内定者へのパワハラ:入社前の研修や連絡で嫌がらせを受けたとき
内定先から嫌がらせを受けたとき、まず確かめるのは「自分が今、内定者としてどちらの立場にあるか」です。内定で労働契約が成立していると認められる場合は、入社前でも労働者に近い扱い。成立していなければ、求職者等として、2026年10月1日に施行された就活セクハラ対策の対象になります。この記事では、その二つの立場の違い、内定者研修や連絡で起きやすいこと、大学や労働局への相談の順番を整理します。
内定者の立場は二通りある
内定者の扱いは、内定で労働契約が成立していると認められるかで分かれます。厚生労働省の解釈事項Q&A問27は、セクハラについて次のように整理しています。
| 立場 | 適用される会社の義務 | 使われる指針 |
|---|---|---|
| 内定で労働契約が成立したと認められる | 男女雇用機会均等法11条1項の雇用管理上の措置、相談を理由とする不利益取扱いの禁止(11条2項) | セクハラ指針(内定者が学生の場合は、求職者等セクハラ指針の内容も参考にすることが望ましい) |
| 労働契約が成立したと認められない | 求職者等に対する措置(均等法13条) | 求職者等セクハラ指針 |
内定の法的な性質は事案によって異なり、どちらに当たるかは内定通知の内容や、その後の手続きなどで判断が分かれます。この記事ではどちらかを決めません。判断が必要なときは、労働局の窓口か弁護士に、内定通知書などを見せて聞きます。
どちらの場合でも共通しているのは、相談できる窓口が複数あることです。
就活セクハラの措置義務(均等法13条)
均等法13条は、事業主が雇用する労働者による性的な言動で、求職者等の求職活動等が阻害されることがないよう、相談に応じ適切に対応するための体制の整備その他の措置を講じることを義務づけています。2026年10月1日に施行され、今は施行済みです。
指針が挙げる「求職活動等」の例は、採用面接への参加、就職説明会への参加、社員への訪問(OB・OG訪問)、インターンシップへの参加、教育実習・看護実習などです。SNSなどのオンラインを介したものも含まれます。厚生労働省の学生向けリーフレットには、次のような場面が例に出ています。
- インターンシップ中に、社員から食事やデートにしつこく誘われた
- OB・OG訪問で、社員から性的な関係を求められた
- 面接中に、面接官から「恋人はいるのか」といったプライベートな質問を受けた
会社が講じる措置としては、相談窓口を決めて求職者等に周知すること、事実関係を迅速かつ正確に確認すること、被害者への配慮、プライバシー保護などがあります。面談の時間や場所、やり取りに使うSNSの種類を決めておくなど、求職活動のルールを前もって決めて周知することも挙がっています。内定者との連絡が、決められたルールを外れて個人のLINEや深夜の連絡になっていないかも、手がかりになります。
パワハラに近い言動の扱い
では、入社前の研修や連絡での怒鳴り、過大な課題、無視といった、性的でない嫌がらせはどう扱われるのでしょうか。
- 労働契約が成立していると認められる場合:均等法上は労働者として扱われます(Q&A問27)。パワハラ指針の対象になるかも、同じ「労働契約が成立しているか」が出発点になると考えられます(個別の判断は労働局に確かめます)
- 成立していない場合:求職者等へのパワハラに類する行為は、求職者等セクハラ指針6が「方針を示すことが望ましい」「相談があれば適切な対応に努めることが望ましい」と書く取組の範囲です。厚生労働省のQ&A問36も同じ整理です。パワハラ指針6にも、就職活動中の学生等の求職者に対する言動について、同様の方針を示すことが望ましいとする定めがあります
後者は、措置義務ではなく「望ましい取組」である点に注意が必要です。そのため会社が動くかどうかは、会社の姿勢にも左右されます。だからこそ、記録を取り、会社以外の窓口も並行して使うことが現実的な備えになります。
内定者研修や入社前の連絡で記録しておく項目は次のとおりです。
- 連絡の手段と日時(メール、LINE、電話。スクリーンショットで残す)
- 言った人の名前と立場(人事、現場の先輩、役員など)
- 言われた言葉と、求められた内容(課題の量、提出期限、参加の求め)
- 参加しないと言ったときの返答
- 内定通知書や承諾書に書かれている内容(研修の位置づけ、参加条件)
