パワハラを相談しても会社が対応しないとき:外へ出す前に確かめること
この記事のもくじ
パワハラを相談しても会社が対応しないなら、社外の手段として、都道府県労働局に相談し、労働局長の助言・指導・勧告や紛争調整委員会の調停を求める道があります。会社には、相談に応じて適切に対応する体制を整え、事実を確認して措置をとる義務があるからです(労働施策総合推進法第31条)。ただ、外へ出す前に「相談が会社に記録として届いているか」「何がどう止まっているのか」を確かめておくと、労働局でも話が早く進みます。
パワハラで会社が対応しないとき:会社の義務と外の仕組み
会社(事業主)が負っているのは、パワハラを防ぐための雇用管理上の措置です。厚生労働省の指針は、相談を受けた後の対応として、次のことを求めています。
- 事実関係を迅速かつ正確に確認する(相談者と行為者の双方から聞き、主張が食い違えば第三者からも聞く)
- 事実が確かめられたら、被害者への配慮の措置と、行為者への措置を行う
- 再発防止の措置をとる。事実関係がはっきりしない場合も、再発防止の措置は講じる
- パワハラに当たるか微妙な場合でも、広く相談に対応する
つまり「パワハラとまでは言えないから何もしない」「調べたが白黒つかないので終わり」という扱いは、指針の求める対応とずれている可能性があります。会社の義務の全体はパワハラで会社の義務は何?相談したら会社がするべき10の措置にまとめています。
会社が動かないときに使える社外の仕組みは、次の3つです。
| 仕組み | 根拠 | 中身 |
|---|---|---|
| 労働局への相談 | 厚生労働省の案内 | 雇用環境・均等部(室)や総合労働相談コーナーで相談できる。無料・匿名可 |
| 労働局長の援助 | 労働施策総合推進法 第36条 | 当事者の一方からの申し出でも、労働局長が会社に助言・指導・勧告できる |
| 調停 | 同法 第37条・第38条 | 紛争調整委員会の調停委員3人が双方の話を聞き、調停案をつくって受諾を勧める |
このほか、厚生労働大臣(権限は労働局長に委任できる)は会社に報告を求め、助言・指導・勧告を行えます。措置義務に違反して勧告に従わない会社は、企業名を公表される場合があります(第42条)。報告をしない、うその報告をした場合は20万円以下の過料です(第45条・第51条)。罰則の全体はパワハラ防止法に罰則はある?違反した会社への勧告と企業名公表で扱っています。
「対応しない」の中身を分ける:5つの型
ひと口に「会社が動かない」と言っても、止まっている場所は人によって違います。どの型かで、次にとる手が変わります。
| 型 | よくある状態 | 次の一手 |
|---|---|---|
| ① 窓口がない・分からない | 誰に相談すればよいか示されていない | 人事に窓口を文書で尋ねる。示されなければ労働局へ |
| ② 受け付けたまま連絡がない | 相談して数週間、事実確認の連絡も予定もない | 期限を区切って、確認の予定を書面で尋ねる |
| ③ 調べたが「パワハラではない」 | 結論だけ伝えられ、理由や再発防止の説明がない | 判断の理由と、とった再発防止の措置を尋ねる |
| ④ 認めたが何も変わらない | 行為者と同じ席・同じ担当のまま | 配慮の措置(担当替え・席の変更など)を具体的に求める |
| ⑤ 相談後に扱いが悪くなった | 外された、評価が下がった、仕返しの言動 | 相談を理由とする不利益取扱いの問題として記録し、外部へ |
⑤に当たるときは、会社の対応の遅さとは別の問題です。パワハラを相談して悪化したら:報復・不利益な扱いへの対処で、記録の取り方と相談先を詳しく扱っています。
③の「パワハラではない」と言われたケースでも、指針は、事実がはっきりしない場合を含めて再発防止の措置を求めています。結論に納得できないときは、会社の判断を覆そうと争うより先に、「どの事実を確かめ、どう判断したのか」「再発防止として何をしたのか」を文書で尋ねるほうが、後で労働局に説明する材料になります。
外へ出す前に確かめること:チェックリスト
労働局に相談するときに聞かれやすいのは、「会社にいつ、誰に、何を相談し、会社はどう答えたか」です。次の項目を手元でそろえてから動くと、援助や調停に進むかどうかの判断が早くなります。
- 相談した日・相手(窓口・人事・上司の名前)・方法(面談・メール)を書き出した
- 相談の中身(いつ・どこで・誰に・何を言われ、されたか)を時系列表にした
- 会社からの返事(口頭なら日付と言われた言葉)を記録した
- 回答の期限を区切って、書面で会社に問い合わせた
- 就業規則の、ハラスメントの禁止・懲戒・相談窓口の条文を確かめた
- 会社に何をしてほしいのか(担当替え、事実確認、再発防止など)を言葉にした
- 体調の変化(受診・欠勤)を記録した
会社への問い合わせは、口頭ではなくメールで送っておくと「会社が対応しなかった」ことの記録になります。
メールの例:「人事部 ○○様 9月30日に、上司の△△さんの言動について面談でご相談しました。その後3週間、事実確認の予定などのご連絡をいただいていません。事実確認をいつ、どのように行う予定か、10月31日までにお知らせいただけますか。ご回答が難しい場合は、その理由をお聞かせください。」
