セクハラで弁護士に相談する前に:慰謝料の考え方・期限・準備する記録
セクハラで弁護士への相談を考えるのは、慰謝料などの損害賠償を求めたい、会社に申し出ても動かない、相談後に解雇や降格をされた、退職の話が絡んでいる、といった場面です。相談の前に、出来事を日付順に並べた時系列表と、メール・チャット・メモ・通院記録などの証拠をまとめておくと、限られた相談時間で見通しを聞けます。相談先は、各地の弁護士会の法律相談センターと、収入などの要件を満たせば無料で相談できる法テラスが入口です。会社に措置を求めることが目的なら、弁護士を通さずに使える都道府県労働局の調停もあります。
セクハラで弁護士に相談する場面と、労働局の手続との違い
セクハラを外に出す手段は、大きく4つあります。誰を相手にするか、費用、公開か非公開かが違うので、目的に合うものを選ぶ材料にしてください。
| 手段 | 相手 | 主な特徴 | 弁護士 |
|---|---|---|---|
| 労働局長の援助・調停(均等法23条・24条) | 会社 | 会社の措置義務や、相談を理由とする不利益な扱いをめぐる争いが対象。調停案の受諾は強制されない | なくても使える |
| 労働審判(労働審判法) | 会社(事業主) | 地方裁判所で非公開。特別な事情がない限り3回以内の期日で審理を終える。異議が出れば訴訟に移る | 代理人になれるのは原則として弁護士 |
| 民事訴訟 | 会社、行為者個人、またはその両方 | 口頭弁論は公開の法廷。判決のほか和解で終わることもある | 本人でもできる。弁護士に依頼することもできる |
| 刑事の手続(被害の届出など) | 行為者個人 | 身体への接触や脅しなど、犯罪に当たりうる行為が対象 | 相談は警察・性暴力の窓口から |
労働局の手続は、会社が相談を受けて事実を確かめたか、配慮や再発防止の措置をとったか、相談を理由に不利益に扱っていないか、といった「会社の対応」をめぐる争いを扱います。均等法22条は、こうした措置義務の紛争を個別労働関係紛争解決促進法のあっせんではなく、この援助・調停の仕組みで扱うと定めています。手続の流れは労働局の助言・指導と調停で説明しています。
労働審判は、労働審判法1条が「個々の労働者と事業主との間」の紛争を対象としているため、上司や同僚個人を相手にする手続ではありません。行為者個人の責任を問いたい場合は民事訴訟になります。民法709条は故意や過失で他人の権利を侵害した人の賠償責任を、715条は従業員が事業の執行について与えた損害についての使用者(会社)の責任を定めており、行為者と会社の両方に責任を問う構成がありえます。どの手段が合うかは事案ごとの判断で、ここが弁護士に聞くべき中心の質問です。
身体を触られた、性的な行為を強いられた、脅されたといった被害は、刑事の手続の対象になりうるものです。職場で性暴力を受けたときの相談先や職場で暴力・脅しを受けたときの警察への相談で、24時間の窓口と相談の仕方を先に確かめてください。
慰謝料の根拠と、請求の期限
慰謝料は、精神的な苦痛に対する損害賠償です。民法710条は、身体・自由・名誉などを侵害した場合に、財産以外の損害も賠償しなければならないと定めています。金額は、言動の内容と期間、心身への影響、会社がどう対応したかなど、個別の事情で判断されます。インターネット上の「相場」は事案の前提が違うことが多いので、自分の記録をもとに弁護士に見通しを聞くのが確かな方法です。
請求には期限があります。民法724条は不法行為の損害賠償請求権について、損害と加害者を知った時から3年、不法行為の時から20年という2つの期限を定め、724条の2は人の生命や身体を害する不法行為では前者を5年とする特例を置いています。心身の不調がこの特例に当たるか、3年や5年をいつから数えるかは事案ごとの判断になります。会社に対する請求は、安全配慮義務違反として別の条文の期限で考える構成もあります。どの期限がいつ来るかは事案ごとに違うので、パワハラの時効は何年?で条文を確かめたうえで、期限が近いと感じたら早めに相談してください。
相談前に準備する時系列表と証拠
弁護士の相談は時間が決まっていることが多く、出来事の説明だけで終わってしまうことがあります。次の記入例の形で時系列を1枚にまとめ、証拠をその順番に並べておくと、相談の大半を見通しの話に使えます。
| 日付 | 出来事(誰が・どこで・何を) | 自分の対応 | 残っている証拠 |
|---|---|---|---|
| 2026年6月10日 | 課長が出張先の車内で太ももに触れた | 手を払った。翌日同僚に話した | メモ、同僚とのチャット |
| 2026年6月下旬 | 担当していた取引先を外された | 理由を聞いたが説明がなかった | 担当変更のメール |
| 2026年7月3日 | 人事の相談窓口にメールで相談 | 事実確認と配置の見直しを求めた | 送信メール、受付の返信 |
| 2026年8月 | 調査の連絡がないまま、評価が下がった | 再度問い合わせた | 評価シート、問い合わせメール |
| 2026年9月〜 | 眠れず通院、診断を受けた | 休職を検討中 | 診断書、領収書 |
