障害者雇用でのパワハラ:合理的配慮と差別禁止の相談先
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障害者雇用でのパワハラは、悩みの種類で見る法律が分かれます。暴言・無視・仕事を与えないといった嫌がらせはパワハラ指針で、障害を理由にした不利な扱いと配慮の欠如は障害者雇用促進法で整理します。 相談先は、まず社内の相談窓口。解決しないときは、都道府県労働局の相談や、助言・指導・勧告、調停があります。この記事では、配慮と差別の考え方、嫌がらせの見分け方、動く順番を順に書きます。
配慮がない悩みと嫌がらせの悩みは、見る法律が違う
同じ「障害者雇用でつらい」でも、起きていることによって根拠が変わります。次の表で、自分の悩みがどちらに近いかを見てください。両方が重なっていることも珍しくありません。
| 困りごとの例 | 見る根拠 | 最初の相談先 |
|---|---|---|
| 通院のための時間調整や、指示を一つずつ出してもらうといった配慮を断られる | 障害者雇用促進法 第36条の3(合理的配慮) | 社内の相談窓口、労働局 |
| 障害があることを理由に、賞与・昇進・教育訓練の対象から外される | 同法 第35条(差別の禁止) | 社内の相談窓口、労働局 |
| 人前で人格を否定される、大声で威圧的に叱責される | 労働施策総合推進法 第31条とパワハラ指針 | 社内の窓口、総合労働相談コーナー |
| 障害を理由に仕事を与えられない、会話から外される | パワハラ指針(過小な要求・人間関係からの切り離し)と、差別の禁止 | 同上 |
| 病歴・障害名を本人の了解なく同僚に話された | パワハラ指針(個の侵害)と、配慮の際のプライバシー保護 | 同上 |
障害者雇用促進法の差別禁止と合理的配慮は、手帳を持つ人や障害者雇用枠で入社した人だけの決まりではありません。法律上の障害者は、身体障害・知的障害・精神障害(発達障害を含む)などの心身の機能の障害があり、長期にわたって職業生活に相当の制限を受ける人です。厚生労働省のQ&Aは、障害者手帳の有無や週の所定労働時間による限定はなく、難病や高次脳機能障害、中途障害も含むと説明しています。
パワハラ指針の側は、障害の有無にかかわらず全ての労働者が対象です。3要素(優越的な関係を背景にした言動/業務上必要かつ相当な範囲を超える/就業環境が害される)の考え方は、パワハラとは?3要素と6類型・指導との境目を指針の言葉で整理にまとめています。
合理的配慮は「申し出て、話し合って、決める」手続き
合理的配慮は、障害者雇用促進法第36条の3で、事業主に義務づけられています。条文は、障害者でない労働者との均等な待遇の確保や、有する能力の有効な発揮の支障となっている事情を改善するため、施設の整備、援助を行う者の配置その他の必要な措置を講じることを求めています。ただし、事業主に過重な負担を及ぼすときは、この限りではありません。
厚生労働省の合理的配慮指針は、採用後の手続きを次の流れで示しています。
- 会社が、職場で支障になっている事情の有無を確認する(雇入れ時、障害を把握したとき、必要に応じて定期的に)。本人から先に申し出てもよい。
- 支障になっている事情があれば、会社は本人が希望する措置を確認する。具体的に言えないときは、困っている事情を伝えれば足りる。
- 会社は措置の内容を本人と話し合う。
- 会社は講じる措置を決め、本人に伝える。過重な負担で実施できないときは、その旨を伝える。本人が求めれば理由も説明する。
大事なのは、会社が障害を知らなければ動けない点です。指針は、会社が必要な注意を払っても障害があることを知り得なかった場合は、配慮義務違反を問われないとしています。厚生労働省のQ&Aでは、本人が申し出ない場合の把握は、全従業員へのメール送信や書類の配布で配慮の申出を呼びかけるのが基本とされています。健康診断や面接指導で会社が知った障害の情報は、本人の同意がなければ合理的配慮のために使えません。配慮が必要なら、困りごとと希望する措置を、会社に伝えてください。口頭だけでなく、メールや書面で残すと、後の話し合いで確かめやすくなります。障害者手帳がない場合は、受給者証や、障害名・疾患名を書いた医師の診断書・意見書で確認を求められることがあります。
文例:「通院のため、毎月第2水曜日は午後3時までの勤務にしていただけないでしょうか。業務の引き継ぎは前日までに済ませます。ご検討のうえ、可否と理由を教えてください。」
