職場のモラハラ加害者は処分される?懲戒の仕組みと被害者ができること
この記事のもくじ
職場でモラハラ(モラルハラスメント)をしている人が処分されるかどうかは、会社が就業規則に基づいて決めることで、被害者が処分の種類や重さを決めることはできません。それでも被害者には、会社に事実確認と再発を防ぐ措置を求める道があり、言動が懲戒の規定に当たると会社が判断すれば、けん責・減給・出勤停止などの懲戒につながります。この記事では、懲戒の仕組み、モラハラが会社の対応の対象になる道筋、処分を求めるときの伝え方を順に整理します。
モラハラ加害者の処分は、就業規則の懲戒の定めで決まる
会社が社員を懲戒するには、就業規則にその根拠が書かれていることが前提です。労働基準法89条は、常時10人以上を使用する会社に就業規則の作成と届出を求め、制裁の定めをする場合は「その種類及び程度」を書くよう定めています。さらに労働契約法15条は、懲戒が行為の性質・態様などに照らして客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当でないときは、権利の濫用として無効になると定めています。会社が処分に慎重になるのは、重すぎる処分が後で無効と争われるおそれがあるためです。
厚生労働省のモデル就業規則(令和7年12月版)は、服務規律の中に「職場のパワーハラスメントの禁止」(12条)と「その他あらゆるハラスメントの禁止」(15条)を置いています。懲戒の区分は、けん責(始末書を出させて将来を戒める)、減給、出勤停止、懲戒解雇の4つが例示され、ハラスメント禁止の規定に違反したときは情状に応じてけん責・減給・出勤停止、情状が悪質と認められるときは懲戒解雇、という並びです。減給には上限があり、1回は平均賃金1日分の半額まで、総額は1賃金支払期の賃金総額の10分の1までと労働基準法91条が定めています。
ただしモデルの解説は、処分の種類はこの4つに限られず事業場ごとに決められるとしています。自分の会社で何が懲戒の対象になり、どんな処分があるかは、就業規則の「服務規律」と「懲戒」の章を読むのが確かめる近道です。区分ごとの賃金の扱いや上限、自宅待機との違いは、処分を受ける側の目線で書いたパワハラ加害者の処分の種類と懲戒の段階にまとめています。この記事では、モラハラの被害を受けた側が、会社に何を求められるかに絞ります。
モラハラが会社の対応の対象になる2つの道
「モラハラ」は法律や指針の用語ではありません。そのため会社に動いてもらうには、言動を会社のルールの言葉に置き換えて伝える必要があります。道は大きく2つです。
| 道 | 当てはめる基準 | 会社の対応の根拠 |
|---|---|---|
| ① パワハラとして扱う | 指針の3要素(優越的な関係を背景に/業務上必要かつ相当な範囲を超え/就業環境が害される)をすべて満たす | 労働施策総合推進法31条の措置義務(事実確認・被害者への配慮・行為者への措置・再発防止) |
| ② 社内規程の違反として扱う | 3要素に届かなくても、就業規則の「あらゆるハラスメントの禁止」や「職場の秩序を乱す行為」などに当たる | 就業規則の服務規律と懲戒の定め |
①について、パワハラ指針は「優越的な関係」を上司に限っていません。業務に必要な知識や経験を持つ同僚や部下の言動、抵抗や拒絶が難しい同僚・部下の集団による行為も例に挙げています。年上の同僚による嫌味や仲間外れでも、3要素に当てはまれば会社の措置義務の対象です。年上の女性社員からの言動に悩んでいる場合は、職場のおばさんのモラハラへの対処も参考になります。
②については、パワハラに当たるかの判断が分かれる場合でも、会社の就業規則に幅広い禁止規定があれば、会社はその違反として調べることができます。どちらに当たるかを自分で決めきる必要はなく、相談窓口では「こういう言動が続いている」と事実を出せば足ります。自分の受けている言動を整理したい場合は、職場のモラハラチェックリストで言葉・態度・孤立の項目ごとに書き出してから相談すると伝えやすくなります。
