パワハラに刑事罰はある?暴行・脅迫・名誉毀損など刑法の罪との関係
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パワーハラスメント(パワハラ)という名前の罪はなく、パワハラを防ぐ法律(労働施策総合推進法)も、行為をした本人を罰する規定を持っていません。ただし、殴る・物を投げつける・脅す・人前でおとしめるといった行為の中身が、刑法の暴行・傷害・脅迫・強要・名誉毀損・侮辱・器物損壊に当たりうる場合は、警察に相談し、被害届や告訴を出す道があります。罪になるかを決めるのは捜査機関と裁判所なので、この記事は条文・法定刑・期限と、相談の前にそろえるものを並べます。
パワハラ自体に刑事罰はない:法律が義務づけているのは会社の措置
パワハラの定義が書かれている労働施策総合推進法31条は、事業主に「相談体制の整備その他の雇用管理上必要な措置」を義務づける条文です。2026年10月1日の改正で条番号が変わり、改正前は第30条の2でした。違反した会社への制裁は、厚生労働大臣(権限は労働局に委任できる)の助言・指導・勧告と、勧告に従わないときの公表です(42条)。報告を求められて応じない・偽った場合は20万円以下の過料(51条)ですが、過料は刑罰ではなく行政上の制裁です。仕組みの全体はパワハラ防止法に罰則はあるかを整理した記事にまとめています。
つまり「パワハラをした人を罰する」のは労働施策総合推進法ではなく、刑法の個別の罪です。どの法律が誰に向いた決まりなのかを分けておくと、相談先を選びやすくなります。
| 法律 | 誰に向いた決まりか | 違反したときの結果 | 主な相談先 |
|---|---|---|---|
| 労働施策総合推進法 | 会社(事業主) | 助言・指導・勧告、公表、過料 | 都道府県労働局 |
| 刑法 | 行為をした個人 | 拘禁刑・罰金など(起訴され有罪になった場合) | 警察・検察 |
| 民法 | 行為をした個人・会社 | 損害賠償(慰謝料を含む。709条・710条) | 弁護士・法テラス |
刑法の罪と、職場で起きる行為の重なり
パワハラ指針は6類型の一つ「身体的な攻撃」の例に殴打・足蹴り・物を投げつけることを、「精神的な攻撃」の見出しに脅迫・名誉毀損・侮辱・ひどい暴言を挙げています。言葉は刑法と重なっていますが、指針の分類と刑法の罪は別の物差しです。下の表は、条文の形に近い職場の行為を並べたもので、「この行為はこの罪になる」という判定表ではありません。
| 職場で起きうる行為 | 関係しうる条 | 法定刑(条文) | 告訴が要るか |
|---|---|---|---|
| 殴る・蹴る・胸を突く(けがはない) | 暴行 208条 | 2年以下の拘禁刑、30万円以下の罰金、拘留・科料 | 要らない |
| けがをさせる・心身に傷害を負わせる | 傷害 204条 | 15年以下の拘禁刑、50万円以下の罰金 | 要らない |
| 本人や親族の生命・身体・財産などに害を加えると告げる | 脅迫 222条 | 2年以下の拘禁刑、30万円以下の罰金 | 要らない |
| 脅しや暴行で土下座・退職届の提出など義務のないことをさせる | 強要 223条(未遂も処罰) | 3年以下の拘禁刑 | 要らない |
| 大勢の前や全員宛てのメールで、事実を挙げて評判をおとしめる | 名誉毀損 230条 | 3年以下の拘禁刑、50万円以下の罰金 | 要る(232条) |
| 事実を挙げずに、人前で「無能」などと罵る | 侮辱 231条 | 1年以下の拘禁刑、30万円以下の罰金、拘留・科料 | 要る(232条) |
| 私物や仕事道具を壊す | 器物損壊 261条 | 3年以下の拘禁刑、30万円以下の罰金・科料 | 要る(264条) |
表を読むときに押さえたい点が三つあります。一つ目に、名誉毀損は「その事実の有無にかかわらず」成立しうる条文で、内容が本当かどうかは問いません。二つ目に、名誉毀損と侮辱は「公然と」が要件なので、二人きりの場の暴言は条文の形が違います。そのかわり、害を加えると告げる言葉なら脅迫の形に近づきます。三つ目に、刑法35条は「法令又は正当な業務による行為は、罰しない」と定めており、業務上の注意や指導そのものは処罰の対象になりません。どこからが正当な業務を外れるかは、捜査機関と裁判所が事実から判断します。
指針の定義そのものはパワハラとは:3要素と6類型を指針の言葉で整理した記事で確かめられます。
刑事で動くときの流れと期限
刑事の手続きは、被害を受けた人が警察に相談するところから始まります。処罰を求める意思をはっきり示す手続きが告訴で、被害を受けた人ができると刑事訴訟法230条に定めがあり、書面か口頭で検察官または司法警察員にします(241条)。被害届との違いや受理までの流れはパワハラで被害届・告訴を考えるときの整理で扱います。
期限は2種類あります。
- 告訴の期限:名誉毀損・侮辱・器物損壊は告訴がなければ起訴できない親告罪で、告訴は犯人を知った日から6か月を過ぎるとできません(刑事訴訟法235条)。
- 公訴時効:起訴できる期間で、法定刑の重さで決まります(刑事訴訟法250条2項)。長期5年未満の拘禁刑または罰金に当たる罪は3年、長期15年以上の拘禁刑に当たる罪は10年です。条文に当てはめると、暴行・脅迫・強要・名誉毀損・侮辱・器物損壊は3年、傷害は10年になります(筆者が条文の区分に当てはめた目安。いつから数えるかなど個別の事情は警察・弁護士に確かめてください)。
