違う窓口で確かめてください。
苦情相談:所属を通さずに外から伝える
国家公務員は人事院に、地方公務員は人事委員会または公平委員会に、勤務条件の苦情を持ち込めます。地方公務員法は、人事委員会と公平委員会が「職員の苦情を処理すること」を職務とすると定めています(第8条)。
人事院の苦情相談の運用には、知っておくと動きやすい点があります。ハラスメントの相談は、原則として本人の了承なしに人事当局へ伝えない扱いです。一方で、本人が文書やメールで依頼した内容は、所属府省に伝えて対応を求められます。ハラスメントの事案は、所属府省が調査して認定するのが基本です。つまり、人事院に話しただけでは所属に伝わりません。所属に動いてもらいたいなら、伝えてほしい内容を文書かメールで人事院に送ります。人事院のページによると、電話や面談で口頭で聞いた内容は、伝達内容の食い違いを防ぐため人事院から伝達しない扱いです。
地方公務員の苦情処理の件数と処理結果の内訳は、地方公務員のパワハラ:人事委員会・公平委員会への相談と措置要求に総務省の調査を載せています。総務省の令和7年度調査では、窓口の中心は助言と伝達で、指導まで進むのは少数です。期待しすぎないための物差しとして読んでください。
人事院に相談する前に、次の4点を書き出しておくと、30分以内とされる電話相談でも要点が伝わります。
- いつ、どこで、誰が、何を言った・したか(日時順)
- 所属の窓口や上司に伝えたか、その回答はどうだったか
- 診断書、メール、録音など、手元にある資料
- 結果として何を求めたいか(異動、席の変更、調査、再発防止など)
時系列の作り方はパワハラの時系列表の作り方:相談や申立てで使える経緯書の書き方にあります。
措置要求:職場環境の改善を公式に求める
苦情相談で動かないとき、次に使える公式の手続きが勤務条件の措置要求です。国家公務員は人事院に対し(国家公務員法第86条)、地方公務員は人事委員会または公平委員会に対し(地方公務員法第46条)、給与、勤務時間その他の勤務条件について適当な措置を求められます。委員会は審査して判定し、権限内のことは自ら実行し、ほかの機関の権限に属することは勧告します(地方公務員法第47条)。
人事院の説明では、次のような決まりがあります。
- 要求できるのは自分自身の勤務条件で、将来に向けて改善できるもの(業務の割り振り、勤務環境など)
- 損害賠償、職員の懲戒処分、上司の謝罪を求める内容は対象外
- 代理人による要求は認められず(登録された職員団体を通じて団体として行う方法はある)、離職した人はできない(要求後に退職すると打切り)
過去の判定を見ると、結果は一様ではありません。人事院の令和7年度報告では、令和8年2月5日の判定で「適切に業務を割り振らない等のパワー・ハラスメントを終結させ、再発を防止すること」を求めた要求(体調不良を理由とするテレワーク勤務の継続とあわせた要求)が棄却されました。一方、令和7年7月17日には、年次休暇を病気休暇に変更することと「業務が一切与えられることなく、孤立させられている状況を改善すること」を求めた要求が一部容認されています。地方公務員の処理結果の数字は地方公務員のパワハラ:人事委員会・公平委員会への相談と措置要求にあります。判定理由までは報告に載っていないため、「出せば通る」とも「通らない」とも言えず、何を求めるかの書き方で結果が変わりうる手続きです。
ここまでは人事院の説明です。地方公務員の措置要求の様式や提出先は各委員会の規則で決まるため、対象外の範囲も含めて、自分の自治体の人事委員会・公平委員会に電話で確かめてください。求める内容は、行為者の処分ではなく、勤務条件に言い換えます。たとえば「指示は文書かメールで受ける」「面談には第三者が同席する」「業務の割り振りを課内で明示する」のような形です。
病気になったとき:公務災害という道
パワハラで心身の不調が出たときは、休む手続きと並行して、公務災害の請求を考えます。民間の労災にあたるのが公務災害で、地方公務員は地方公務員災害補償基金が窓口、国家公務員は国家公務員災害補償法に基づき各府省が実施します。地方公務員では、被災した職員が任命権者を経由して基金に認定を請求する手続きで、補償を受ける権利は、行使できる時から2年で時効にかかります(障害補償・遺族補償は5年。地方公務員災害補償法第63条)。国家公務員も原則2年で、5年になるのは傷病補償年金・障害補償・遺族補償です(国家公務員災害補償法第28条)。
公務災害と認められれば、休職中の給与の扱いも「公務によらない病気」とは変わります。国家公務員の給与法では、公務上の負傷・疾病による休職は給与の全額が対象です。ただし認定されるかは個別の判断で、申請の準備や期限の細かい点は公務員のパワハラ労災は公務災害:地方・国家公務員の申請先で確かめてください。
組織が動かないことを、記録で示す
「所属に伝えたのに動かない」は、感想のままでは外の窓口に伝わりません。次の3つを、日付つきで残します。
- 所属の窓口や上司に伝えた日と、伝えた手段(口頭か、メールか)
- 回答の期限を聞いたかどうかと、その返事(「回答の時期を教えてください」と聞いた記録)
- 期限が過ぎても連絡がなかった日
「〇月〇日にご相談した件について、調査の予定と回答の時期を、〇月〇日までにお知らせください。」
この文を送るだけで、動かない状態が「いつからいつまで」だったかが残ります。
損害賠償や謝罪を求めたいとき、動く前に残すもの
