労災 / 手順

パワハラの労災申請の流れ:請求書の提出から調査・決定まで

この記事のもくじ
  1. パワハラの労災申請の流れ:受診から決定までの6段階
  2. 請求書の種類:療養と休業で様式と出し方が違う
  3. 証明欄・申立書・提出先:出す前にそろえるもの
  4. 提出したあと:調査、決定、不服のとき
  5. 時効と、2027年4月から施行される改正

パワハラによる精神障害の労災申請は、本人が請求書を書いて、働いている(働いていた)事業場を管轄する労働基準監督署(以下、労基署)に出すのが基本の流れです。治療費は療養補償給付、休んだ間の補償は休業補償給付と、給付ごとに請求書が分かれています。提出後は労基署が本人・会社・主治医から資料を集め、聴取を行い、認定基準に当てはめて支給か不支給かを決めます。この記事では、請求書の種類、証明欄、提出先、提出後の調査、時効までを手順の順に整理します。

パワハラの労災申請の流れ:受診から決定までの6段階

全体の流れを先に一覧にします。それぞれの段階の詳しい説明は、このあと見出しごとに扱います。

手順表:パワハラによる精神障害の労災申請
段階 本人がすること 相手
1 受診 職場で起きたことと時期を主治医に伝える 医療機関
2 書類の入手 療養・休業の請求書、精神障害用の申立書を手に入れる 厚生労働省・労働局のサイト、労基署
3 証明 事業主の証明欄、医師の証明欄を埋めてもらう 会社、主治医
4 提出 請求書(療養は病院経由の場合あり)と申立書を出す 所轄の労基署
5 調査 資料の提出、聴取に応じる 労基署
6 決定 支給・不支給の通知を受ける。不服なら3か月以内に審査請求 労基署、労災保険審査官

労災保険の給付は「請求に基づいて」行うと法律に定められていて(労災保険法12条の8)、会社が代わりに出すものではありません。会社には、本人が手続きをしにくいときに助力し、証明を求められたら速やかに証明する務めがあります(労災保険法施行規則23条)。体調が悪く自分で動けないときは、家族が書類を集めたり、会社に助力を頼んだりしながら進めることもできます。

申請の前に、そもそも認定の要件を満たしそうかを知りたいときはパワハラで労災は認められる?精神障害の3つの要件と申請の流れ、セクハラが原因のときはセクハラ・マタハラでも労災になる?精神障害の認定基準での扱いを先に読んでください。

請求書の種類:療養と休業で様式と出し方が違う

精神障害で使うことが多いのは、次の3つの様式です。厚生労働省の「主要様式ダウンロードコーナー」や労基署で入手できます。

請求するもの 様式 出し方 証明する人
治療費(労災指定医療機関で受診) 様式第5号(療養補償給付たる療養の給付請求書) 受診する指定病院等を経由して労基署へ(施行規則12条) 事業主(発病年月日、災害の原因と発生状況)
治療費(指定外の医療機関で立て替えた) 様式第7号(1)(療養の費用請求書) 本人が労基署へ(施行規則12条の2) 事業主、診療担当者(傷病名、療養の内容、費用の額)
休んだ間の補償 様式第8号(休業補償給付支給請求書) 本人が労基署へ(施行規則13条) 事業主(発病年月日、原因と状況、平均賃金、休業期間など)、医師(療養期間、傷病名、経過)

様式第8号の「災害の原因及び発生状況」の欄は狭く、パワハラの経緯を書ききれません。欄には要点だけを書き、詳しい経緯は次に説明する申立書で伝えます。休業補償給付の金額の計算や、最初の3日間の扱いはパワハラ労災の休業補償給付で詳しく説明しています。

健康保険の傷病手当金をすでに受けている人は、同じ病気が業務上と認められると扱いが変わります。どちらで進めるかの整理はパワハラの休職は傷病手当金と労災のどちら?を見てください。

証明欄・申立書・提出先:出す前にそろえるもの

請求書を出す前に、次の3つを確かめます。

  1. 事業主の証明欄。 会社に証明を頼みます。証明はパワハラがあったと会社が認めることとは別の手続きで、会社には意見を労基署に申し出る仕組みも別にあります(施行規則23条の2)。会社が証明を拒むなどして証明が得られない場合でも請求はできると厚生労働省のパンフレットに書かれています。進め方と会社への頼み方はパワハラ労災申請で会社の対応が悪いときにまとめています。
  2. 医師の証明欄。 休業補償の請求書では、療養の期間・傷病名・経過を主治医に書いてもらいます。どの期間を「療養のため働けなかった」とするかは医師の判断なので、休み始めた日を正確に伝えておきます。
  3. 申立書。 精神障害の請求では、労基署から病気の経過、仕事の状況、発病前おおむね6か月の出来事、仕事以外の出来事などを書く「申立書(精神疾患用)」の提出を求められます。様式は各地の労働局のサイト(例:京都労働局の様式ページ)にも載っています。書き方は精神障害の労災の申立書の書き方:出来事・時期・相手を整理するで扱います。