いま危険がある、暴行を受けた直後、けがをしている、という場合は手続きの前に身の安全です。110番と、急がない相談の#9110の使い分けは職場で暴力・脅しを受けたときの警察への相談の記事にまとめています。
刑事・民事・会社の手続きは別々に進む
刑事の手続きが進んでも、会社の中の対応や損害の回復が自動で決まるわけではありません。目的ごとに窓口が違います。
| 目的 | 手続き | 誰が判断するか |
|---|---|---|
| 行為をした人を処罰してほしい | 被害届・告訴(刑事) | 警察・検察・裁判所 |
| 受けた損害を償ってほしい | 損害賠償の請求(民事) | 当事者の話し合い、裁判所 |
| 職場で同じことが続かないようにしてほしい | 会社の相談窓口、労働局の援助・調停 | 会社、労働局 |
会社には、事実を確かめたうえで被害者への配慮(引き離しの配置転換、行為者の謝罪など)と行為者への措置(就業規則に基づく懲戒など)を講じることが指針で求められています。会社に謝罪を求めたいときの考え方はパワハラ加害者に謝罪してほしいときの記事へ、会社の責任の考え方は安全配慮義務の基本へ進んでください。逆に、自分が加害者として退職を迫られている側なら、パワハラ加害者として退職を迫られたら:応じる前に確かめることが出発点です。
一方で、仕返しとして加害者の実名や録音をSNSに出すと、今度は自分が名誉毀損(230条)や損害賠償(民法709条)を問われる立場になりえます。刑法の名誉毀損は内容が本当でも成立しうる条文です。気持ちの整理と正当な手段はパワハラ上司に仕返ししたいときの記事で扱っています。
警察に相談する前にまとめておくこと
警察で話すときは、「パワハラを受けた」と伝えるより、いつ・どこで・誰が・何をしたかを具体的に示すほうが、どの条文の問題かを相手が考えやすくなります。
- 日時と場所(会議室、車内、飲み会の席など)
- 相手の言葉をそのままの形で(「辞めたら家族がどうなるか分かってるな」のように、言い換えずに)
- 体への接触の内容(どこを、何で、何回)と、けががあれば受診先・診断書・写真
- 壊された物の写真と、元の状態が分かるもの
- その場にいた人の名前
- メール・チャット・留守番電話の保存(消さずに日付ごと残す)
- 会社の窓口や上司に相談した日と、そのときの回答
話し方の例:「〇月〇日の午後、職場の会議室で、上司から胸を両手で突かれ、壁に背中をぶつけました。その場に同僚が2人いました。翌日に受診し、診断書をもらっています。被害の相談をしたいです。」
記録の残し方はパワハラの証拠集めの手順に、受診と診断書はパワハラで診断書をもらうときの記事に詳しく書いています。刑事の相談と並行して、会社の窓口や労働局に相談することもできます。どれか一つに絞る必要はありません。
よくある質問
Q. 上司の暴言だけでも、刑事事件として扱われることはありますか?
言葉だけでも、生命・身体・名誉・財産などに害を加えると告げる言動は脅迫(刑法222条)、人前で事実を挙げて評判をおとしめる言動は名誉毀損(230条)、人前での罵倒は侮辱(231条)の条文の形に近づきます。名誉毀損と侮辱は「公然と」が条文の要件で、二人きりの場の発言は形が違います。当たるかどうかは警察・検察・裁判所が事実から判断するので、録音やメモを持って相談してください。
Q. パワハラを放置した会社を、刑事罰で罰してもらうことはできますか?
会社がパワハラ防止の措置(労働施策総合推進法31条)を怠ったこと自体に刑罰の定めはありません。厚生労働大臣(労働局)の助言・指導・勧告、勧告に従わないときの公表、報告をしない・偽ったときの20万円以下の過料が用意されています。会社の責任を問う道は、労働局の援助・調停や民事の損害賠償になります。
Q. 名誉毀損や侮辱で告訴するなら、いつまでに動けばよいですか?
名誉毀損・侮辱・器物損壊は告訴がないと起訴できない罪(親告罪)で、告訴は犯人を知った日から6か月を過ぎるとできません(刑事訴訟法235条)。暴行・脅迫・傷害は親告罪ではありませんが、公訴時効があります。迷っている段階でも、期限があることだけは先に押さえておきます。
出典・参考にした公的な情報
- 刑法 第35条・第204条・第208条・第222条・第223条・第230条〜第232条・第261条・第264条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 刑事訴訟法 第230条・第235条・第241条・第250条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 労働施策総合推進法 第31条・第42条・第45条・第51条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 民法 第709条・第710条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 職場におけるハラスメントの防止のために(厚生労働省)
出典の確認日:2026-10-23。制度や受付条件は変わることがあります。手続きの前に、各窓口の最新の案内を確認してください。
この記事は一般的な情報で、個別の法律判断・医療的な診断をするものではありません。