それでも返事がない、あるいは「対応しない」と言われたら、その返信や無回答の事実ごと、労働局へ持って行けます。時系列表の作り方はパワハラの時系列表の作り方:相談や申立てで使える経緯書の書き方、会社とのやり取りを書面で残す方法はパワハラ相談の記録を会社に残してもらう:相談と回答を書面にする方法を見てください。
社内でまだ試していない道があれば、外に出す前に使えるかを考えます。直属の上司が加害者なら、その上の上司や人事へ伝える道があります(パワハラを上司の上司に相談するとき:伝え方の文例とメールの型・パワハラを人事に相談する方法:面談で伝える順番と動かないときの次)。もちろん、社内で試し尽くさないと労働局に相談できない、という決まりはありません。
労働局に出すときの流れと、できること・できないこと
労働局の手続は、段階を追って進みます。
- 相談:雇用環境・均等部(室)または総合労働相談コーナーで、状況を話す。窓口の連絡先はパワハラの相談窓口一覧:電話番号・受付時間・できることの早見表にまとめています
- 援助の申し出:会社への働きかけを希望すると、労働局長が会社の言い分も聞いたうえで、助言・指導・勧告を行う
- 調停の申請:話し合いでの解決を目指す場合、紛争調整委員会が双方の意見を聞き、調停案を示す
- 解決しないとき:調停は解決の見込みがなければ打ち切られる。打ち切りの通知から30日以内に同じ請求で訴えを起こせば、時効の扱いで調停申請の時に訴えたものとみなされる
この仕組みが扱うのは、会社が措置をとったか、相談を理由に不利益に扱ったかをめぐる労働者と会社の争いです。加害者個人に慰謝料を求めたい、といった話は別の手続(裁判など)になります。調停とあっせんの違いや手続の詳細は労働局の助言・指導と調停:パワハラ・カスハラの紛争を解決する仕組みで確かめてください。
援助や調停を求めたことを理由に、会社が解雇その他の不利益な扱いをすることは禁じられています(第36条2項・第37条2項)。
公務員の場合は窓口が違う
国家公務員・地方公務員には、労働局の援助と調停(第35条〜第39条)が適用されません。国家公務員の一般職などには、会社の措置義務の条文(第31条〜第34条)自体も適用されず、人事院規則などの別の枠組みで扱われます。公務員の場合の動き方は公務員のパワハラで泣き寝入りしない:所属が動かないとき外に出せる3つの手段で整理しています。
社外に出すと決める前に考えておきたいこと
外に出すことは、会社との関係を変える一歩でもあります。決める前に、次の点を自分の中で整理しておくと、後で迷いにくくなります。
| 考えておくこと | 理由 |
|---|---|
| 会社に残って働き続けたいか | 残るなら、担当替えなど「職場の変化」を求める援助・調停が中心になる |
| 求めたいのは職場の改善か、お金か | お金を求めるなら、労働局の制度だけで終わらず弁護士への相談も視野に入る |
| 体調は相談や手続に耐えられるか | 不調が続くなら受診・休職を先にする選択もある |
| 時効が近づいていないか | 損害賠償の請求には期限がある |
体の不調が強いとき、手続を急ぐより休むことを先にしてよい場面もあります。気持ちの面の窓口は仕事がつらい・限界のときの相談先:電話・LINEの窓口と受付時間にまとめています。会社が動くかどうかに関係なく、記録を続けておくことが、どの道を選ぶ場合でも土台になります。
次の記事では、相談したあとに職場での扱いが悪くなったときの動き方を扱います。パワハラを相談して悪化したら:報復・不利益な扱いへの対処へ進んでください。
よくある質問
Q. 会社に知られずに労働局へ相談できますか?
厚生労働省は、雇用環境・均等部(室)や総合労働相談コーナーへの相談は匿名でもよく、プライバシーは守られると案内しています。一方、労働局長の援助や調停は、会社に働きかけたり会社の言い分を聞いたりする手続なので、名前を出して進めることになります。どの段階で何を伝えるかは、相談の時に窓口で確かめておくと安心です。
Q. 労働局は会社に、加害者の異動や処分を命令できますか?
労働局長ができるのは助言・指導・勧告で、命令や罰則つきの強制ではありません。調停も、調停案の受諾を勧めるもので、受けるかどうかは当事者が決めます。勧告に従わない会社については、厚生労働大臣が企業名を公表できる仕組みがあります。
出典・参考にした公的な情報
- 労働施策総合推進法 第31条・第35条〜第38条・第42条・第45条・第48条・第51条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 事業主が講ずべきハラスメント対策パンフレット(パワハラ指針 令和8年10月1日適用時点の本文)(厚生労働省)
- 職場におけるハラスメントの防止のために(相談先の案内)(厚生労働省)
出典の確認日:2026-10-24。制度や受付条件は変わることがあります。手続きの前に、各窓口の最新の案内を確認してください。
この記事は一般的な情報で、個別の法律判断・医療的な診断をするものではありません。