パワハラとは・判断の材料 / 制度解説

過大な要求とは?こなせない仕事量やノルマがパワハラになる境目

この記事のもくじ
  1. 過大な要求とは:指針の3つの例と、該当しない2つの例
  2. 繁忙期の指示との違い:比べる5つの観点
  3. 労働時間の物差し:法律の上限を知っておく
  4. 記録すべき数字:量・期限・時間を1枚に
  5. 記録を持って相談する先と、体を守ること

毎日終電まで働いても終わらない量を振られる、とても届かないノルマを課されて未達を責められる、上司の私用まで押し付けられる――こうした状況は、厚生労働省のパワハラ指針が6類型の4つ目「過大な要求」として説明している内容に関わります。指針はこの類型を「業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制・仕事の妨害」と括弧書きで示し、長期間の過酷な環境下での業務と無関係な作業の命令、教育をしないまま新卒者に到底無理な目標を課して叱責すること、私的な雑用の強制を例に挙げています。一方、繁忙期に通常より一定程度多い業務を任せることは該当しない例です。境目は「どれくらい多いか」を数字で示せるかどうかにかかっているので、この記事では、指針の例と比べる観点と、量・期限・時間の記録の仕方をまとめます。

過大な要求とは:指針の3つの例と、該当しない2つの例

パワーハラスメント(パワハラ)の指針(令和2年厚生労働省告示第5号)の、2026年10月1日適用時点の本文にある例は次のとおりです。

区分 指針の例
該当すると考えられる例 ①長期間にわたる、肉体的苦痛を伴う過酷な環境下での勤務に直接関係のない作業を命ずること
②新卒採用者に対し、必要な教育を行わないまま到底対応できないレベルの業績目標を課し、達成できなかったことに対し厳しく叱責すること
③労働者に業務とは関係のない私的な雑用の処理を強制的に行わせること
該当しないと考えられる例 ①労働者を育成するために現状よりも少し高いレベルの業務を任せること
②業務の繁忙期に、業務上の必要性から、当該業務の担当者に通常時よりも一定程度多い業務の処理を任せること

どの例も、①優越的な関係を背景に、②業務上必要かつ相当な範囲を超え、③就業環境が害される、の3要素を満たすことが前提です。例は限定列挙ではないと厚生労働省のパンフレットは説明しています。6類型を並べて見るならパワハラ6類型の早見表、3要素の2つ目の考え方は業務上必要かつ相当な範囲とは何かを例で読む記事が参考になります。

もう1つ、ノルマと結びつきやすい点として、令和8年版の指針は、労働者の自由な意思に反して自社の商品やサービスを購入させる「商品の買い取り強要等」に関連する言動も、3要素を満たせばパワハラに当たると明記しました。目標に届かない分を自腹で買うよう求められている場合は、その指示も記録の対象です。

繁忙期の指示との違い:比べる5つの観点

「忙しいのはみんな同じ」と言われると、自分の状況が特別なのか分からなくなります。指針の例と該当しない例の文言を比べると、見るべき点が浮かびます。

観点 該当しない例に近い状態 該当する例に近い状態
期間 繁忙期など、終わりが見えている 「長期間にわたる」。時期を問わず続いている
量の根拠 業務上の必要性が説明されている 業務上明らかに不要、または到底こなせない量
支え 育成のため、教育や相談の機会がある 必要な教育がないまま任されている
できなかったとき 原因の確認や分担の見直しがある 厳しい叱責や不利益な扱いが続く
業務との関係 自分の担当業務の範囲 業務と関係のない私的な雑用

指針は、言動の目的、業種・業態、業務の内容・性質、言動の態様・頻度・継続性、労働者の属性や心身の状況などを総合的に考えるとしています。同じ量でも、経験年数や体調によって見え方が変わるということです。指導との違いをより広く比べたいときはパワハラと指導の違いを見分ける5つの視点を読んでください。

労働時間の物差し:法律の上限を知っておく

仕事量の多さは、労働時間に表れます。労働基準法は、労働時間を原則として1週40時間・1日8時間までとし(第32条)、それを超えて働かせるには労使協定(いわゆる36協定)の締結と届出が要ると定めています(第36条1項)。協定で延ばせる時間の限度は、原則として1か月45時間・1年360時間です(同条4項)。臨時的な特別の事情がある場合でも、1か月は休日労働を含めて100時間未満、1年は720時間以内という枠があります(同条5項)。