指針の別表には、配慮の例が障害の種類別に載っています。精神障害では、業務の優先順位や目標を明確にして指示を一つずつ出す、できるだけ静かな場所で休憩できるようにする、本人の状況を見ながら業務量を調整する、といった例です。発達障害では、感覚過敏をやわらげるためにサングラスや耳栓の使用を認める例もあります。別表は例示で、載っていない措置でも合理的配慮に当たることがあります。
「過重な負担」にあたるかは、会社が次の6つを総合して個別に判断します。事業活動への影響、実現の難しさ、費用や負担の程度、企業の規模、企業の財務状況、公的支援の有無です。公的支援が使えるなら、その利用を前提に判断されます。一方で、日常生活に必要な眼鏡や車いすの提供、配慮をしても重要な職務ができない場合にその職務を続けさせることは、採用後の合理的配慮として会社に求められるものではありません。その場合も、別の職務に就かせるなど、別の配慮を検討することが指針で求められています。
差別の禁止:賃金・昇進・退職勧奨まで対象になる
第35条は、賃金の決定、教育訓練、福利厚生その他の待遇で、労働者が障害者であることを理由にした不当な差別的取扱いを禁じています。差別禁止指針は、配置(業務の配分や権限の付与を含む)、昇進、降格、職種や雇用形態の変更、退職の勧奨、定年、解雇、契約の更新まで、場面ごとに「排除する」「障害者にだけ不利な条件を付ける」「障害者でない人を優先する」ことが差別に当たると示しています。
Q&Aには、たとえば次のような例が挙がっています。
- 労働能力等に基づかず、障害者にだけ賞与を支給しない
- 昇給に当たって、障害者にだけ試験を課す
- 退職の勧奨の基準を、障害者でない人は成績が最低の人だけ、障害者は平均以下の人にする
一方、次の場合は差別に当たらないと整理されています。障害者専用の求人など、障害者を有利に扱う措置。合理的配慮を提供し、労働能力等を適正に評価した結果として異なる扱いになること。合理的配慮の措置を講じた結果として扱いが異なること。したがって「配慮のために業務を切り出した」「評価の結果として昇進に差が出た」だけで、直ちに差別とは言えません。確かめるのは、配慮を提供したうえで評価しているか、障害があることだけを理由にしていないかです。会社が理由を説明できるかも手がかりになります。退職を持ちかけられている場合は、退職勧奨は断れる?応じる義務の有無と、断り方・応じる前の条件の確かめ方も読んでください。
嫌がらせの面:指針の例に当てはめて記録する
暴言や仕事外しは、障害者雇用促進法の条文ではなく、パワハラの措置義務(労働施策総合推進法第31条)の問題として相談するのが基本です。指針の「該当すると考えられる例」には、次のものがあります。
- 人格を否定するような言動、必要以上に長時間の厳しい叱責を繰り返す(精神的な攻撃)
- 意に沿わない労働者の仕事を外し、長期間別室に隔離する。集団で無視して孤立させる(人間関係からの切り離し)
- 気に入らない労働者に、嫌がらせのために仕事を与えない(過小な要求)
- 病歴などの機微な個人情報を、了解を得ずに他の労働者に暴露する(個の侵害)
反対に、能力に応じて業務内容や業務量を一定程度軽くすることは、過小な要求の「該当しない例」です。配慮として業務量を調整された場合と、嫌がらせで仕事を取り上げられた場合を分けるのは、本人の希望と話し合いがあったかです。配慮のための調整なら、本人の意向を尊重した話し合いが前提になります。
記録は、いつ・誰が・どこで・何を言い・何をしたか、障害や配慮に関する発言があったか、周りに誰がいたかを残します。書き方はパワハラの記録の書き方:日時・言葉・場所・目撃者を残す記入例つきの例が使えます。無視や仕事外しが続くなら職場で無視されるときの対処も参考になります。
相談する順番と、労働局の援助・調停
動く順番は次のとおりです。
- 社内の相談窓口に伝える。 差別や配慮の苦情を受けた会社は、苦情処理機関に委ねるなどして自主的な解決を図る努力義務を負います(法第74条の4)。合理的配慮の指針は、会社に相談窓口の整備、迅速な事実確認、プライバシー保護、相談を理由とする不利益取扱いの禁止の周知を求めています(法第36条の4第2項)。パワハラの窓口も、労働施策総合推進法第31条に基づき会社に設置義務があります。専用窓口でなくても、既存の窓口や外部委託で足りるとされています。