提出先は、本人の住所ではなく事業場の所在地を管轄する労基署です(施行規則1条)。本社と勤務地が違うときは、実際に働いていた事業場で考えます。複数の会社で働いていた人は扱いが異なるので、提出前に労基署に確かめてください。

提出の前に、出す書類のコピーを全部取っておきます。聴取では自分が書いた内容に沿って質問されるので、同じ内容を手元で見返せるようにしておくためです。

提出したあと:調査、決定、不服のとき

提出後は、労基署が受付から1週間以内を目途に調査計画をまとめ、請求人・事業主・主治医に資料の提出を依頼し、請求人本人と上司・同僚など関係する人から事実を確かめ、主治医や専門医の意見を踏まえて決定します。厚生労働省が専門検討会に出した「標準的な調査・決定の流れ」に沿った説明で、段階ごとの中身と聴取の準備はパワハラの労災調査では何をされる?に書いています。

期間については、同じ資料に、精神障害の事案の平均処理期間は令和2年度で8.5か月とあります。2023年9月の認定基準の改正で、専門医3名の合議としていた事案の多くを1名の意見で決められるようになりましたが、改正後に決定までの期間がどう変わったかは公表資料で示されていません。

決定は書面で通知されます。不支給の決定に納得できないときは、決定を知った日の翌日から3か月以内に、労働局の労働者災害補償保険審査官へ審査請求ができます。手順は労災が不支給になったらを見てください。

時効と、2027年4月から施行される改正

いまの法律では、療養補償給付と休業補償給付の権利は、行使できる時から2年で時効により消えます(労災保険法42条)。休業補償は賃金を受けない日ごとに権利が生じるので、古い日の分から順に期限が来ます。請求書を出せば、その分の時効の心配はなくなります。

2026年7月17日に公布された改正法(令和8年法律第60号)は、業務が原因かどうかの判断が容易でない病気として政令で定めるものについて、療養補償給付などの時効を2年から5年に延ばしました。厚生労働省の概要は、対象として脳・心臓疾患、精神疾患、石綿関連疾病を想定していると説明しています。施行は2027年4月1日で、施行前に生じた事故を原因とする病気の時効には従来の規定が適用される経過措置が置かれています(附則第5条)。いま請求を考えている人は、現行の2年を前提に、早めに請求書を出すのが安全です。

退職した後の申請や時効の数え方は退職後でもパワハラの労災申請はできる?、書類の作成を専門家に頼むかどうかは精神障害の労災申請は社労士・弁護士に頼むかで整理しています。

よくある質問

Q. 療養と休業の請求書は、同時に出さないといけませんか?

別々の請求書なので、出す時期をそろえる決まりはありません。治療費は通院先が労災指定医療機関なら様式第5号を病院経由で、休業の分は様式第8号を労基署に出します。休業補償は休んだ期間を区切って、何回かに分けて請求することもできます。

Q. 請求してから決定までどのくらいかかりますか?

厚生労働省が2021年の専門検討会に出した資料では、精神障害の事案の平均処理期間は令和2年度で8.5か月でした。事案ごとに違うので、請求のときに労基署の担当者へ「調査の進み具合は、いつ、どこに問い合わせればよいか」を聞いておくと、待つ間の見通しが立ちます。進み具合は、請求先の労基署に照会できます。

Q. 会社に知られずに労災を申請できますか?

請求書には事業主の証明欄があり、調査でも労基署から会社に資料の提出や上司・同僚の聴取が求められるのが一般的な流れです。会社に知られずに進めることは難しいと考えておいてください。会社との関係が心配なときは、先に労基署に相談して進め方を確かめる方法があります。

出典・参考にした公的な情報

出典の確認日:2026-10-23。制度や受付条件は変わることがあります。手続きの前に、各窓口の最新の案内を確認してください。

この記事は一般的な情報で、個別の法律判断・医療的な診断をするものではありません。

精神障害の労災の申立書の書き方:出来事・時期・相手を整理する

パワハラの労災調査では何をされる?聴取の内容と期間の目安

パワハラ労災申請で会社の対応が悪いとき:事業主の証明なしで出せるか

パワハラ労災の休業補償給付:もらえる額の計算と待期の扱い