この上限を超えているかどうかは、パワハラかどうかとは別に、労働時間の問題として労働基準監督署などに相談できる事柄です。逆に、上限の内側だから過大な要求ではない、とも言い切れません。指針の物差しは時間だけでなく、要求の中身が業務上明らかに不要か、到底こなせないかにあるからです。労働時間を自分で残す方法は残業の証拠の残し方、サービス残業を求められている場合はサービス残業の強要がつらいときの記事で扱います。

記録すべき数字:量・期限・時間を1枚に

過大な要求の相談では、「多すぎる」という感想より、比べられる数字が力になります。次の表を1日1行で埋めていくと、1か月後には量の推移が見える資料になります。

記録表の型:過大な要求を数字で残す
日付 指示された仕事(件数・量) 指示の日時と期限 自分の見積り時間 実際の始業・終業・持ち帰り 担当者数・欠員 未達時の言葉
10/14 見積書12件 10/14 9時指示、当日17時 約9時間 8:30〜22:40、持ち帰り1時間 4人中2人休職で欠員 「できないなら辞めろ」

書くときのポイントです。

  1. 指示の時刻と期限を両方書く。 「17時に指示、翌朝9時締切」のように、使える時間そのものが短いことが分かります。
  2. 自分の見積りも書く。 通常どれくらいかかる仕事かを書いておくと、量の過大さを第三者が想像しやすくなります。
  3. 人員の変化を書く。 欠員や退職で一人あたりの量が増えた経緯は、期間の長さとともに大事な背景です。
  4. 目標の数字は原本を残す。 目標管理シートや朝礼で示された数字の写し、達成率の表などを保存します。
  5. 叱責は言葉のまま。 未達のときに言われた言葉は、精神的な攻撃の記録にもなります。書き方は精神的な攻撃の例と記録を参考にしてください。

量について上司と話すときは、口頭だけで終わらせず、優先順位をメールで確かめておくと、指示の内容がそのまま記録に残ります。

文例:〇〇課長 本日ご指示いただいたA社向け資料と、すでに担当しているB案件の見積り12件を、どちらも金曜17時までに終えるのは難しい見込みです。A社向け資料を先に仕上げる形でよいか、または期限の調整が可能か、ご指示をお願いします。

記録の型を広く見たい場合はパワハラの証拠集めの手順にまとめています。

記録を持って相談する先と、体を守ること

過大な要求は、時間外労働や賃金の不払いを伴うことがあり、その部分は労働基準法の問題として労働基準監督署に申告する道もあります。パワハラとして相談するなら、社内の窓口のほか、総合労働相談コーナーや都道府県労働局の雇用環境・均等部(室)へ。相談を理由とする不利益な取扱いは法律で禁じられています。番号と受付時間はパワハラの相談窓口一覧にあります。

長い労働時間が続くと、体調を崩すことがあります。眠れない日が続く、休日も仕事のことが頭から離れないといった状態なら、記録より先に受診を考えてください。業務による心理的な負荷で心の病気になった場合の労災の仕組みはパワハラによる精神障害の労災認定の記事で扱います。過大な要求と反対に、仕事を減らされる・取り上げられる形の類型は過小な要求です。

よくある質問

Q. 入社1年目なのに、先輩と同じ売上目標を課されています。過大な要求に当たりますか?

当たるかどうかは、教育の有無、目標の水準、達成できなかったときの扱いなどを合わせて判断されます。指針は「新卒採用者に必要な教育を行わないまま到底対応できないレベルの業績目標を課し、達成できなかったことに対し厳しく叱責すること」を例に挙げています。受けた教育の内容、目標の数字、未達のときに言われた言葉を記録し、相談先に示してください。

Q. 残業代がきちんと払われていれば、過大な要求とはいえないのですか?

別々の物差しです。残業代の支払いは労働基準法の問題で、過大な要求かどうかは、業務上明らかに不要なことや遂行できないことを強制していないか、という指針の物差しで見られます。残業代が払われていても量や期限が現実的でない状態は記録しておき、未払いがあれば労働時間の問題としても相談できます。

Q. 業務と関係のない用事を頼まれるのも過大な要求ですか?

指針は「業務とは関係のない私的な雑用の処理を強制的に行わせること」を過大な要求の例に挙げています。上司の私用の買い物や家の用事を断れない形で頼まれている場合は、頼まれた日時と内容、断ったときの反応を記録しておきましょう。

出典・参考にした公的な情報

出典の確認日:2026-10-24。制度や受付条件は変わることがあります。手続きの前に、各窓口の最新の案内を確認してください。

この記事は一般的な情報で、個別の法律判断・医療的な診断をするものではありません。

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