復職したくないときの選択肢:退職・異動・休職延長の比べ方
この記事のもくじ
復職したくないと感じたら、「戻るか辞めるか」の二択で考えず、休職を延ばす/配置を変えて戻る/休職中に退職する/次の職場を決めてから退職する、の4つを並べて比べるのが近道です。比べる軸は、①その間の収入(傷病手当金・給与・失業保険)、②健康保険がどうなるか、③休職期間の満了日までに何をするか、の3つです。とくに傷病手当金は、退職日の過ごし方や、いったん働ける状態に戻ったかどうかで、その後に受け取れるかが変わります。決める前に、満了日と手当金の残りの期間を書き出すところから始めてください。
復職したくないときの選択肢:4つの道を並べる
まず4つの道を、収入・手続き・注意点で並べます。どれが正しいということはなく、体調と職場の状況によって向き不向きが変わります。
| 道 | その間の主な収入 | 主な手続き | 注意したいこと |
|---|---|---|---|
| 休職を延ばす | 傷病手当金(通算1年6か月の残りがある間) | 主治医の診断書、人事への延長の申し出 | 延長できるかは就業規則しだい。手当金の期間は延びない |
| 配置を変えて戻る | 給与(戻った日から手当金は止まる) | 復職の申し出、産業医面談、配置の相談 | 希望どおりの配置になるとは限らない |
| 休職中に退職する | 条件を満たせば退職後も傷病手当金(継続給付) | 書面で退職を伝える、退職後の保険・年金の切り替え | 被保険者期間が1年以上あること、退職日に仕事に就ける状態でないことなどの条件(出勤した場合の扱いは加入先に確認) |
| 次の職場を決めてから退職する | 退職までは傷病手当金、入社後は新しい給与 | 主治医と活動のペースを決める、入社日の調整 | 療養中の活動と手当金の前提が食い違わないか |
戻りたくない理由によっても、選ぶ道は変わります。加害者と同じ指示系統に戻るのが怖いだけなら、配置の配慮が得られるかを先に確かめる価値があります。会社の対応そのものに見切りをつけている、仕事の内容が合わない、といった理由なら、退職や転職のほうを中心に考えることになります。
| 戻りたくない一番の理由 | まず確かめること | 詳しい記事 |
|---|---|---|
| 加害者と顔を合わせる、指示を受ける | 配置転換・報告先の変更を検討してもらえるか | パワハラ上司がいる職場に復職するとき |
| まだ体調が戻っていない気がする | 主治医の見立てと、休職期間の上限 | 適応障害の休職を延長したいとき |
| 会社の対応に不信感がある | 相談の結果、休職中の会社の連絡の内容 | パワハラで退職するか迷うとき |
| 仕事の内容・働き方が合わない | 異動の制度、転職の見通し | 適応障害の休職中に転職活動はしていい? |
厚生労働省の職場復帰支援の手引きは、復職は「まずは元の職場」を原則としつつ、職場の要因と本人の要因が合わなくなっている場合などは、配置転換や異動の必要性を検討する必要があるとしています。戻りたくない気持ちの中身を言葉にしておくと、どの道を選ぶにしても会社や主治医との話が進めやすくなります。
お金の制度で比べる:傷病手当金・失業保険・健康保険
4つの道の違いが一番大きく出るのが、お金の制度です。ここでは、選ぶときに押さえたい点だけを並べます。金額の計算や申請のしかたは、それぞれの記事に分けています。
傷病手当金(健康保険)。 支給期間は、同じ病気について支給を始めた日から通算1年6か月です(健康保険法99条4項)。休職を延ばしても、この期間は延びません。給与が出る日は原則として支給されないので、復職すれば止まります(108条1項)。条件や計算は休職中の傷病手当金にまとめています。
退職後の継続給付。 退職日まで継続して1年以上被保険者で、退職日に手当金を受けているか受けられる状態なら、退職後も同じ病気で働けない間は受け取れます(104条)。協会けんぽは、いったん仕事に就ける状態になった後に再び就けなくなっても支給されない、と説明しています。退職を選ぶなら、退職日の決め方が大切です(退職後も傷病手当金を受け取る条件)。
失業保険(雇用保険の基本手当)。 基本手当は、働く意思と能力があるのに仕事に就けない人のための給付です。療養中ですぐ働けない間は受け取れないため、働けない状態が30日以上続くなら受給期間の延長を申請します。延長できるのは最長3年で、もとの1年と合わせて最大4年です(雇用保険法20条)。手続きはすぐ働けないときの失業保険で説明しています。
離職理由。 ハローワークの特定理由離職者の範囲には、心身の障害や疾病などで離職した人が含まれます。当たるかを判断するのはハローワークで、診断書などの資料を求められることがあります。正当な理由のない自己都合退職に当たると、離職日が2025年4月1日以降なら原則1か月の給付制限がかかります。
健康保険。 退職すると、任意継続(退職日の翌日から20日以内に申し出)、国民健康保険、家族の健康保険の扶養、のどれかに切り替えます。選び方は退職後の健康保険の選び方にあります。
満了日から逆算する:手続きを進める順番
どの道を選ぶにしても、休職期間の満了日が締め切りになります。満了日の2か月前から、次の順で動くと慌てずにすみます。
- 満了日と規程を確かめる。 就業規則の休職の条文で、満了日、延長の可否、満了時の扱い(退職か、解雇か)を読みます。満了時の扱いは休職中に解雇される?休職期間満了による退職の扱いで整理しています。