研修への参加が条件として内定通知や誓約書に書かれているかどうかで、会社の求めが妥当かどうかの見え方が変わります。書面は手元に保存してください。
相談する順番
- 記録を整える。上の5項目を、1回ごとに書き出します
- 大学のキャリアセンターに話す。リーフレットは、事業主が対応してくれない、事業主に相談しにくいときは、学校のキャリアセンターや都道府県労働局に相談するよう案内しています。新卒応援ハローワーク等にも相談できます
- 会社の相談窓口に伝える。人事担当者以外に窓口が置かれる場合もあります。伝えるのは事実と、求めたいこと(連絡手段の変更、担当者の変更など)です
- 都道府県労働局の雇用環境・均等部(室)、総合労働相談コーナーに相談する。無料で、学生や就職活動中の人も相談できます
窓口の番号と受付時間はパワハラの相談窓口一覧:電話番号・受付時間・できることの早見表にまとめています。就活のセクハラ全般は就活セクハラとは?2026年10月から義務化された会社の対策と相談先、内定承諾の迫り方に困っているときはオワハラとは?内定承諾や他社辞退を迫られたときに学生が確かめることが合います。
大学への相談の伝え方の例です。
「内定をいただいた会社の研修について相談したいです。〇月〇日から、課題の提出を深夜に何度も求められ、断ると『やる気がない』と言われました。連絡の画面は保存しています。」
入社するか迷うときの選択肢
嫌がらせを受けたあとで、入社するか迷うのは自然なことです。選択肢を並べると、次のようになります。
- 入社する前に、会社の窓口や担当者の変更を求める
- 入社を延期する、または辞退する(連絡の仕方は、先にキャリアセンターへ)
- 入社して様子を見る。そのときも、嫌がらせの記録は残しておく
- 入社後に環境が合わなければ、会社の窓口や外部の窓口を使う、または転職を考える
入社後に環境が合わなければ、転職を考える前に、まず会社の窓口と外部の窓口を使えます。確かめる点は、入社後に相談できる窓口がどこにあるか、研修や配属の説明が書面で出ているかです。
入社までの間に、会社から送られてきた労働条件が聞いていた話と違うと感じたときは、入社前と違う労働条件だったとき:明示された条件の確かめ方と相談先で、書面と照らし合わせる手順を確かめられます。入社後に指導が厳しいと感じたときは、新人の指導とパワハラの境目:毎日怒られるときに確かめることが使えます。
よくある質問
Q. 内定を辞退したくなったら、嫌がらせを受けたことを理由に伝えてもよいですか?
辞退の連絡の仕方に決まった型はありません。理由を伝えるかどうか、どう伝えるかは、先に大学のキャリアセンターに話して決めると、あとで食い違いが出にくくなります。嫌がらせの記録は、辞退する場合でも残しておいてください。
Q. 内定者懇親会で性的な冗談を言われました。パワハラの窓口ですか?
性的な言動はセクハラの話になります。内定者向けの懇親会への参加が必要になる場面は、厚生労働省の解釈事項Q&Aでも想定されています。内定で労働契約が成立していると認められればセクハラ指針、成立していなければ求職者等セクハラ指針に基づく対応が会社に求められます。
Q. 親や大学に知られずに、労働局へ相談できますか?
労働局の雇用環境・均等部(室)や総合労働相談コーナーは、匿名でも相談でき、無料です。どこまで話すかは自分で決められます。ただ、会社に何かを求める手続きに進む場合は、名前を出す必要が出てくることがあるので、相談員に流れを聞いてから決めてください。
出典・参考にした公的な情報
- 男女雇用機会均等法 第11条・第13条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 職場におけるハラスメントの防止のために(2026年10月1日からの義務化を含む)(厚生労働省)
- 解釈事項Q&A(問27 内定者へのセクハラ、問35・問36)(厚生労働省)
- 求職者等に対するセクハラ対策のリーフレット(学生・生徒の皆さまへ)(厚生労働省)
- 事業主が講ずべきハラスメント対策パンフレット(パワハラ指針6 を含む)(厚生労働省)
出典の確認日:2026-10-24。制度や受付条件は変わることがあります。手続きの前に、各窓口の最新の案内を確認してください。
この記事は一般的な情報で、個別の法律判断・医療的な診断をするものではありません。