パワハラのトラウマが続くとき:辞めた後も苦しい人が使える支え
パワハラのつらい場面が、辞めた後も勝手によみがえる、悪夢を見る、似た声を聞くと体がこわばる。こうした状態が続くときは、一人で耐えるより、受診→公的な相談→カウンセリングの順で支えを増やしていくのが安全です。国立精神・神経医療研究センターの解説では、生死に関わるような強い体験の後に不安や不眠などが出ても、数か月のうちに落ち着く人が少なくない一方、なかなか楽にならない、悪化する、数か月から数年後にはっきりしてくる場合もあるとされています。数か月たっても続く、あるいは悪化しているなら、専門家に相談する目安です。この記事では、よく見られる反応、支えを使う順番、受診で伝えること、回復の時間の考え方を整理します。
眠れない、食べられない、死にたい気持ちがあるときは、先にこの記事を読み進めるより、仕事がつらい・限界のときの相談先の24時間の電話窓口につながってください。
辞めた後も続く「トラウマ」の反応とは
国立精神・神経医療研究センターの「こころの情報サイト」は、PTSD(心的外傷後ストレス障害)の主な症状として、次の3つを挙げています。病名がつくかどうかは医師が判断することですが、自分に起きていることを言葉にする手がかりになります。
| 反応 | 解説の内容 | パワハラの後に起こりうる例 |
|---|---|---|
| 再体験 | つらい記憶が、意志に関係なく突然よみがえる。フラッシュバックや悪夢 | 怒鳴られた場面が電車の中で急によみがえる。元上司が夢に出る |
| 回避 | 記憶を呼び起こす場所や状況を避ける。感情がまひしたように感じる | 前の職場の近くを通れない。同じ業界の求人を見ると手が止まる |
| 過覚醒 | いつも緊張していらだち、ささいなことに驚く。眠りが浅くなる | 電話の着信音で心臓が跳ねる。新しい職場で叱られる前から身構える |
同じ解説は、このほかに、自分を過度に責める、周りの人を信じられなくなる、といったことも起きうるとしています。パワハラの後に「また同じ目に遭うのでは」と人を警戒してしまうのは、珍しいことではありません。
PTSDの解説では、きっかけとなる出来事を、死の危険や重いけが、性暴力などに直面する体験としています。職場のパワハラがすべてこれに当たるわけではありませんが、病名がつくかどうかにかかわらず、上の表のような反応で生活に支障が出ているなら、受診や相談の対象になります。
支えを使う順番:受診・公的な相談・カウンセリング
どこから手をつければいいか迷うときは、次の順で考えます。
| 順番 | 使う先 | こんなときに | できること |
|---|---|---|---|
| 1 | 医療機関(精神科・心療内科) | 眠れない、食べられない、反応が数か月続く・悪化している | 診断、治療(心理療法・薬)、必要なら診断書 |
| 2 | 公的な相談(精神保健福祉センター、保健所、こころの耳) | 受診先が分からない、受診の前に話を聞いてほしい | 相談、受診先の相談、地域の支援の案内 |
| 3 | カウンセリング(医療機関内、会社のEAP、民間) | 治療と並行して、または落ち着いてから、じっくり話したい | 気持ちと出来事の整理、考え方の見直しの練習 |
1. 受診。 眠れない日が続く、食事がとれない、反応のせいで外出や仕事ができないという状態なら、最初に医療につながります。国立精神・神経医療研究センターの解説では、PTSDの治療として、トラウマに焦点を当てた認知行動療法(持続エクスポージャー療法、認知処理療法など)や眼球運動脱感作療法(EMDR)、抗うつ薬などが挙げられています。こうした専門の治療を受けられる医療機関かどうかは、受診前に電話で尋ねられます。初診の準備はパワハラで心療内科を受診するとき:初診で伝えることと準備にまとめています。
2. 公的な相談。 どこを受診すればよいか分からないときは、都道府県・政令指定都市の精神保健福祉センターや保健所に相談できます。同サイトによれば、精神保健福祉センターには医師・保健師・公認心理師などの専門職がいて、電話か予約制の面接で相談を受けています。働く人の心の悩みなら、厚生労働省の「こころの耳」も電話・LINEで聞いてくれます。受付時間と番号は仕事がつらい・限界のときの相談先で確かめられます。
3. カウンセリング。 治療と並行して、あるいは症状が少し落ち着いてから、出来事や気持ちをじっくり整理したいときに向いています。通院中なら、公認心理師法第42条2項により、公認心理師は主治医の指示を受けて支援することになっています。主治医にカウンセリングを受けたいと伝えてから始めると、両方の支援がかみ合います。
受診のときに伝えること
トラウマの反応は、診察室では言葉にしにくいものです。次のメモを用意しておくと、短い診察時間でも伝わりやすくなります。
- いつ、何があったか:パワハラの時期と、特につらかった出来事を2〜3個
