休職と復職 / 比較

パワハラの休職は傷病手当金と労災のどちら?違いと切り替え

この記事のもくじ
  1. 傷病手当金と労災の休業補償給付の違い(比較表)
  2. 金額はどれくらい違う?計算の考え方
  3. パワハラの休職はどちら?判断の順番と「決定待ち」の扱い
  4. 切り替えの手順と、それぞれで気をつけること
  5. どちらの制度でも同じこと:準備しておく記録

パワーハラスメント(パワハラ)で心身を崩して休職したとき、使う制度は病気が仕事によるもの(業務上)か、仕事以外によるもの(業務外)かで分かれます。業務外なら健康保険の傷病手当金、業務上なら労災保険の休業補償給付です。ただ、パワハラによる精神障害が業務上かどうかは、本人や会社ではなく労働基準監督署長が調べて決めるため、決定までのあいだの生活費をどうするかも含めて、2つの制度の関係を知っておく必要があります。同じ期間に両方を受け取ることはできないので、決定後の精算も含めて流れを押さえておきます。

傷病手当金と労災の休業補償給付の違い(比較表)

まず、2つの制度の違いを並べます。どちらも「療養のため働けず、給与が出ない日」を支える給付ですが、計算のもとになる金額も、最初の3日間の扱いも違います。

比べる点 傷病手当金(健康保険) 休業補償給付(労災保険)
対象 業務外の病気・けが 業務上の病気・けが(労基署長が認定)
請求先 加入している健康保険(協会けんぽの支部など) 事業場を管轄する労働基準監督署
1日あたりの額 直近12か月の標準報酬月額の平均÷30×3分の2 給付基礎日額(平均賃金に相当)の60%+休業特別支給金20%
最初の3日間 連続3日の待期(有給・土日も含む)。4日目から支給 3日間の待期。業務災害なら会社が平均賃金の60%を補償(労基法76条)
期間 支給開始から通算1年6か月 療養のため働けず賃金を受けない日が続くあいだ。1年6か月経過時に傷病補償年金への移行を判定
時効 休んだ日ごとに2年 休んだ日ごとに2年
退職後 1年以上の加入などの条件を満たせば継続して受給 退職しても受給する権利は変わらない(労災保険法12条の5)
税金 かからない(健康保険法62条) かからない(労災保険法12条の6)
解雇の制限 法律上の制限はない(就業規則の休職制度による) 療養のための休業期間とその後30日間は解雇できない(労基法19条)

傷病手当金の要件・計算の詳細は正本の休職中の傷病手当金の条件と金額の計算に、休業補償給付の計算と待期の詳細はパワハラ労災の休業補償給付の計算と待期にまとめています。

金額はどれくらい違う?計算の考え方

1日あたりの額を、同じくらいの給与の人で比べてみます(筆者の計算)。

  • 傷病手当金:標準報酬月額の平均が30万円なら、30万円÷30=1万円、その3分の2で1日6,667円(健康保険法99条2項の端数処理による)
  • 休業補償給付:給付基礎日額が1万円なら、休業補償給付6,000円+休業特別支給金2,000円で1日8,000円

ただし、2つは計算のもとが違います。傷病手当金は標準報酬月額(保険料を決めるための区分)の12か月平均、労災の給付基礎日額は発病が確定した日以前3か月の賃金総額をその期間の暦日数で割った平均賃金がもとになります。残業代の多かった人は平均賃金が高く出やすいなど、人によって差の出方は変わります。上の数字は計算の仕方を示すためのもので、自分の額は給与明細と加入先・労基署への問い合わせで確かめます。

パワハラの休職はどちら?判断の順番と「決定待ち」の扱い

業務上かどうかは労基署長が決める

精神障害が労災と認められるには、対象となる病気を発病していること、発病前おおむね6か月の間に業務による強い心理的負荷があったこと、業務以外の要因で発病したとは認められないこと、の3つがそろう必要があります。パワハラのように繰り返される出来事は、始まった時からまとめて評価されます。認定基準の中身と申請の全体像はパワハラによる精神障害の労災認定の3つの要件で扱っています。

この判断は、請求を受けた労働基準監督署が会社や関係者に聞き取りなどをしたうえで行うため、決定までに時間がかかります。そのあいだ、給与のない生活をどう支えるかが現実の問題になります。

同じ期間に両方は受け取れない

健康保険法55条1項は、同じ病気について労災保険から相当する給付を受けられる場合、傷病手当金は支給しないと定めています。同条2項では、健康保険の側が労災の支給状況について資料を求められるとしています。協会けんぽの傷病手当金の申請書でも、労災の休業補償給付を受けている場合は支給決定通知書のコピーを添付するよう案内されています。

つまり、労災の決定を待つあいだに傷病手当金を受け取り、のちに労災が認められた場合は、同じ期間について精算が必要になる関係です。どの順番で、どう精算するかは保険者の手続きによるため、次の2点を加入先の健康保険に先に聞いておきます。