人事院の苦情相談も措置要求も、損害賠償と謝罪は扱いません。これらを求めるなら、民事の話になります。仕組みとして知っておきたいのは、国家賠償法第1条です。国又は公共団体の公権力の行使に当たる公務員が、職務を行うについて故意又は過失によって違法に他人に損害を加えたときは、国又は公共団体が賠償する責任を負うと定めています(同条第1項)。公務員に故意又は重大な過失があったときは、国又は公共団体がその公務員に求償できます(同条第2項)。つまり請求の相手が、加害職員個人ではなく、国や自治体になる道筋があるということです。職場のハラスメントがこの条文に当たるかどうかは個別の判断になるので、弁護士に相談する分野です。
収入が一定以下なら、法テラスの無料法律相談が使える場合があります(法テラスでパワハラを相談するには:無料法律相談の条件と流れ)。弁護士の選び方はパワハラを弁護士に相談するときの選び方:労働者側か確かめる7項目にあります。
暴行や脅迫が絡むときは、組織の手続きとは別に警察への相談という道もあります(職場で暴力・脅しを受けたら:110番と#9110、警察への相談の仕方)。
どの道に進む場合も、材料は共通です。公務員は、すでに不利益処分を受けているなら期限が短い点に注意してください。国家公務員の審査請求は処分説明書を受け取った日の翌日から3か月以内、地方公務員は処分があったことを知った日の翌日から3か月以内で、起算点の書き方が違います(国家公務員法第90条の2、地方公務員法第49条の3)。次の順で材料を残します。
- 日時・場所・言葉・居合わせた人を、その日のうちにメモに残す(パワハラの記録の書き方:日時・言葉・場所・目撃者を残す記入例つき)
- 所属の窓口や上司に相談した日と回答を、メールなどの形で残す
- 受診したら診断書を取り、通院の日を記録する
- 資料をまとめて持ち出せない場合に備え、メモは自分の端末や紙で保管する(業務上の秘密や個人情報を含む書類の持ち出しは、服務規程に触れるおそれがある)
所属の窓口に文書で相談するときの一文の例です。
「〇月〇日以降に受けた言動について、相談します。日時と内容を別紙にまとめました。対応の方針と、回答の時期を教えてください。」
「回答の時期」を聞いておくと、動かない状態が続いたかを後から示せます。この記録が、人事院や委員会に持ち込むときの出発点になります。心身の限界が近いときは、休むことや辞めることも選択肢です(公務員がパワハラで休職するとき:病気休暇と休職の違い・給与・傷病手当金、公務員がパワハラで退職するとき:辞職願の出し方と承認の流れ)。
よくある質問
Q. 人事院に相談すると、加害者が処分されますか?
人事院の苦情相談は、相談員が助言し、必要に応じて関係者への指導やあっせんを行う仕組みで、他の職員の懲戒処分を求める窓口ではありません。ハラスメントの事案は所属府省が調査して認定するのが基本とされています。相談前に、何を求めたいのかを書き出しておくと話が早く進みます。
Q. 措置要求で、上司の謝罪や損害賠償を求められますか?
求められません。人事院の説明では、損害賠償、職員の懲戒処分、上司の謝罪を求める内容は措置要求の対象外です。今後の席の配置や業務の割り振りなど、自分の勤務条件を将来に向けて改める内容に組み替えて出します。損害賠償は民事の手続きで、弁護士に相談する分野です。
Q. 地方公務員でも労働局に相談できますか?
労働局の援助・調停とあっせんの制度は、国家公務員にも地方公務員にも適用されません(地方公営企業の職員など一部の例外があります)。窓口は、所属の相談窓口、人事委員会または公平委員会、教員なら教育委員会です。まず自分の自治体にどの委員会があるかを調べてください。
出典・参考にした公的な情報
- 苦情相談(人事院)(人事院)
- 勤務条件に関する行政措置の要求(人事院)(人事院)
- 令和7年度 年次報告書(人事院)(人事院)
- 地方公務員法 第8条・第46条・第47条・第49条の3(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 国家公務員法 第86条・第90条の2(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 令和7年度 措置要求及び審査請求の状況等に関する調査(総務省)(総務省)
- 電話相談の受付(人事院)(人事院)
- 労働施策総合推進法 第35条〜第39条・第48条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 国家賠償法 第1条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 一般職の職員の給与に関する法律 第23条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 地方公務員災害補償法 第63条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 国家公務員災害補償法 第28条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 公務災害の請求手続(地方公務員災害補償基金)(地方公務員災害補償基金)
出典の確認日:2026-10-24。制度や受付条件は変わることがあります。手続きの前に、各窓口の最新の案内を確認してください。
この記事は一般的な情報で、個別の法律判断・医療的な診断をするものではありません。