あわせて、次の資料を手元にそろえておくと話が具体的になります。
- メール、チャット、SNSのメッセージ(送信日時と相手が分かる画面と元のデータ)
- 出来事ごとのメモや日記、録音とその文字起こし
- 会社に相談した記録(送ったメール、面談の日時と相手、会社からの回答)
- 就業規則やハラスメント防止規程、相談窓口の案内
- 雇用契約書、給与明細、評価や辞令など人事上の書類
- 通院の記録、診断書、休職や退職に関する書類
記録の書き方はパワハラの記録の書き方、相談に持参する資料の全体はパワハラを弁護士に相談する前の準備で確かめられます。
相談先の選び方:弁護士会と法テラス
弁護士会の法律相談センター。 各地の弁護士会が法律相談センターを置いており、予約の受付、オンライン相談、弁護士の紹介を行っているところもあります。相談料や無料になる条件は弁護士会ごと・時期ごとに違うので、住んでいる地域の弁護士会のサイトで確かめてください。相手が弁護士として登録されているかは、各弁護士会の会員検索で確かめられます。日本弁護士連合会と弁護士会が運用する検索サービスに載っている取扱分野は、任意登録で各弁護士の自己申告である点も知っておくと、選ぶときの参考になります。
法テラス(日本司法支援センター)。 電話のサポートダイヤルでは、労働問題について適切な窓口や法的手続を無料で案内しており、匿名で何度でも利用できます。弁護士による無料法律相談は、収入や預貯金が一定額以下などの要件を満たす人が対象で、名前などを伝えたうえで、同じ問題につき3回までです。弁護士費用の立替えも、要件と審査があり、原則として分割で返済します。サポートダイヤルの番号と曜日ごとの受付時間は、パワハラの相談窓口一覧に載せています。
自動車保険や火災保険などに弁護士費用特約がついている場合、労働トラブルが補償の対象かどうかは約款によって違います。確かめ方は弁護士費用特約はパワハラに使える?で説明しています。労働者側の事件を扱っているかなど、選ぶときの確認項目はパワハラを弁護士に相談するときの選び方が参考になります。
相談の場では、次の質問をメモにして持っていくと、聞き漏らしを防げます。
- 自分の事案で考えられる手段(調停・労働審判・訴訟・交渉)と、それぞれの期間の見通し
- 相手を会社にするか、行為者個人にするか、両方か
- 手元の証拠で足りない点と、これから集められるもの
- 期限(時効)がいつ来るか
- 費用の内訳(相談料・着手金・報酬金・実費)と、見積書・委任契約書の有無
- 在職を続けたい・退職したいという希望が、進め方にどう影響するか
会社にまだ申し出ていない段階なら、セクハラを受けたときの対応の手順で社内の対応を求めることと並行して準備を進められます。
よくある質問
Q. セクハラの慰謝料はいくらくらい請求できますか?
民法710条は精神的な損害も賠償の対象にしていますが、金額は言動の内容・期間・回数、心身への影響、会社の対応などの事情で個別に判断されるもので、一律の基準はありません。相談の場で、手元の記録からどんな事情が考慮されそうか、どの手続でどのくらいの期間がかかりそうかを弁護士に聞くのが確かめ方です。
Q. 法テラスでセクハラの相談はできますか?
法テラスは、パワハラなど労働問題について、適切な窓口や法的手続を電話で無料案内しています。弁護士による無料法律相談は、収入や預貯金が一定額以下などの要件を満たす人が対象で、同じ問題につき3回までです。弁護士費用の立替えも、収入・資産の要件と審査があり、原則として分割で返します。
Q. 弁護士に相談したら、会社に知られますか?
弁護士法23条は、弁護士が職務上知り得た秘密を保持する義務を定めています。相談しただけの段階で、相談の内容を本人の了解なく会社に伝えることは想定されていません。会社や行為者に連絡が行くのは、依頼して弁護士が交渉や手続を始めるときです。いつ、どの方法で連絡するのかは、依頼する前に弁護士と話し合っておけます。
出典・参考にした公的な情報
- 男女雇用機会均等法 第11条・第22条〜第24条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 民法 第709条・第710条・第715条・第724条・第724条の2(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 弁護士法 第23条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 労働審判法 第1条・第4条・第15条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 労働審判手続(裁判所)
- 民事訴訟(通常訴訟)(裁判所)
- 労働トラブルでお困りの方へ(法テラス)(日本司法支援センター)
- 弁護士検索(ひまわりサーチ)の注意書き(任意登録・各弁護士の自己申告)(日本弁護士連合会)
出典の確認日:2026-10-24。制度や受付条件は変わることがあります。手続きの前に、各窓口の最新の案内を確認してください。
この記事は一般的な情報で、個別の法律判断・医療的な診断をするものではありません。