飲食店・小売の接客でカスハラを受けたとき:店に求める対応と記録
この記事のもくじ
飲食店や小売の店頭で受けた暴言、土下座の強要、いつまでも帰らない居座りは、2026年10月1日から店を運営する会社が防ぐ措置を取る対象になりました(労働施策総合推進法第33条)。厚生労働省のカスハラ指針は、言動の内容か、手段・態様のどちらかが許容範囲を超えれば該当しうるとしています。この記事では、指針の典型例と接客の場面を照らし合わせ、店に求める対応と記録の取り方を整理します。
いま身の危険があるときは110番です。急がない相談は職場で暴力・脅しを受けたら:110番と#9110、警察への相談の仕方に、警察への相談の仕方があります。
「クレーム」と「カスハラ」の線は、内容と手段・態様で引く
指針のカスタマーハラスメント(カスハラ)の定義は、顧客等の言動が、業務の性質などに照らして社会通念上許容される範囲を超え、労働者の就業環境が害されるものです。客観的にみて許容される範囲の苦情は「いわば正当な申入れ」で、対象外です。商品の不備を指摘する、改善を求める、返金を申し出るといったこと自体は、店が受け止める仕事の一部です。
指針は、許容範囲を超えるかどうかを次の2つで見ています。
- 言動の内容:要求に理由がない、契約や提供するサービスを著しく超える、対応が著しく困難、不当な損害賠償の要求など
- 手段・態様:身体的な攻撃、精神的な攻撃、威圧的な言動、継続的・執拗な言動、拘束的な言動
内容だけが相当でない場合も、手段だけが相当でない場合も、該当しうると書かれています。店側の不適切な対応が原因や背景になっている場合があることにも、指針は留意を促しています。正当な苦情との線引きの細かい例はカスハラとクレームの違い:正当な苦情との線引きを指針の例で確認にあります。
指針の典型例を、飲食・小売の場面に置き換える
指針に載っている例を、店頭の場面に置いてみます(あてはめは筆者のもので、個別の該当判断ではありません)。
| 指針の類型 | 指針の例 | 飲食店・小売での場面 |
|---|---|---|
| 身体的な攻撃 | 殴る・蹴る・叩く、物を投げつける、わざとぶつかる、つばを吐きかける | 皿やトレーを投げる、すれ違いざまにぶつかる |
| 精神的な攻撃 | 店舗の物を壊すことやSNSへの悪評投稿をほのめかして脅す、人格を否定する言動、土下座の強要、盗撮や無断での撮影 | 「口コミに書く」と脅す、店員の顔を撮影してネットに出すと言う、謝罪を求めて床に座らせる |
| 威圧的な言動 | 大声で威圧する、反社会的な言動 | 他の客の前で怒鳴り続ける |
| 継続的・執拗な言動 | 同じ質問の執拗な繰り返し、すり替え・揚げ足取り、同様のメールの執拗な送付 | 閉店後も店に何度も電話する、同じ苦情のメールを繰り返す |
| 拘束的な言動 | 不退去・居座り・監禁、長時間の居座りや電話での拘束 | 閉店時間を過ぎても席を立たない、レジの前で数時間離れない |
| 内容が許容範囲を超えるもの | 要求に理由がない・商品と無関係な要求(性的な要求、プライバシーに関わる要求)、不当な損害賠償要求 | 連絡先や勤務時間を聞き出そうとする、料理に問題がないのに高額な賠償を求める |
指針は、強い身体的・精神的苦痛を与える態様なら、1回の言動でも就業環境を害する場合があるとしています(2⑹)。「一度きりだから報告するほどではない」と考えなくてかまいません。顧客の自宅や取引先の事務所などで受けた場合も、業務を遂行する場所であれば職場に含まれます。電話やSNS上の言動も対象です。
店が取る対応の例と、アルバイト・パートが求められること
指針は、事業主の措置を次の形で並べています。対処の内容を店ごとにあらかじめ定め、働く人に周知することが基本です。
| 指針に挙がる対応の例 | 店で確かめたいこと |
|---|---|
| 管理監督者等に直ちに報告し指示を仰ぐ。可能な限り一人で対応させない | 客が声を荒らげたとき、誰に声をかけ、誰が代わるか決まっているか |
| やり取りの録音・録画(個人情報保護法等を守る) | 店として録音や防犯カメラの記録をどう使うか、ルールがあるか |
| 十分な説明のうえでなお繰り返しの要求が続くとき、一定の時間の経過をもって退店を求める・電話を切る | 「何分たったら、誰が、どう伝えるか」の目安があるか |
| 暴行・傷害・脅迫などの犯罪に当たりうる言動は警察へ通報 | 通報の判断は誰がするか。深夜帯の責任者は誰か |
| 本社・本部等への情報共有 | 店長以外の報告先(本部、エリアマネージャー)はあるか |
| 悪質な場合の警告文の発出、出入り禁止、法令の制限内での販売・サービス提供の停止など | 悪質な客への店の方針は決まっているか |
指針は、これらを措置の例として示しています。店がどれを使うかは店や会社が決めるもので、厚生労働省のQ&Aは、改正法が事業主に措置を義務づけるものであり、事業主が顧客に対して何かをする新たな法的権限を設けたものではないと整理しています。「出入り禁止にできるはず」と言い切らず、あなたを一人にしない、責任者に交代する、報告先を決めるといった具体的な形で店に求めるほうが、話が進みます。