- いま困っている反応:よみがえる場面、悪夢の頻度、避けている場所や状況
- 生活への影響:眠り、食事、外出、新しい仕事への影響
- きっかけになるもの:声、音、場所、においなど
- これまでに受けた治療や相談
伝え方の例:「前の職場で上司から1年ほど人前で怒鳴られていました。辞めて4か月たちますが、週に何回か怒鳴られた場面が急によみがえり、そのたびに動悸がします。夜中に目が覚めて眠れず、転職活動も手につきません。」
話しているうちにつらくなったら、「ここから先は話すのが苦しいです」と伝えて構いません。詳しい内容は、信頼関係ができてから少しずつ話せば足ります。
回復の時間の考え方と、日常でできる工夫
回復にかかる時間は人によって大きく違い、決まった期限はありません。同じ解説が、数か月のうちに落ち着く人が少なくないとしつつ、長引く場合や後から現れる場合もあるとしているように、「もう何か月もたったのに」と自分を責める必要はありません。回復は一直線とは限らず、よい日と悪い日を行き来することがあります。悪い日があっても、そこで振り出しに戻ったと考えず、よい日が増えているかを数週間単位で見ます。
日常の負担を減らす工夫も並べておきます。
- よみがえったときの手順を決めておく:国立精神・神経医療研究センターは不安への対応として、ゆっくり息を吐く呼吸法を紹介しています。ほかに、足の裏や椅子の感触に注意を向ける、今いる場所の物を3つ声に出す、といった方法を、自分に合うものを選んで試します
- 避けていることを書き出す:今は避けてよいもの、少しずつ慣らしたいものを分ける。慣らす練習は医療者やカウンセラーと相談しながら行う
- 眠りと食事を最優先にする:転職活動などの予定は、眠れる日が増えてから組む
- 前の職場の情報を遮る:元同僚のSNSをミュートにする、業界のニュースを見る時間を決める
悔しさや怒りが中心の場合は、前のパワハラの悔しさ・許せない気持ちの整理の書き出しや人に話す方法が使えます。立ち直るまでの過程を全体として知りたい人は、パワハラから回復するまで:立ち直る過程と焦らないための目安を読んでください。
辞めた後に使える支えと、次の一歩
症状のせいで働けない期間がある場合、業務による精神障害として労災を請求できることがあります。認定の要件と流れはパワハラによる精神障害の労災認定:3つの要件と申請の流れで、退職後に使える相談窓口と期限は退職後でもパワハラを相談できる?辞めた後に使える窓口と期限で確かめてください。
医療と並行して、同じ相手とじっくり話せる場がほしい人には、有料のオンラインカウンセリングも選択肢の一つです。トラウマを扱った経験があるか、公認心理師・臨床心理士などの資格、料金、担当を固定できるかを確かめて選んでください。カウンセリングは診断や治療の代わりにはならないので、反応が強い時期は受診を優先します。
「自分はもう役に立たない」という気持ちが強く残っている人は、次のパワハラで自信喪失したとき:自分の価値を取り戻す小さな手順に進んでください。死にたい気持ちがあるときは、ためらわず仕事がつらい・限界のときの相談先の24時間の電話窓口を使ってください。
よくある質問
Q. 辞めてから何年もたつのに思い出して苦しいのは、おかしいですか?
おかしなことではありません。国立精神・神経医療研究センターの解説でも、つらい体験から数か月から数年たってから症状が現れることもあるとされています。時間がたっているからと我慢せず、生活に支障が出ているなら受診や相談をしてください。
Q. 退職した後でも、パワハラを相談したり労災を申請したりできますか?
退職後でも相談できる公的な窓口はあり、業務による精神障害の労災も退職後に請求できます。ただし給付ごとに時効があるため、迷っているなら早めに確かめてください。窓口と期限は、退職後に使える窓口の記事と労災認定の記事にまとめています。
Q. 元上司に似た人を見るだけで動悸がします。どうしたらいいですか?
似た声や姿をきっかけに体が反応するのは、国立精神・神経医療研究センターの解説にある「再体験」や「過覚醒」に近い反応です。その場では深くゆっくり息を吐き、足の裏の感覚に注意を向けて落ち着くのを待ちます。頻繁に起きて外出や仕事に差し支えるなら、受診のときにそのまま伝えてください。
出典・参考にした公的な情報
- こころの情報サイト「PTSD(心的外傷後ストレス障害)」(国立精神・神経医療研究センター)
- こころの情報サイト「相談しあう・支えあう」(精神保健福祉センター・保健所)(国立精神・神経医療研究センター)
- 公認心理師法 第42条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- こころの耳 電話相談(厚生労働省)
出典の確認日:2026-10-23。制度や受付条件は変わることがあります。手続きの前に、各窓口の最新の案内を確認してください。
この記事は一般的な情報で、個別の法律判断・医療的な診断をするものではありません。