法的手段の前に / Q&A

労働局のあっせんでの解決金:公的な調査から分かる傾向と準備

この記事のもくじ
  1. 公的な調査で分かる、あっせんの解決金の水準
  2. いじめ・嫌がらせの事案と、勤続年数による違い
  3. より新しい調査:令和5年度の解雇型事案
  4. 数字を読むときの4つの注意
  5. 調査の数字を、自分の準備にどう生かすか

労働局のあっせんの解決金に、決まった相場はありません。公的な調査として、労働政策研究・研修機構(JILPT)が2015年に公表した報告書があり、2012年度に4つの労働局で扱ったあっせんでは、解決金の中央値は156,400円(月収の1.1か月分)でした。いじめ・嫌がらせの事案に限ると中央値は150,000円で、解雇の事案よりやや低めです。より新しい2025年公表の調査(令和5年度、解雇型の事案のみ)では中央値が235,000円でした。

公的な調査で分かる、あっせんの解決金の水準

JILPTの労働政策研究報告書「労働局あっせん、労働審判及び裁判上の和解における雇用紛争事案の比較分析」は、労働局のあっせん・労働審判・裁判上の和解の3つの制度を比べた調査です。対象は、2012年度に4労働局で受理したあっせん853件、2013年に4地方裁判所で終わった労働審判452件と、和解で終わった労働関係の訴訟193件です。

項目(中央値) 労働局のあっせん 労働審判 裁判上の和解
解決金額 156,400円 1,100,000円 2,301,357円
月収に対する倍率 1.1か月分 4.4か月分 6.8か月分
請求した金額 60万円 260万円 約529万円
事案の発生から解決まで 2.1か月 5.1か月 14.1か月
金銭で解決した割合 96.6% 96.0% 90.2%

あっせんは、ほかの2つの制度に比べて金額は低めですが、解決までの期間が短く、費用もかかりません。また、あっせんでは労使双方とも弁護士などを利用しない割合が95.0%で、本人どうしで臨む手続だという特徴もあります。

いじめ・嫌がらせの事案と、勤続年数による違い

同じ報告書は、事案の内容ごとの解決金額も示しています。あっせんのいじめ・嫌がらせ事案と解雇事案を比べると、次のとおりです。

あっせん(2012年度) 平均 中央値 下から4分の1 上から4分の1 月収比の中央値
いじめ・嫌がらせ事案 243,930円 150,000円 69,400円 300,000円 1.0か月分
解雇事案 345,866円 200,000円 100,000円 400,000円 1.4か月分

いじめ・嫌がらせの事案は、半分ほどが7万〜30万円の範囲に収まっていたことになります。労働審判と裁判上の和解の調査対象には、いじめ・嫌がらせの事案は含まれていませんでした。

勤続年数との関係も報告されています。あっせんの解決金額の中央値は、勤続1か月未満で100,000円、1か月〜1年未満で150,000円、1〜5年未満で160,000円、5〜10年未満で163,298円、10年以上で291,000円でした。報告書は、勤続年数が長いほど金額はおおむね高くなるものの、10倍長く勤めても2倍にもならない程度の差だとまとめています。

より新しい調査:令和5年度の解雇型事案

JILPTは2025年12月、令和5年度に4つの労働局で処理が完結したあっせんのうち、解雇・雇止めなど解雇型の雇用終了事案485件を分析した報告書(No.237)を公表しました。パワハラやいじめ・嫌がらせの事案は対象に入っていないので、ハラスメントの解決金の目安にはなりませんが、近年のあっせんの金額感を知る材料になります。

項目 令和5年度・解雇型事案(485件)
合意成立 180件(37.1%)
被申請人(会社)の不参加 207件(42.7%)
解決金額(金額が分かる179件) 中央値23.5万円、下から4分の1が10.0万円、上から4分の1が45.7万円
月収表示(170件) 中央値1.03か月分、下から4分の1が0.57か月分、上から4分の1が2.14か月分
請求金額の中央値 90.3万円

2012年度の調査(全体の中央値156,400円、月収1.1か月分)と比べると、月収に対する倍率はほぼ同じ水準です(この調査の賃金月額の中央値は23.0万円)。ただし、事案の種類も調査対象の範囲も違うので、数字の差を「あっせんの金額が上がった」と読むことはできません。

