ハラスメントの種類 / 制度解説

ハラスメント研修は義務?法律上の位置づけ・受講時間・厚労省の資料

この記事のもくじ
  1. ハラスメント研修は法律上の義務か:条文と指針での位置づけ
  2. 研修で何を学ぶのか:指針が周知を求めている中身
  3. 研修の時間は労働時間?受講のルールと確かめ方
  4. 厚労省の公開資料で、従業員が自分で学ぶ方法
  5. 研修を受けたあとに困ったときの動き方

ハラスメント研修そのものを「実施しなければならない」と直接書いた法律の条文はありません。会社に義務づけられているのはパワーハラスメント(パワハラ)を防ぐための「雇用管理上の措置」で、研修は、その中の「方針を従業員に周知・啓発する方法」の例として指針に挙がっています。そのため多くの会社が研修を行いますが、従業員の側では、受講時間の扱いと、研修で示された相談窓口を手元に控えておくことが実際に役立ちます。厚生労働省は、従業員向けのオンライン研修やパンフレットを公開しており、会社の研修がなくても自分で学べます。

ハラスメント研修は法律上の義務か:条文と指針での位置づけ

労働施策総合推進法(通称パワハラ防止法)第31条1項は、事業主に対し、職場のパワハラで労働者の就業環境が害されないよう「相談に応じ適切に対応するための体制の整備その他の雇用管理上必要な措置」を講じることを義務づけています。何をすればよいかは、厚生労働大臣が定めるパワハラ指針(令和2年厚生労働省告示第5号)に書かれています。研修が出てくるのは、次の4か所です。

出てくる場所 書かれていること 研修の扱い
指針4⑴イ(措置義務) パワハラの内容と「行ってはならない」方針を明確にし、管理監督者を含む労働者に周知・啓発する 周知・啓発の方法の例として「研修、講習等」を挙げる
指針4⑶ニ(措置義務) 事後の対応として再発防止の措置をとる 方針の再周知とともに「研修の再実施」が例
指針5⑵(望ましい取組) 職場環境の改善のための取組 コミュニケーションの活性化・円滑化のための研修など
法第32条2項(努力義務) 事業主は労働者の関心と理解を深めるため、研修の実施その他の配慮をするよう努める 努力義務として研修が名指しされている

つまり「措置」は義務、「その手段として研修を使うか」は会社の選択、という関係です。指針は、就業規則への規定、社内報・社内ホームページへの掲載も周知の方法の例に挙げています。どの方法を組み合わせるかは会社が決めるため、研修がない会社でも、規程や社内サイトで方針が示されていれば措置が取られていることがあります。

「ハラスメント研修 義務化」と聞いたときに関係してくるのが、2026年10月1日の改正法の施行です。この日から、カスタマーハラスメント(カスハラ)と、求職者等へのセクシュアルハラスメント(就活セクハラ)の防止措置が、すべての事業主の義務になりました。周知・啓発すべき方針の範囲は広がりましたが、研修の受講そのものが新しく法律で義務になったわけではありません。研修の案内に「カスハラ」「就活セクハラ」の項目が加わっていたら、この改正を受けたものと読めます。

早見表:ハラスメント研修と法律の関係
  • 義務:パワハラ・セクハラ・マタハラ・育休等ハラスメント・カスハラ・就活セクハラを防ぐ「措置」(方針の周知、相談窓口、事後の対応、プライバシー保護、不利益取扱いをしない旨の周知)
  • 措置の手段の例:研修・講習、就業規則への規定、社内報・社内ホームページ
  • 努力義務:研修の実施その他の配慮(労働施策総合推進法第32条2項)
  • 望ましい取組:コミュニケーションの研修、職場環境の改善

研修で何を学ぶのか:指針が周知を求めている中身

指針が周知・啓発を求めているのは、次のような内容です。研修資料にこれらが入っているかを見ると、自分の会社の研修が何を伝えようとしているかが分かります。

  1. パワハラの定義:①優越的な関係を背景とした言動で、②業務上必要かつ相当な範囲を超え、③就業環境が害されるもの。①〜③をすべて満たすもの(詳しくはパワハラとは?3要素と6類型・指導との境目)。
  2. 代表的な言動の類型:身体的な攻撃、精神的な攻撃、人間関係からの切り離し、過大な要求、過小な要求、個の侵害。他のハラスメントとの違いは職場のハラスメントの種類一覧にまとめています。
  3. 会社の方針:ハラスメントを行ってはならないこと、行為者には厳正に対処すること、その対処の内容(懲戒規定など)。
  4. 相談窓口:どこに、どの方法で相談できるか。外部の機関に委託した窓口もある。
  5. プライバシーの保護:相談者・行為者の情報、性的指向・ジェンダーアイデンティティや病歴、不妊治療などの機微な情報を守ること。
  6. 不利益な取扱いをしないこと:相談したこと、事実確認に協力したこと、都道府県労働局に相談・援助の求め・調停の申請をしたことを理由に、解雇などの不利益な取扱いをされない。

セクハラについては性別役割分担意識に基づく言動が原因や背景になりうること、マタハラについては妊娠・出産等に関する否定的な言動が原因や背景になりうることと、制度を利用できることも、周知の内容として指針に書かれています。研修を受けたあと、手元に控えておきたいのは次の5点です。