- 傷病手当金の残りを数える。 支給開始日と、これまでに支給を受けた期間を、支給決定の通知などで確かめます。
- 主治医に相談する。 「復職したくない気持ち」と「体調の見立て」を分けて話し、療養をあとどれくらい続けるべきかを聞きます。
- 道を一つに決める。 上の比較表に、自分の場合の収入と期限を書き込んでから決めます。
- 会社に伝える。 延長なら診断書を添えて申し出ます。退職なら書面で伝え、退職日を決めます。配置を変えて戻るなら、復職の申し出と同時に配置の希望を出します。
- 退職するなら、退職後の手続きを並べる。 健康保険の切り替え、年金、失業保険の受給期間延長、傷病手当金の申請を、期限の早い順に並べます。
文例(人事へ、満了時の扱いを確かめる):「休職期間の満了日と、満了までに復職できない場合の扱いを確認させてください。あわせて、休職期間を延長できる場合の手続きと必要な書類を教えていただけますでしょうか。主治医と相談のうえ、今後の希望をお伝えします。」
決める前に人事から「どうするのか」と急かされても、その場で答える必要はありません。「主治医と相談してから、○月○日までにお返事します」と期限を区切って伝えれば十分です。休職中に退職を勧められている場合は、休職中に退職勧奨を受けたらを先に読んでください。
退職を選ぶとき:伝え方を決める
退職を選んだら、次は「どう伝えるか」です。休職中は、出社して上司と面談しなくても、メールと郵送の書面で退職の意思を伝えることができます。期間の定めのない雇用なら、民法627条1項により、退職の申し入れから2週間で雇用は終わります。伝える相手は、休職中の連絡窓口になっている人事担当者にすると、加害者と直接やり取りせずにすみます。
伝え方は、人事へのメールと退職届の郵送、家族に連絡を手伝ってもらう、第三者に伝えてもらう、の3通りが考えられます。
手順の詳細、退職届の文例、受け取る書類の一覧は、次のパワハラ休職中に退職する手順:伝え方・書類・傷病手当金の注意で扱っています。
会社とのやり取りを自分で続けるのが難しいときは、第三者に退職の意思を伝えてもらう方法もあります。
退職代行を選択肢の一つとして考えるなら、運営が弁護士(法人)か労働組合か、料金に含まれるものと追加費用、休職中の事情(傷病手当金の継続給付の条件を崩さない退職日にできるか)を先に確かめます。運営形態ごとの違いは退職代行の弁護士・労働組合・民間企業の違いに、確かめる点の全体はパワハラ休職中に退職する手順にまとめています。
戻ってからつらくなったときの道も残しておく
配置を変えて戻る道を選んでも、合わなければ、もう一度考え直してかまいません。復職後に体調が崩れてきたときの見直し方はうつで休職を繰り返すとき:再休職を防ぐための見直し点で扱っています。
ただ、傷病手当金は同じ病気については通算で数えるので、復職している間は期間が減らない代わりに、再び休んだときの残りは前回の続きになります。また、復職して働ける状態に戻った後に退職すると、その後に体調を崩しても退職後の継続給付は受けられません。戻るか辞めるかを決めるときは、「戻ってだめだったら辞める」の順番で本当に困らないかを、お金の面から一度確かめておくと安心です。復職の全体の流れはパワハラ休職からの復職:主治医・産業医・会社と進める流れにあります。
よくある質問
Q. 主治医に「復職したくない」と正直に言ってもいいですか?
言ってかまいません。復職の時期は、体の回復だけでなく、職場に戻ることへの負担も含めて判断するものだからです。「何が怖いのか」「どんな条件なら戻れそうか」を分けて伝えると、診断書に書く配慮の内容や、療養をもう少し続けるかの判断に生かしてもらえます。
Q. 復職せずに休職期間が終わったら、どうなりますか?
扱いは会社の就業規則で決まります。厚生労働省のモデル就業規則のように、期間満了をもって退職とする定めを置く会社もあり、その場合は解雇の言い渡しがなくても退職になります。満了日が近いなら、延長の可否と満了時の扱いを人事に書面で確かめ、自分から退職するか、満了を待つかを主治医と相談して決めます。
Q. 休職中に転職先を探してもいいですか?
一律に禁じる法律はありませんが、就業規則の定め、傷病手当金の「療養のため仕事に就けない」という前提、主治医の療養方針と食い違わないかを先に確かめる必要があります。進め方は、休職中の転職活動の記事で整理しています。
出典・参考にした公的な情報
- 傷病手当金(全国健康保険協会(協会けんぽ))
- 健康保険法 第99条・第104条・第108条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 基本手当について(受給期間と延長)(ハローワーク(厚生労働省))
- 特定受給資格者及び特定理由離職者の範囲(ハローワーク(厚生労働省))
- 雇用保険法 第13条・第20条・第33条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き(改訂版パンフレット)(厚生労働省・労働者健康安全機構)
- 任意継続(全国健康保険協会(協会けんぽ))
- モデル就業規則(令和7年12月版)第9条(厚生労働省)
- 民法 第627条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
出典の確認日:2026-10-23。制度や受付条件は変わることがあります。手続きの前に、各窓口の最新の案内を確認してください。
この記事は一般的な情報で、個別の法律判断・医療的な診断をするものではありません。