パワハラとは・判断の材料 / 制度解説

身体的な攻撃とは?叩く・物を投げるなど職場の暴力を受けたときの対応

この記事のもくじ
  1. 身体的な攻撃とは:指針が挙げる例と、挙げていない例
  2. パワハラの問題であり、刑法の問題にもなりうる
  3. 暴力を受けた直後にすること:体を守る順番
  4. 記録の書き方:暴力の記録で落としやすい項目
  5. 会社と外部の相談先:相談するときに伝えること

殴られた、蹴られた、書類やペンを投げつけられた――これらは、厚生労働省のパワハラ指針が「身体的な攻撃」の例として最初に挙げている行為です。いまも危険が続いている、けがをしたというときは110番、緊急ではないものの警察に相談したいときは警察相談専用電話「#9110」が窓口です(受付時間や伝え方は職場で暴力・脅しを受けたときの110番と#9110の使い分けにまとめています)。気持ちが追い詰められているときは、仕事がつらい・限界のときの電話とLINEの相談先を先に開いてください。この記事では、指針の例と範囲、暴力を受けた直後の順番、記録の書き方、社内外の相談先を整理します。

身体的な攻撃とは:指針が挙げる例と、挙げていない例

パワーハラスメント(パワハラ)の指針(令和2年厚生労働省告示第5号)は、職場のパワハラを6つの類型で説明しています。その1つ目が「身体的な攻撃(暴行・傷害)」です。指針の例は次のとおりで、どれも優越的な関係を背景にした言動であることが前提です。

区分 指針に書かれている例
該当すると考えられる例 ①殴打、足蹴りを行うこと ②相手に物を投げつけること
該当しないと考えられる例 ①誤ってぶつかること

読むときのポイントは3つあります。

  • 例は限定列挙ではない。 厚生労働省のパンフレットは、例はあくまで例示で、個別の事案で判断が異なりうると書いています。胸ぐらをつかむ、突き飛ばす、髪を引っ張るといった行為は例の文言そのものではありませんが、括弧書きの「暴行・傷害」に沿って整理されうる行為です。
  • 加害者は上司に限らない。 指針の「優越的な関係」には、業務に欠かせない知識や経験を持つ同僚・部下、抵抗が難しい同僚・部下の集団も含まれます。詳しくは「優越的な関係」とは何か、同僚・部下からでもパワハラになりうる場面で扱います。
  • 場所は社内に限らない。 指針の「職場」には、出張先、業務で使う車の中、取引先との打合せの場所が含まれます。勤務時間外の懇親の場でも、実質的に職務の延長と考えられるものは職場に当たると解説されています。

もう1つ、回数についてです。パンフレットと厚生労働省の解釈事項Q&Aには、強い身体的・精神的苦痛を与える態様の言動なら、1回でも就業環境を害する場合がありうるとあります。回数の考え方はパワハラは1回だけでも当たるのかを指針で読む記事で詳しく扱います。

体に当たっていない威嚇(机を強く叩く、物を床や壁に投げつける)は、身体的な攻撃の例には書かれていません。威圧的な叱責として精神的な攻撃(暴言・人格否定・長時間の叱責)の側で整理されることもあります。6つの類型を並べて見たいときはパワハラ6類型の早見表が便利です。

パワハラの問題であり、刑法の問題にもなりうる

身体的な攻撃には、2つの法律の層が重なります。

層 誰に向けたルールか 中身
労働施策総合推進法 第31条 会社(事業主) パワハラを防ぐための相談体制の整備などの措置を講じる義務。相談したことや事実確認に協力したことを理由とする解雇などの不利益な取扱いの禁止
刑法 第208条(暴行) 行為をした個人 暴行を加えて傷害に至らなかったとき、2年以下の拘禁刑若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料
刑法 第204条(傷害) 行為をした個人 人の身体を傷害したとき、15年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金

労働施策総合推進法は会社に措置を義務づける法律で、パワハラ行為そのものを罰する規定はありません。一方、殴る・蹴るといった行為は、職場で起きたかどうかに関係なく刑法の暴行・傷害に当たりうる行為として警察に相談できます。罪に当たるかどうかを決めるのは捜査機関と裁判所で、この記事やあなた自身が判定する必要はありません。被害届や告訴を考えるときの流れはパワハラで被害届・告訴を考えるときの記事、刑法の罪との関係はパワハラに刑事罰はあるかを整理した記事で扱います。

会社の側では、指針が「事後の迅速かつ適切な対応」として、双方からの事実確認、被害者と行為者を引き離すための配置転換、行為者への懲戒などの措置を例に挙げています。警察への相談と社内の相談は、どちらか一方を選ぶものではなく並行できます。