店舗がフランチャイズで、本部とオーナーの会社が別のときも、働く人を雇っている会社が措置の義務を負います。指針は、他の事業主から措置の協力を求められた事業主は応じるよう努めるとしています(第33条3項)。本部への情報共有は、上の表のとおり指針が対応の例に挙げているので、店長に頼んでかまいません。
その日のうちの記録と、店長への報告文例
記録の目的は、店や本部、労働局に説明するときの土台をつくることです。勤務が終わる前に、スマートフォンのメモでかまいません。
| 項目 | 書く内容の例 |
|---|---|
| 日時・場所 | 10/20 19:40〜20:30、ホール4番テーブルとレジ前 |
| 相手 | 40代くらいの男性、常連かどうか、同伴者の有無 |
| 言われたこと・されたこと | 「土下座しろ」「ネットに顔を出す」など、そのままの言葉 |
| きっかけ | 料理の提供遅れ、会計の誤りなど |
| 自分の対応 | 謝罪、返金の申し出、責任者への交代など |
| 報告 | 店長に20:05に口頭で報告、返事は「様子を見て」 |
| 周りの人 | 同じシフトの〇〇さん、近くの席の客 |
| 体調 | 動悸、眠れない、翌日の出勤が怖い |
文例(店長への報告):「今日の19時40分ごろから約50分、4番テーブルのお客様に提供の遅れを理由に大声で責められ、『土下座しろ』と言われました。途中で撮影もされました。言われた言葉と時間を記録しています。次に同じことがあったとき、私が一人で対応を続けないために、誰に声をかけて代わってもらえばよいか決めていただけますか。」
文例(本部への依頼を店長に頼む):「同じお客様からの電話が先週から3回続いています。店だけで抱えず、本部にも共有していただけないでしょうか。対応を決める窓口があれば教えてください。」
録音や撮影を自分で行ってよいかは、店のルールと個人情報保護法の扱いが関わります。指針も、会社が録音・録画を行うときは個人情報保護法等を守るとしているため、先に店長に確かめるのが安全です。
警察、労働局、心のケアの使い分け
- 警察:殴る、蹴る、物を投げる、「殺す」と脅す、帰らず業務ができない、刃物などの凶器があるといったときは110番です。刑法の暴行(第208条)、傷害(第204条)、脅迫(第222条)、強要(第223条)、威力業務妨害(第234条)に当たりうる行為は、警察に相談できます。番号の使い分けは職場で暴力・脅しを受けたら:110番と#9110、警察への相談の仕方にあります。
- 労働局:店や会社が措置を取ってくれないときは、都道府県労働局の雇用環境・均等部(室)へ。助言・指導・勧告(第36条)や調停(第37条)の仕組みがあります。
- 心身の不調:眠れない、出勤前に動悸がするなどが続くときは、休むことや受診が先です。相談先は仕事がつらい・限界のときの相談先:電話・LINEの窓口と受付時間にあります。
お客様対応全般の流れはカスハラ被害を受けたときの対処:記録・報告・会社に求める対応に、会社の義務の中身はカスハラ対策義務化で会社は何をする?従業員が確かめたい措置の中身にあります。病院での患者・家族対応は看護師が患者・家族からカスハラを受けたとき、学校での保護者対応は教員が保護者のカスハラを受けたときで扱っています。
介護の現場の利用者・家族からの被害は介護現場のカスハラ:利用者・家族からの暴言・セクハラへの対応に、保護者からの被害は教員が保護者のカスハラを受けたとき:学校・教育委員会に求める対応にあります。
よくある質問
Q. アルバイトやパートでも、店にカスハラ対策を求められますか?
指針でいう「労働者」には、正規だけでなくパートや契約社員などの非正規の人も含まれます。第33条の措置義務は、雇用形態で区別されていません。アルバイトでも、相談したことを理由に不利益な取扱いをされない旨が定められています。
Q. お客様に謝らないと帰ってもらえません。謝るしかないのでしょうか?
指針は、土下座の強要を手段・態様が許容範囲を超える例に挙げています。その場で一人で結論を出さず、「責任者に代わります」と伝えて店長や上司に引き継ぎます。引き継いだ事実と時刻を、あとで記録に残します。
Q. ネットの口コミに悪く書くと言われました。
指針は、SNSへの悪評投稿をほのめかして脅すことを、精神的な攻撃の例に挙げています。そのまま従わず、言われた言葉と日時を記録し、店長か本部に報告します。実際に投稿されたときの対応は、店や会社の窓口が検討する話です。
出典・参考にした公的な情報
- カスタマーハラスメントに関する指針(令和8年厚生労働省告示第51号)(厚生労働省)
- 労働施策総合推進法 第33条・第34条・第36条・第37条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 職場におけるハラスメントの防止のために(カスハラ・就活セクハラ対策が全事業主の義務になった旨の案内)(厚生労働省)
- 刑法 第204条・第208条・第222条・第223条・第234条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
出典の確認日:2026-10-24。制度や受付条件は変わることがあります。手続きの前に、各窓口の最新の案内を確認してください。
この記事は一般的な情報で、個別の法律判断・医療的な診断をするものではありません。