  • 社内の相談窓口の名前と連絡方法(メール・電話・面談のどれか)
  • 外部委託の窓口があるか、その連絡先
  • 就業規則のどの条にハラスメントの禁止と懲戒が書かれているか
  • 相談内容が誰まで共有されるか(守秘の扱い)
  • 相談や労働局への申し出を理由に不利益な扱いをしないと会社が明示しているか

研修の時間は労働時間?受講のルールと確かめ方

厚生労働省の「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」は、労働時間を「使用者の指揮命令下に置かれている時間」とし、「参加することが業務上義務づけられている研修・教育訓練の受講」の時間は労働時間として扱わなければならない、としています。また、自主的な研修だと報告されていても、実際には指示により受けていたと認められる時間は労働時間として扱うことも書かれています。

研修が勤務時間外に設定されていたり、自宅での動画視聴を求められたりしたときは、次の点を確かめます。

確かめる点 見るもの
受講は必須か任意か 案内メール・社内通知の文言(「必須」「全員受講」「期限」など)
受けないと評価や処分に関わるか 人事評価の項目、就業規則、上司からの指示
どの時間に受けるよう求められているか 案内の受講期間、勤務時間内に受ける時間が確保されているか
受講した時間をどう記録するか 勤怠システムへの入力方法、上司への申告の仕方

疑問があれば、人事に記録が残る形で尋ねておくと、あとで食い違いが起きにくくなります。

文例:「ハラスメント研修(動画視聴・約60分)の受講についてお尋ねします。全員受講と伺っていますが、勤務時間内に受講してよいか、時間外に受けた場合の勤怠の付け方を教えてください。」

受講時間の扱いが労働時間に当たるかどうかは、受講が義務づけられていたか、受けざるを得なかったかといった事情で決まります。会社の答えに納得できないときは、労働基準監督署(労基署)に労働時間の問題として相談できます。

厚労省の公開資料で、従業員が自分で学ぶ方法

厚生労働省は、ハラスメント対策の総合情報サイト「あかるい職場応援団」を運営しています。会社の研修が短い、または研修がない場合でも、ここの資料で同じ内容を確かめられます。

知りたいこと 使う資料 掲載場所
職場のハラスメントの基本を一通り学びたい 労働者向けハラスメント オンライン研修(人事・労務担当者向けと別の講座) あかるい職場応援団「オンライン研修講座」
指針の現行の文言を確かめたい 事業主が講ずべきハラスメント対策パンフレット(令和8年10月1日適用時点の指針本文を収録) 同「ダウンロードコーナー」
カスハラ・就活セクハラの改正内容を知りたい 改正法の解説動画と研修資料(PDF) 同「動画で知る」、「改正労働施策総合推進法等説明会の一覧」
言い方を変えて対立を避けたい 言い方ひとつで変わる会話術 同「対策で知る」

オンライン研修は、ブラウザのクッキーを消すと進み具合が消える、と案内されています。続きから受けたいときは、同じ端末とブラウザで開きます。

資料を読むときの注意が1つあります。厚生労働省のページから直接リンクされているパワハラ指針のPDFには、令和2年の制定時の文面が残っており、条番号が改正前の「第30条の2」のままです。2026年10月1日からの現行の条番号は第31条で、指針の文言も「ジェンダーアイデンティティ」、個の侵害に「開示の禁止・強要」が加わるなど変わっています。現行の文言を確かめるときは、パンフレットに収録された「令和8年10月1日適用時点」の本文を使います。条文の流れはパワハラ防止法の条文と2026年10月改正で整理しています。

研修を受けたあとに困ったときの動き方

研修で聞いた方針と職場の実態が違うと感じたときは、研修資料を「会社が約束していること」の記録として保存しておきます。資料に書かれた窓口に相談するときは、社内のハラスメント相談窓口の使い方で、相談前の準備と守秘の確かめ方を確認できます。社内で相談しにくい、または相談しても動かないときは、パワハラの相談窓口一覧から都道府県労働局の雇用環境・均等部(室)や総合労働相談コーナーを選べます。

研修の受け止め方は立場で変わります。

業務量を変えないまま「早く帰れ」と求められる、いわゆる時短ハラスメントのように、研修で扱われにくい悩みもあります。ジタハラとは?時短ハラスメントの例と、仕事を持ち帰らされるときの対応で、労働時間の問題として相談する道を紹介しています。

よくある質問

Q. ハラスメント研修を受けなかったら罰則がありますか?

労働施策総合推進法には、従業員が研修を受けなかったことへの罰則の規定はありません。ただし会社が業務として受講を命じている場合は、会社の指示や就業規則の問題として扱われます。受講が必須かどうか、期限はいつかを人事に確かめておくと安心です。

Q. ハラスメント研修を受けた時間は、勤務時間に入りますか?

業務上受講が義務づけられている研修・教育訓練の時間は、厚生労働省のガイドラインで労働時間として扱うものとされています。自主参加と報告されていても、実際には指示で受けていたと認められる時間は同じです。勤務時間外に設定されたときは、案内の文言が「必須」かどうかを確かめて、人事に尋ねます。

Q. 研修で聞いた例に自分の状況が当てはまると感じたら、どうすればいいですか?

その場で結論を出さず、言われたことや日時を記録しておき、研修で案内された社内の相談窓口か、社外の公的な窓口に相談します。該当するか微妙な場合でも広く相談に応じることが、指針で会社に求められています。

出典・参考にした公的な情報

出典の確認日:2026-10-23。制度や受付条件は変わることがあります。手続きの前に、各窓口の最新の案内を確認してください。

この記事は一般的な情報で、個別の法律判断・医療的な診断をするものではありません。

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