暴力を受けた直後にすること:体を守る順番

手順図:暴力を受けた直後の6つの順番
  1. その場を離れ、人のいる場所へ移る
  2. 危険が続くなら110番、緊急でない相談は#9110
  3. けががあれば受診し、診断書を頼む
  4. 当日のうちに記録を書く
  5. けが・物・場所の写真を残す
  6. 社内の相談窓口や労働局に相談する(並行してよい)
  1. その場を離れる。 言い返したり押し返したりせず、トイレ、別のフロア、人のいる休憩室など、加害者と距離が取れる場所へ移ります。会議室や車内など二人きりの場所からは、用事を作ってでも出ます。
  2. 危険の程度で窓口を分ける。 いま追いかけられている、けがをした、再び殴ると言われているなら110番です。その日は収まったが警察に話を聞いてほしいなら#9110です。番号ごとの受付時間は警察への相談の仕方をまとめた正本の記事で確かめてください。
  3. 受診する。 痛みが軽くても受診しておくと、けがの記録が医療機関に残ります。医師には「いつ、どこで、誰に、体のどこを、何で」されたかを伝え、診断書が必要だと伝えます。受診のときの伝え方はパワハラで診断書をもらうときの記事にあります。
  4. 当日のうちに記録する。 時間がたつと、言われた言葉や順番があいまいになります。次の見出しの項目を、スマートフォンのメモでも紙でもよいので書きます。
  5. 写真を残す。 赤み・あざ・傷は、数日おきに撮ると経過を残せます。投げつけられた物、壊れた物、現場の配置も撮っておきます。撮ってよいもの・避けたいものはパワハラの証拠に写真・動画を残すときの記事を見てください。
  6. 相談する。 社内の窓口、労働局、警察は同時に動いてかまいません。

記録の書き方:暴力の記録で落としやすい項目

暴力の場面は動揺が大きく、「叩かれた」の一言だけになりがちです。相談先が知りたいのは、その一言の前後です。

項目 書き方のポイント
日時 「午後」ではなく「14時10分ごろ」。分からなければ前後の予定から逆算する
場所 部屋名・席の位置・社用車の中など
行為 体のどこに、何で、何回。手か、物か。物なら何を
直前のやりとり 何の話をしていたか。自分が何を言った直後か
言葉 行為と同時に言われた言葉をそのまま
見ていた人 名前か、分からなければ「隣の島の2人」など
体と心の状態 痛む場所、その日の眠り、翌朝の出勤のつらさ
その後 誰に話したか、受診したか、会社の反応

記入例:10月20日(火)14時10分ごろ、第2会議室。週報の数字の誤りを指摘された直後、課長が手に持っていたクリアファイルを私の顔に向かって投げ、左頬に当たった。「何度言えば分かるんだ」と言われた。同席していたのは課の2人。左頬が赤くなり、17時に〇〇クリニックを受診。

この形で日ごとに残しておくと、同じ相手から言葉の攻撃も受けているときに、全体の流れを見せやすくなります。書き方の型はパワハラの記録の書き方(記入例つき)、どの記録が後で役に立つかはパワハラの証拠集めの手順で詳しく扱います。

会社と外部の相談先:相談するときに伝えること

社内の相談窓口。 会社は労働施策総合推進法第31条に基づき、相談窓口を定めて周知することが求められています。相談するときは、上の記録と診断書の写しを持ち、「加害者と同じ部屋で働くのが怖い」「二人きりの面談を避けたい」など、いま必要な配慮をはっきり伝えます。指針は、相談窓口の担当者が相談者の心身の状況や受け止めに配慮することを求めています。

労働局。 社内で取り合ってもらえない、窓口が加害者に近い人だというときは、都道府県労働局の雇用環境・均等部(室)や総合労働相談コーナーに相談できます。窓口ごとの番号と受付時間はパワハラの相談窓口一覧にあります。

警察。 暴力そのものの相談先です。110番と#9110の使い分けは正本の記事で確かめてください。

こころの相談。 眠れない、職場の建物が近づくと動悸がする、といった状態が続くときは、受診と並んで公的な電話・LINEの相談も使えます。

相談では、「パワハラかどうか判断してほしい」と頼むより、「この記録の出来事について、会社にどう対応を求められるか」「警察に相談するとき何を持っていけばよいか」と具体的に聞くと、答えを得やすくなります。体と安全を守ることが、記録や手続きより先です。

よくある質問

Q. 軽く1回叩かれただけでも、相談してよいのでしょうか?

相談してかまいません。厚生労働省のパンフレットは、強い身体的・精神的苦痛を与える態様の言動なら1回でも就業環境を害する場合がありうると説明しています。指針は、該当するか微妙な場合も広く相談に対応するよう会社に求めているので、回数を理由にためらう必要はありません。

Q. 同僚から突き飛ばされました。上司でなくても身体的な攻撃に入りますか?

指針の「優越的な関係」には、抵抗や拒絶が難しい同僚の集団や、業務に欠かせない知識・経験を持つ同僚も含まれます。一対一の同僚間で優越性がはっきりしない場合でも、暴力そのものは警察に相談できますし、職場のいじめ・嫌がらせとして総合労働相談コーナーに相談する道もあります。

Q. 机を叩く・物を壁に投げるなど、体には当たっていない場合はどう整理しますか?

指針が身体的な攻撃の例に挙げているのは、殴打・足蹴りと「相手に物を投げつけること」です。体に向けられていない威嚇は、威圧的な言動として精神的な攻撃の側から整理されることもあります。どの類型かを自分で決めるより、日時・場所・音や距離・周りにいた人を記録して相談先に見せるほうが役に立ちます。

出典・参考にした公的な情報

出典の確認日:2026-10-23。制度や受付条件は変わることがあります。手続きの前に、各窓口の最新の案内を確認してください。

この記事は一般的な情報で、個別の法律判断・医療的な診断をするものではありません。

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