パワハラの基準がおかしいと感じたら:認められにくい理由と次の一手
「つらいのに、パワハラの基準には当たらないと言われた」「基準がおかしい」と感じるのは、珍しいことではありません。認められにくい理由の多くは、指針が3要素を全て満たすことを求め、そのうち②業務上の必要性と③平均的な労働者の感じ方が、本人の実感とずれやすい物差しだからです。
ただし、パワハラと判断されないことは、何もできないことを意味しません。職場の「いじめ・嫌がらせ」として労働局のあっせんを使う道、労災の認定基準、雇用保険の離職理由など、パワハラの定義とは別の物差しを持つ制度があります。このページでは、否定されやすい理由を仕組みから整理し、次に打てる手を順番に並べます。
パワハラの基準がおかしいと感じる理由:指針の仕組みから見る
パワハラの判断で使われる厚生労働省の指針は、①優越的な関係を背景とした言動、②業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの、③就業環境が害されるもの、の3つ全てを満たすものをパワハラとしています。実感とのずれが生まれやすいのは、次の4つの場面です。
| 否定されやすい場面 | 指針の物差し | 本人の実感とずれる理由 |
|---|---|---|
| 「指導の範囲だった」と言われる | ②は言動の目的、問題行動の有無を含む経緯、頻度、態様などを総合的に考える。問題行動があれば、その程度と指導の仕方の釣り合いが重要な要素 | 自分にミスがあると、言い方のひどさより「ミスへの注意」として見られやすい |
| 「普通はそこまで感じない」と言われる | ③の判断基準は「平均的な労働者の感じ方」 | 体調や過去の出来事で受け止めが強くなっていても、基準は社会一般の目線になる |
| 「相手は同僚だから」と言われる | ①は上司のほか、知識・経験で頼らざるを得ない同僚・部下や、集団による言動が例 | 一対一の同僚との関係だと、優越性が説明しにくい |
| 「双方の言い分が違う」と言われる | 会社は相談者と行為者の双方から事実を確かめ、一致しなければ第三者からも聴く | 録音や目撃者がないと、事実が確定しにくい |
この表のどこで引っかかっているかを特定すると、補うべき材料が見えてきます。②なら直前の業務の状況と言動の態様、③なら仕事と体への具体的な影響、①なら相手との依存関係、事実の食い違いなら記録と目撃者です。要素ごとの書き出し方はパワハラの基準を3要素で確かめる20問にまとめています。
指針の物差しを読むときに、知っておきたい点もあります。厚生労働省のパンフレットは、指針の例と少し異なる(たとえば「繰り返し」とある例が1回だけだった)からといって、それだけで該当しない、または該当するとはならないと説明しています。また指針は、判断にあたって労働者が受ける身体的・精神的な苦痛の程度なども総合的に考慮するとし、③について、強い苦痛を与える態様なら1回でも就業環境を害する場合があり得るとパンフレットは書いています。基準は「本人の感じ方を無視する」ものではなく、「本人の感じ方だけでは決めない」ものです。考え方の詳細は「就業環境が害される」とは?3要素の3つ目の解説で説明しています。
「認定されない」と言われたときに確かめること
会社から「パワハラとは認められない」と伝えられたら、結論だけで終わらせず、次の点を確かめておくと次の動きにつながります。
- どの要素で当たらないと判断したのか。 ①②③のどれか、事実がはっきりしなかったのか、を聞きます。
- 誰から何を聴いたのか。 行為者だけでなく、目撃者や第三者にも聴いたかどうか。
- 再発防止の措置をとるのか。 指針は、パワハラの事実がはっきりしなかった場合でも、方針の再周知や研修などの再発防止の措置を講じるよう会社に求めています。
- 今後、同じことがあったときの相談先と対応。
聞き方の例です。口頭で聞いたあと、同じ内容をメールで送っておくと、やりとりが記録に残ります。
文例:「先日はご対応ありがとうございました。『パワハラには当たらない』とのご回答について、どの点からそう判断されたのか、また、どなたから事情を聴かれたのかを教えていただけますでしょうか。あわせて、今後同様のことがあった場合の相談先と、職場として予定されている再発防止の取り組みがあれば伺いたいです。」
相談したことや事実確認に協力したことを理由とする解雇その他の不利益な取扱いは、労働施策総合推進法第31条2項で禁じられています。相談後に扱いが変わったと感じたら、その日時と内容も記録してください。会社が動かないときの確かめ方はパワハラを相談しても会社が対応しないときにあります。
パワハラの枠に入らなくても使える制度
パワハラの定義に当てはまるかどうかと、次に挙げる制度の物差しは別です。それぞれ、判断する機関と基準が違います。
| 制度 | 判断する機関 | 使う物差し・対象 | 窓口 |
|---|---|---|---|
| 個別労働紛争の助言・指導、あっせん | 都道府県労働局長、紛争調整委員会 | 対象の紛争例に「いじめ・嫌がらせ」がある。労働者と事業主の間の紛争 | 総合労働相談コーナー |
| 労災保険(精神障害) | 労働基準監督署 | 認定基準の出来事に「パワーハラスメント」のほか「同僚等から、暴行又はひどいいじめ・嫌がらせを受けた」「上司とのトラブルがあった」などが並ぶ | 労働基準監督署 |