被害者が会社に求められること:事実確認と措置
パワハラ指針(令和8年10月1日適用時点の本文)は、相談を受けた会社が行う「事後の迅速かつ適切な対応」として、次の流れを示しています。被害者として求められるのは、この流れを動かしてもらうことです。
- 事実関係の確認:相談者と行為者の双方から聞き取り、主張が食い違えば第三者からも聴く。確認が難しければ労働局の調停など中立な機関に委ねる。
- 被害者への配慮の措置:関係改善の援助、引き離すための配置転換、行為者の謝罪、労働条件上の不利益の回復、メンタルヘルス不調への相談対応など。
- 行為者への措置:就業規則等に基づく懲戒その他の措置、配置転換、謝罪など。
- 再発防止の措置:方針の再周知や研修の再実施。事実関係がはっきりしなかった場合も行う。
ここで押さえておきたいのは、懲戒は3の中の一つの選択肢であり、指針が並べているのは措置の「例」だという点です。会社がどの措置を選ぶかは事案ごとに決まります。また、相談したことや事実確認に協力したことを理由に解雇その他の不利益な取扱いをすることは、労働施策総合推進法31条2項で禁じられています。会社が聞き取りで何を確かめるかは、パワハラのヒアリングで被害者が準備することにまとめています。
| 被害者が求められること | 会社が決めること |
|---|---|
| 事実を調べてほしい、聞き取りをしてほしい | 誰に、どの順で、どう聞くか |
| 加害者との接点を減らしてほしい(席・担当・報告ルート) | 配置転換の有無と範囲 |
| 同じことが起きない体制にしてほしい | 研修・周知・再発時の対応の決め方 |
| 就業規則に沿って対応してほしい | 懲戒の有無・種類・重さ |
モラハラで事実確認が難しくなる場面と、被害者が補える材料
モラハラは、殴る・物を投げるといった外形の分かりやすい行為と違い、言葉・態度・無視が中心です。その場に人がいても、会社の聞き取りで「言った」「言っていない」の食い違いになりやすく、処分の判断以前に、事実が確認できるかが壁になります。パワハラ指針は、事実確認では相談者と行為者の双方から聴き、主張が一致しないときは第三者からも事実を聴くことを例に挙げ、確認が難しい場合は労働局の調停など中立な第三者機関に委ねるとしています。被害者の側でも、会社が確認に使える材料を、次のように用意しておけます。
| 食い違いが出やすい点 | 補える材料 |
|---|---|
| 言った言葉、態度の中身 | 日時・場所・言葉をそのまま書いた記録(書き方はパワハラの記録の書き方) |
| その場の様子 | その場にいた人の名前。会社が聞き取る相手として伝える |
| 一度きりか、続いているか | 日付ごとの一覧。メールやチャットなど、自分が当事者のやり取りの保存 |
| 仕事や体調への影響 | 担当を外された経緯、ミスが増えた時期、通院を始めた日 |
同僚に証言を頼むかどうかは慎重に決めます。頼まれた側が行為者との関係で板挟みになるおそれがあるためです。無理に頼まず、「会社が聞き取りをするときに、その場にいた人として名前を出してよいか」だけを確かめておけば足ります。味方の作り方はパワハラで職場に味方を作るにあります。
処分を求めるときの伝え方:処分の重さより「何をしてほしいか」
「加害者を処分してください」とだけ伝えると、会社は懲戒の要否という重い判断から入ることになり、時間がかかるうえ、結果が伝えられないこともあります。被害者の側からは、事実確認と自分の環境の改善を先に求め、処分は会社の規程に委ねる形にすると、話が前に進みやすくなります。伝える前に、次の3点をそろえておきます。
- 言動の記録(日時・場所・言われた言葉・その場にいた人)。書き方はパワハラの記録の書き方にあります。
- 業務や体調への影響(ミスが増えた、眠れない、通院したなど)。
- 会社にしてほしいことの優先順位(接点を断つ配置、聞き取り、再発防止など)。