- 支援機関の力を借りる。 指針は、本人の意向を伝えることが難しいときに、就労支援機関の職員等に補佐を求めてよいとしています。面談への同席を頼めるか、支援機関に確かめてください。
- 都道府県労働局に相談する。 会社が話し合いに応じない、窓口が動かないときは、総合労働相談コーナーで「障害者雇用促進法の差別・配慮の問題」と伝えて案内を受けます。窓口の番号と受付時間はパワハラの相談窓口一覧で確かめてください。
- 援助・調停を使う。 差別や合理的配慮をめぐる紛争では、労働局長が助言・指導・勧告をする援助(法第74条の6)を求められます。当事者から申請があれば、紛争調整委員会が調停を行います(法第74条の7。募集・採用の紛争は除く)。援助を求めたことや調停を申請したことを理由にした、解雇その他の不利益な取扱いは禁止されています。調停案は受諾を勧めるもので、受諾は義務ではありません。
差別禁止と合理的配慮の違反に罰則はなく、厚生労働大臣による助言・指導・勧告(法第36条の6)で改善を促す仕組みです。嫌がらせの側の紛争は、労働施策総合推進法の援助・調停(第36条・第37条)です。仕組みは労働局の助言・指導と調停にまとめています。
派遣で働いている場合、障害者雇用促進法上の事業主の責任を負うのは派遣元です。Q&Aは、派遣元が派遣先での支障を把握して配慮を講じるとしています。公務員は、差別の禁止が国家公務員法・地方公務員法の平等取扱いの原則、合理的配慮が国家公務員は人事院規則など、地方公務員は障害者雇用促進法と、根拠が民間と異なります。窓口は公務員のパワハラ相談先と対処で確かめてください。パートやアルバイトは、パートのパワハラも参考にしてください。定年後の再雇用で悩んでいる場合は、定年後の再雇用でのパワハラで扱います。
つらさが強く、眠れない・食べられない状態が続くときは、会社の窓口に伝える前に、主治医や仕事がつらい・限界のときの相談先の窓口に話してください。
短時間のパートで働く場合の窓口の使い方は、パートのパワハラ:パート同士・社員からの嫌がらせの相談先も参考になります。
よくある質問
Q. 障害者手帳がなくても、合理的配慮を求められますか?
厚生労働省のQ&Aでは、差別禁止・合理的配慮の対象は障害者雇用促進法第2条第1号の障害者で、障害者手帳の有無や週の所定労働時間による限定はないとされています。中途障害も含まれます。病気などで一時的に仕事が制限される場合や、就職のハンディキャップにならない程度の障害は対象外とされているため、長期にわたる制限があるかどうかが目安になります。
Q. 会社に「過重な負担だ」と言われたら、配慮はあきらめるしかありませんか?
希望どおりの措置を講じる義務はなくなりますが、指針は、本人と話し合い、意向を十分に尊重したうえで、過重な負担にならない範囲で何らかの措置を講じることを会社に求めています。また、求めがあれば、なぜ実施できないのかの理由を説明することも会社の役割です。代わりの案が出ているか、理由の説明があったかを確かめてください。
Q. 病気や障害のことを、本人の了解なく同僚に話されました。どうすればよいですか?
合理的配慮の相談者の情報は本人のプライバシーに属するため、会社は保護の措置を講じることが指針で求められています。パワハラ指針でも、病歴などの機微な個人情報を本人の了解なく暴露することは、個の侵害の該当例に挙げられています。いつ・誰が・誰に話したかを記録し、社内の相談窓口か労働局に伝えてください。
出典・参考にした公的な情報
- 障害者の雇用の促進等に関する法律 第34条・第35条・第36条の2〜第36条の4・第74条の4〜第74条の8(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 障害者差別禁止指針(平成27年厚生労働省告示第116号)(厚生労働省)
- 合理的配慮指針(平成27年厚生労働省告示第117号)(厚生労働省)
- 障害者雇用促進法に基づく障害者差別禁止・合理的配慮に関するQ&A【第三版】(厚生労働省)
- 事業主が講ずべきハラスメント対策パンフレット(パワハラ指針「令和8年10月1日適用時点」収録)(厚生労働省)
- 総合労働相談コーナーのご案内(厚生労働省)
出典の確認日:2026-10-24。制度や受付条件は変わることがあります。手続きの前に、各窓口の最新の案内を確認してください。
この記事は一般的な情報で、個別の法律判断・医療的な診断をするものではありません。