数字を読むときの4つの注意

注意点:あっせんの解決金の数字を使う前に
  1. 2012年度のデータで、4つの労働局の抽出。全国・最新の平均ではない(令和5年度の調査は解雇型のみ)
  2. 合意が成立した事案だけの金額。2012年度に合意したのは853件中324件(38.0%)
  3. パワハラだけでなく、解雇・雇止め・退職勧奨などを含む雇用紛争全体の数字
  4. 制度によって事案の性質が違うため、制度を変えれば金額が上がるという因果では読めない

2つ目の注意は特に大切です。会社が参加しなかった事案や合意できなかった事案は、あっせんによる支払いがないまま終わっており、この中央値には入っていません。令和7年度の厚生労働省の資料でも、あっせんで処理された4,220件のうち合意の成立は1,141件(27.0%)でした。会社が来ないときの次の手は労働局のあっせんを会社が拒否したらで説明しています。

また、厚生労働省の資料には、あっせんで解決した事例として10万円・20万円の解決金の例が載っていますが、これは個別の事例で、相場を示すものではありません。解雇の解決金について同じ調査を読んだ記事として、不当解雇の解決金に相場はあるかもあります。

調査の数字を、自分の準備にどう生かすか

調査の数字は「自分ならいくら」を教えてくれるものではありません。使い道は、会社から示された金額や、自分が考えている金額を、話し合いの前に冷静に見直す物差しにすることです。準備は次の順で進めます。

  1. 損害の項目を書き出す:治療費、通院の交通費、休職・欠勤で減った収入、精神的な苦痛。項目の考え方はパワハラの損害賠償で請求されうる項目で整理している。
  2. 根拠の資料をそろえる:領収書、給与明細、休職の期間が分かる書類、診断書。
  3. 月収と勤続年数を確かめる:調査が月収比や勤続年数で整理しているように、話し合いでも基準として使われやすい。
  4. お金以外に求めることを決める:謝罪、配置の見直し、退職日や退職理由の書き方。調査では、謝罪や離職理由の変更が合意の内容になった例もあった。
  5. 譲れる線を決めておく:当日は委員が双方の部屋を行き来して調整するので、その場で迷わないよう、受け入れる最低限の条件を紙に書いておく。

文例(申請書の「求める事項」の書き方):「治療費○万円、休職期間中の収入の減少分○万円、精神的苦痛に対する分を含め、解決金として○○万円の支払いを求める。あわせて、退職理由を会社都合とすることを求める。」

金額の妥当さは、事情によって大きく変わります。決める前に、弁護士や法テラスの法律相談で、証拠と一緒に見てもらうと安心です。申請書の書き方とあっせん当日の流れは労働局のあっせんの流れ、合意書に署名する前の確かめ方はパワハラの解決金・示談と合意書の注意点で扱っています。

よくある質問

Q. あっせんより労働審判のほうが、解決金は高くなりますか?

調査では、中央値はあっせん156,400円、労働審判1,100,000円、裁判上の和解2,301,357円でした。ただし制度ごとに扱う事案の性質や請求額が違い、労働審判や訴訟では労使とも弁護士を付けることが多いので、制度を変えれば金額が上がるという意味には読めません。時間・費用・心身の負担と合わせて比べます。

Q. あっせんで求める金額は、いくらと書けばいいですか?

調査の中央値をそのまま書くのではなく、治療費や休業中の収入の減少など根拠のある項目を積み上げ、精神的な苦痛への分を加えて考えます。金額の妥当さは個別の事情で変わるので、決める前に弁護士や法テラスの法律相談で見てもらうと安心です。

Q. あっせんで決まった解決金が払われなかったら?

厚生労働省のパンフレットでは、あっせんの合意は民法上の和解契約で、強制執行はできないとされています。払われないときは、合意書をもとに支払いを求める裁判の手続などを考えることになるので、合意書と振込の記録を保管し、弁護士に相談します。

出典・参考にした公的な情報

出典の確認日:2026-10-23。制度や受付条件は変わることがあります。手続きの前に、各窓口の最新の案内を確認してください。

この記事は一般的な情報で、個別の法律判断・医療的な診断をするものではありません。

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