文例:「パワハラによる体調不良で休職しており、労災の請求を考えています(または請求中です)。労災の決定が出るまでのあいだ、傷病手当金を申請することはできますか。労災が認められた場合、受け取った傷病手当金はどのように精算することになりますか。」

労基署に請求するときも、傷病手当金を受け取っていることを伝えておくと、決定後の手続きが進めやすくなります。

傷病手当金と労災:決定までの流れ
  1. 主治医に休養が必要か、診断書を出してもらえるかを確かめる
  2. 加入先の健康保険に「労災請求中の傷病手当金の扱い」と「認定後の精算方法」を聞く
  3. 労災を請求する:所轄の労働基準監督署に休業補償給付の請求書を出す
  4. 労災が認められた:労災の給付に切り替わり、同じ期間の傷病手当金を加入先の案内に沿って精算する
  5. 労災が不支給だった:業務外として傷病手当金で判断される。不服なら決定を知った翌日から3か月以内に審査請求

切り替えの手順と、それぞれで気をつけること

流れを手順にすると次のとおりです。いずれの段階でも、書類を出した日・電話した日・担当者名・言われたことをメモに残しておくと、後で話が食い違ったときに役立ちます。

  1. 休む前後:医師と会社に伝える。 主治医には職場で何があったかを時系列で伝え、診断書の要否を相談します。会社には休職の手続きを進めてもらい、休職中の給与が出るかを確かめます。
  2. 傷病手当金を申請する。 労災の結果を待つあいだの生活費として申請するかを、加入先と相談して決めます。休んだ日ごとに2年で時効になるため(健康保険法193条)、放置しないことが大切です。
  3. 労災を請求する。 請求は本人が行い、請求書は事業場を管轄する労基署長に出します。会社が事業主の証明を拒んでも請求はできます。請求書の出し方と調査の流れはパワハラの労災申請の流れにあります。
  4. 決定が出たら加入先に連絡する。 認められた場合は傷病手当金の精算、不支給の場合は傷病手当金を続けるか、審査請求をするかを考えます。不支給後の手続きは労災が不支給になったときの審査請求で扱っています。

労災が認められた場合は、療養のための休業期間とその後30日間は解雇できないという労基法19条の制限がかかります。業務外の傷病手当金にはこの制限がなく、休職期間が満了したときの扱いは就業規則で決まります。休職期間の満了と解雇の関係は休職中に解雇されるか:休職期間満了による退職の扱いを読んでください。

どちらの制度でも同じこと:準備しておく記録

どちらの制度を使うにしても、休んだ日と給与が出なかった日を示せること、病気の経過を医師が証明できることが前提になります。労災ではさらに、発病前の出来事の中身が評価の中心になるため、パワハラの日時・場所・言動・目撃者、会社に相談した日と会社の対応を時系列で整理しておきます。

  • 出勤簿・給与明細・休職の辞令や通知(休んだ日と給与の有無)
  • 受診日と診断書の写し(発病の時期と経過)
  • パワハラの記録(メモ・メール・録音など)と、社内の相談窓口に相談した記録

パートや契約社員の人は、まず自分が会社の健康保険に加入しているかを給与明細や資格確認書で確かめます。立場ごとの確かめ方はパート・契約社員でも休職できるかにまとめています。休職を始める前に有給休暇を使うかどうかで傷病手当金の待期や支給が変わる点は、パワハラ休職の前に有給を使うときの順番で扱っています。次の記事では、どちらの給付もまだ入らない時期にお金が足りないときの公的な支えを、休職中でお金がないときの貸付・支援制度で整理します。

よくある質問

Q. 傷病手当金と労災の休業補償給付は、両方同時にもらえますか?

同じ病気について労災保険から相当する給付を受けられる場合、健康保険の傷病手当金は支給しないと健康保険法55条に定められています。同じ期間に両方を受け取ることはできない仕組みです。労災の決定を待つあいだに傷病手当金を受け取った場合の精算方法は、加入先の健康保険に確かめてください。

Q. 労災が不支給になったら、傷病手当金は受け取れますか?

労災で業務上と認められなかった場合は、業務外の病気として傷病手当金の要件で判断されます。傷病手当金の請求権は休んだ日ごとに2年で時効になる(健康保険法193条)ため、労災の結果を待つあいだも、加入先と相談して期限を過ぎないようにします。不支給の決定には審査請求という不服申立ての道もあります。

Q. 会社が「パワハラは労災にならない」と言って協力してくれません。

労災に当たるかを決めるのは会社ではなく労働基準監督署長で、請求するのは働く本人です。厚生労働省のパンフレットには、会社が事業主証明を拒否した場合でも労災請求はできると書かれています。会社に言われたことを日付とともに記録し、所轄の労働基準監督署に相談してください。

出典・参考にした公的な情報

出典の確認日:2026-10-23。制度や受付条件は変わることがあります。手続きの前に、各窓口の最新の案内を確認してください。

この記事は一般的な情報で、個別の法律判断・医療的な診断をするものではありません。

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