文例(相談窓口・人事あてのメール):「◯◯部の△△さんから、◯月以降、人前での人格を否定する発言や、私だけに業務連絡を回さない対応が続いています。記録を添付します。事実関係の確認と、△△さんとの業務上の接点を減らす配置へのご配慮をお願いします。行為者への対応については、就業規則に沿ってご判断いただければと思います。対応の見通しを◯日までにお知らせください。」
返事の期限を書いておくと、動きがないときに次の手を打つ目安になります。面談で話した内容は、終わった後に「本日お伝えした内容の確認です」とメールで送っておくと、相談した事実と日付が残ります。
処分されない・対応が不十分だと感じたとき
会社が「処分はしない」と判断しても、それだけで手詰まりにはなりません。まず、事実確認をしたのか、配置や接点はどう変わるのか、再発したらどこに連絡すればよいのかを質問します。そのうえで社内での解決が難しいと感じたら、社外の公的な窓口を使えます。
- パワハラとして扱う道:都道府県労働局の雇用環境・均等部(室)に相談でき、労働局長による助言・指導・勧告(労働施策総合推進法36条)や、紛争調整委員会の調停(37条)を申し出る道があります。窓口でできることは労働局のハラスメント相談窓口の使い方で説明しています。
- 3要素に当たるか迷ういじめ・嫌がらせ:総合労働相談コーナーから、個別労働紛争の助言・指導やあっせんにつなぐ道があります。流れは次に読む職場のいじめへの対処法で扱います。
社内で動いてもらえない場合の確かめ方はパワハラを相談しても会社が対応しないときに、上司が加害者の場合の処分の流れはパワハラ上司は処分されるかにまとめています。労働局の窓口も会社の懲戒を代わりに決めるところではないので、「加害者を罰してもらう」より「自分が安全に働ける状態を取り戻す」ことを目標に置くと、使う手段を選びやすくなります。
よくある質問
Q. 加害者がどんな処分を受けたか、会社に教えてもらえますか?
パワハラ指針が会社に求める措置には、行為者への処分の内容を被害者に知らせることまでは挙げられていません。指針は相談者だけでなく行為者のプライバシー保護も求めているため、処分の中身は伝えられないこともあります。知りたいのは「同じことが続かないか」なので、配置や接点がどう変わるのか、再発したときの連絡先はどこかを確かめる聞き方が通りやすくなります。
Q. 加害者が処分されないなら、相談しても意味がないのでしょうか?
懲戒は会社が取りうる対応の一つにすぎず、指針は引き離しのための配置転換や謝罪、研修による再発防止なども措置の例に挙げています。事実関係がはっきりしなかった場合でも、会社は再発防止の措置を講じることとされています。処分の有無だけで相談の成否を判断せず、自分の働く環境がどう変わったかで見ていきます。
Q. 加害者を懲戒解雇にしてほしいと会社に言ってもいいですか?
希望を伝えること自体は止められませんが、処分の種類や重さを決めるのは会社で、重すぎる懲戒は労働契約法15条で無効になりうるため、会社は慎重に判断します。要望の中心は「事実確認」「接点を断つ配置」「再発防止」に置き、処分については「就業規則に沿った対応をお願いします」と添える程度にすると話が進みやすくなります。
出典・参考にした公的な情報
- 労働契約法 第15条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 労働基準法 第89条・第91条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 労働施策総合推進法 第31条・第36条・第37条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 事業主が講ずべきハラスメント対策パンフレット(パワハラ指針 令和8年10月1日適用時点の本文を収録)(厚生労働省)
- モデル就業規則(令和7年12月)第12条・第15条・第67条・第68条(厚生労働省)
出典の確認日:2026-10-23。制度や受付条件は変わることがあります。手続きの前に、各窓口の最新の案内を確認してください。
この記事は一般的な情報で、個別の法律判断・医療的な診断をするものではありません。