| 雇用保険の離職理由 | ハローワーク | 特定受給資格者の範囲に「上司、同僚等からの故意の排斥又は著しい冷遇若しくは嫌がらせを受けたことによって離職した者」がある | ハローワーク |
| 会社の安全配慮義務 | 最終的には裁判所 | 労働契約法第5条(生命・身体等の安全を確保しつつ働けるよう必要な配慮をする義務) | 弁護士・法テラス |
いじめ・嫌がらせとしてのあっせんは、パワハラの3要素がそろわない場合に検討されやすい道です。厚生労働省によると、あっせんは弁護士や大学教授などの紛争調整委員が間に入る手続きで、無料・非公開、当事者は別室で待機し顔を合わせない形で進みます。会社に参加の義務はなく、参加しなければ打ち切りになります。パワハラ・セクハラなどの措置義務をめぐる紛争は、あっせんではなく労働局長の援助と調停の対象になる(労働施策総合推進法第35条〜第37条)ため、どちらの手続きになるかは労働局が受付で振り分けます。違いは労働局の調停とあっせんの違い、同僚からのいじめへの対処は職場のいじめへの対処法:大人のいじめを相談・あっせんにつなぐ方法で詳しく扱っています。
労災は、精神障害の認定基準で心理的負荷を評価します。パワハラに当たらない出来事でも、別の出来事として評価される場合があります。ただし認定には発病などの要件があり、認められにくい理由と準備はパワハラの労災認定は難しい?認められにくい理由と準備できることで整理しています。
次の一手:基準に納得できないときの順番
基準への不満を抱えたまま我慢を続けるより、目的に合った制度を選んで材料をそろえるほうが、状況は動きやすくなります。
- 目的を1つ決める。 「職場で言動をやめてほしい」「離れたい」「休んで治したい」「責任を問いたい」のどれを優先するかで、使う制度が変わります。
- 記録を補う。 上の表で引っかかった要素に合わせて、直前の業務の状況、言動の態様、体と仕事への影響、目撃者を足します。
- 社外の窓口で、使える制度を聞く。 総合労働相談コーナーは、パワハラ・いじめ・嫌がらせを含む労働問題全般を予約なし・無料で受け付けています。番号と受付時間はパワハラの相談窓口一覧を見てください。
- 責任を問うことを考えるなら、弁護士に事実を見せる。 損害賠償の見込みは個別の事情で大きく変わるため、記録を持って専門家に判断してもらいます。手段の比較はパワハラで訴える前に知りたいことにあります。
インターネットの質問サイトなどでは、似た状況への断定的な回答も見かけます。事情が少し違えば判断も変わるため、最終的には自分の記録をもとに、公的な窓口や専門家に聞いてください。心身のつらさが強いときは、制度の検討より先に休むことと受診を優先してください。
よくある質問
Q. 会社に「パワハラには当たらない」と言われました。労働局に相談してもよいですか?
相談できます。都道府県労働局の雇用環境・均等部(室)や総合労働相談コーナーは、会社で対応してもらえない場合や社外で相談したい場合の窓口として厚生労働省が案内しており、相談は無料です。会社の判断の内容と、自分の記録を持っていくと話が進みやすくなります。
Q. 同僚からのいじめで、相手個人を相手にあっせんを申し込めますか?
できません。労働局のあっせんは労働者と事業主の間の紛争を扱う制度で、厚生労働省は「労働者同士の紛争」を対象外としています。同僚からのいじめ・嫌がらせは、相手方を会社(事業主)として、会社に何を求めるかを決めて申請する形になります。なお、会社の措置義務をめぐる紛争はあっせんではなく援助・調停の対象で、どちらになるかは労働局が受付で振り分けます。同僚個人に責任を問う方法は、弁護士に相談して確かめてください。
Q. 認められにくいなら、記録を続ける意味はありますか?
あります。記録は、社内の再調査、労働局への相談、労災の請求、離職理由の申し立てなど、パワハラかどうかの判断とは別の場面でも使われます。どの制度でも、日時と具体的な言動が分かる記録が判断の出発点になります。
出典・参考にした公的な情報
- 事業主が講ずべきハラスメント対策パンフレット(パワハラ指針 令和8年10月1日適用時点の本文とQ&Aを収録)(厚生労働省)
- 個別労働紛争解決制度(総合労働相談・助言指導・あっせん)(厚生労働省)
- 個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律 第4条・第5条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 労働施策総合推進法 第31条・第35条〜第37条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 心理的負荷による精神障害の認定基準(令和5年9月1日 基発0901第2号)(厚生労働省)
- 労働契約法 第5条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 特定受給資格者及び特定理由離職者の範囲の概要(ハローワーク(厚生労働省))
出典の確認日:2026-10-23。制度や受付条件は変わることがあります。手続きの前に、各窓口の最新の案内を確認してください。
この記事は一般的な情報で、個別の法律判断・医療的な診断をするものではありません。